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曇りのち晴れ
  

「俺がやるから任せろよ」



 自然と出てくるそんな口癖。いつから言うようになってたかな。もう覚えてねぇや。多分すげーガキの頃から。昔から頼られるのが好きだったんだ。親とかが「やっぱりお兄ちゃんは頼りになるわ」とか言うともうテンションだだ上がり。単純なんて知ってる。

 でもいつからだろう。「誰かのため」って言いながら、俺はその「誰か」を傷つけていた。



「お前手際悪ぃなぁ。貸せよ。俺がやる」



「俺がやるからお前ら休んでていいよ」



「俺一人で十分だって」



「俺がやるよ。いいって。任せろよ」





 そんなこと言うたびに、俺は周りより出来るんだって優越感に酔っていく。そして俺は、その優越感で相手を見下してまた別の優越感を覚える。そんな繰り返し。

 いつだか気が付いた。今更遅いと思ったのは、あれだけいたはずの人が誰もいなくなっていたから。うざがられてたんだって誰もいなくなった時にようやく気付いた。

 馬鹿か俺。今更遅ぇよ。見ろよあいつらが俺を見る目。俺に向ける表情。 明らかに「うわ来たよ」って感じじゃん。

 昔のメールと今のメールを見比べる。普通逆だろ。月日が経つたびに文は短く固くなる。

 電話がかかってくることもなくなった。月曜日学校に行くと休みの間にみんなで遊んでいたことを会話から知るなんてよくあることになった。

 最初はむかついた。何でハブんだよって噛み付いた。けど、そんなこと言っても誰も相手にしてくれなくなっていたんだ。



「あ、ごめん」



 それだけ。それ以上相手にする必要なんてないって言うように。

 ……ちょっと待てよ俺。痛すぎるだろこの状況。ひとりでギャーギャー騒いで、結局最後はひとりきり?



 ああ勘弁してくれ。笑えないのに笑いがこみ上げてきた。





 いつから変わったんだろう。最初はただの正義感だったのに。最初はただの善意だったのに。

 いつから、こんなに、俺って無頓着に人を傷付けるようになったんだろう。





――――ああ、もういいや。めんどくせぇ。








 学校が変わることになった。別にいいって言ったんだけど、俺がやけにやつれてきたから親が心配して学校を変えてくれた。

 自覚はなかったけど、鏡で見ると確かに頬がこけている。そういや、俺最近ちゃんと飯食ってなかったかも。

 けど環境が変わったからって俺が変わるわけじゃない。結局また同じことの繰り返しだろう。俺はまた馬鹿みたいに優越感を貪ろうとするんだ。そんでまた、うざがられてひとりになっていくんだよ。



 ……2度目はさすがに親も悲しむかな。それは嫌かも……。





 学校が変わった。驚いた。さすがは有名なイベント重視校。馬鹿みたいな連中のたまり場だ。

 そんな中俺が一番目を引いたのは小さいくせに猛獣みたいな奴。あちこちに喧嘩吹っかけてるような奴なのに、そいつの周りにはそれなりに人が集まっていた。気になったけど、それでも関わらずにいた。





 数日して、そいつと大喧嘩した。どこの世界に転校生のトラウマえぐって来る奴がいるんだよ。


 ああちくしょう。こいつこんなチビなのになんでこんなに強いんだよ。痛くて立ち上がれねぇよ馬鹿野郎……! 言葉遣いも荒いし態度も乱暴だし暴力の意味で手も早い。人付き合いだって絶対上手くない。

 ああちくしょう。でも分かっちまっちゃったじゃねぇか。こいつの周りに人がいる理由。

 嵐が過ぎ去った後に晴天が広がるように、こいつと本気で関わると、心が晴れるんだ。

 嵐のように激しい気性。猛獣のように厳しい態度。だけど真正面から相手を捉えるから、気が付くとそれに惹かれていく。誰彼構わず受ける奴じゃないけど、でも、こいつと本気でぶつかった奴がこいつの周りに集まるんだ。

 いつの間にか俺も、そんな中のひとりになっていた。今でも悪い癖は出るけれど、あいつの周りに集まる連中は、言葉の難度の違いこそあるけど全員ちゃんと言ってくれる。








 あれから結構経った。平日はのたのた歩きながら寄り道しながら買い食いしながら

だべりながらどーでもいい時間をすごした。休日は、さすがに毎週じゃないけどよく遊んだ。ハブられる時は大体別の誰かも同じ感じ。

 携帯を開くと時々顔がにやける。届くメールはみんな段々遠慮がなくなっていく。かかってくる電話やかけた電話で馬鹿話したり喧嘩もした。

 この先も続くかなって思うとまた顔がにやける。



 俺はきっと大きく見たら変わってない。今でもウザイこと平気でやる。けど、口癖だけは変わったよ。

「俺がやるから任せろよ」


 は



「とっとと終わらせるか」



 とか


「一緒にやろうぜー」


 とか


「任せた!」


 とか、そんな感じに変わった。時々前のも出るけど前より気分も意味も軽い。



 ひとりよがりがよくないって知った16歳。

 俺って結構人生経験豊富じゃない?って、前とは違う笑いがこみ上げる。

★ あとがき ★

以前ブログで書いた後々ツンデレラに登場する男子学生の心情、って感じですかね。
まだ名前は決まってないんですが、設定を考えていたらどうしても書きたくなったので書いちゃいました(−v−*)


優越感なんて誰でも持つことだと思うんです。そしてその味を知ったら「次も」って思っちゃいますよね。
脳的にそんな仕組みをしているとか何かのTVか漫画かネットで見た気がします。

この子は正にそれにはまっちゃった、って感じです。
そのために周りからうざがられてしまい桜丘に転校してきます。
そしてそれが、彼の転機に。


ちなみにこの子、実は一番仲良くなるのは悠一じゃありません(・ω・)
これまた未登場の悠一たちのクラスの学級委員長がそのポジに来ます。
何故って昔の彼にそっくりだから。
でも、委員長は彼と違って「真性」なのでめげてないしむしろどんどん励んじゃうタイプ。

いつか彼らが本編に登場する日をお待ちください^^


2011/02/26

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