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 某月某日。

 一足早い大掃除――――ではなく、単純に部屋の片づけをしていた咲也は棚の中から懐かしいものを見つけました。

「お、懐かしい」

 彼が手にしたのは使い捨てカメラ。いまやデジカメが主流となったこの時代で、それはひどくレトロな空気を漂わせている。

「……枚数まだ残ってんな」

 そう呟くと、彼はすぐににっと笑みを閃かせてカメラを手に外に出た。思い立ったが吉日。その頭の中にはそんな言葉が浮かんでいた。



〜食堂〜
 どこにいこうか。カメラを手の中でいじりながらそんなことを考えていると、通りかかった食堂から声が聞こえてくる。

「ああああっ、わ、割れちゃいました……!」
「好……何でも力任せにするんじゃありません。怪我はありませんか?」
「大丈夫です。うぅ、ごめんなさい〜」

 中を覗くとそこには風兄妹の姿。手元の悲惨さを見ると、ジャムの蓋を開けようとして誤ってビンを割ってしまったのが伺える。

「大丈夫っすか? 謝さん好さん」

 見かねて声をかけると、手際よく掃除し手を綺麗にしていた風兄妹は同時に咲也を振り向いた。表情の明確さやパーツこそ違うが、
やはりこの兄妹は良く似ている。咲也は頭の隅でそんなことを考えた。

「はい、ご心配には及びません咲也様」
「お騒がせしてすみませんー……あれ、カメラですか?」

 冷静に頭を下げた謝とは逆に、変なところを見られたと少し恥ずかしがりながら好が笑って答える。そしてその直後、咲也の手の内の
カメラに気付く。咲也も同じく気付くと、簡単に「余ってて」と説明してレンズをふたりに向けた。

「一枚いいですか?」
 問うと謝は「仕事中だから」と言いかけた。言った、ではなく言いかけたで止まったのはもうひとりの対象が明るい笑顔で彼に飛びついたためだ。

「咲也さん、今です今!」

 抜けるような笑顔を寄こす彼女に咲也は笑顔で応じ、謝の呆れた表情と好の満面の笑みをファインダーに収める。



「ありがとーございまーす。あとで焼き増しして渡しますね!」
「はーい! 期待してますねー」
「……はぁ、まったくこの子は」



〜庭〜
 謝から庭に何人かいるという情報を得た咲也は勇んで外へと出た。風は無風に近く日差しは暖か。季節らしい寒さはなかったので上着は羽織らずとも問題ない。

 そうして人を探してさ迷い歩いていると、咲也の視線は友人たちの姿を見つける。しかしすぐには声をかける気にはならなかった。あまりに、幸せそうだったから。

「……市村幸せそうな顔してんなー」

 視線の先にいたのは坂になった草原に腰を下ろしている陽菜乃。そしてその隣で寝そべっているのは悠一だ。どうやら悠一は寝ているらしい。頭の後ろで手を組んだまま仰向けに転がって微動だにしない。

「あいつがあんなに警戒心解くなんて珍しいな」

 早くくっつけばいいのに。そんなことを考えながら咲也はレンズを彼らに向けてシャッターを切る。



「えっ!?」

 シャッター音に気付いて驚いた表情で顔を上げた陽菜乃は、そこにカメラを構えた咲也がいることにはじめて気付いて顔を赤くする。言い訳も出てこない彼女に咲也は快活に笑いかけた。

「ベストショットいただきー。現像したらあげるからなー」
「ちょ、か、片倉くん!?」

 慌てる彼女を背後に、咲也はお邪魔無視は退散と唱えながらそこから走り去っていく。残された陽菜乃は赤い顔を両手で覆って声もなく悶えるのであった。



〜中庭1〜
「あ、片倉くんだ。こんにちはー」

 中庭の端まで駆けて来た咲也をかわいい声が呼び止める。これが本当に女の子だったら良かったのに。そんなことを考えながら咲也は歩調を緩め声の主を、そして9割の確立でその隣にいるもうひとりに向き直った。

「ちわっす。鬼笠先輩、絹塚先輩」

 声をかけてきたのは備え付けられたベンチに座っている絹塚雅美の方だが、彼の方に先に挨拶するとベンチの後ろによりかかっている鬼笠雪宏のいらない怒りを買うので気をつける。この男女逆転カップルの彼女・雪宏は悠一にも負けないくらい強く、喧嘩っ早い。

「それ使い捨てカメラ? そんなの持ってどうしたの?」
「お前よさげなデジカメ持ってなかったっけ?」

 咲也の手元に気付いたのかふたりはそろってそれについて質問してくる。咲也が簡単に状況を説明すると、雅美は「じゃあ」と弾んだ声を出して後ろにいる雪宏の両腕を取ると自身を抱き寄せさせるようなポーズを取った。

「ぼくと雪ちゃんも撮って」

 笑顔でねだられ、そもそも断るつもりはなかったが後ろで睨みを利かせている雪宏を前にいっそう断る気を失せさせ咲也は微かに引きつる笑顔で了承を口にする。



「わーい、ありがとう片倉くん」
「サンキュー。あ、片倉」
「はい?」

 撮り終わった途端にベンチの裏から出てきた雪宏はそこから少しだけ離れつつ咲也を手招きする。言われるがままに寄っていくと、突然肩を組まれた。自身よりも若干背の高い雪宏から寄こされるひどい圧迫感に咲也はダラダラと汗を流す。

「その写真俺より先に他の野郎に見せたら殺す」
「うっす! 了解しました! 必ずお持ちします!!」

 口元は笑っているけど目がマジだ。咲也は力いっぱい返事をして敬礼までする始末。満足げに雅美の元へ帰っていく彼女を見送ってから、咲也は一礼を残して慌ててそこから立ち去った。



〜中庭2〜
 何とか逃げ切った咲也は、その先で激しい言い合いをしているラルムとダニエル、そしてそのふたりを止めるでもなくむしろ嬉々としてスケッチしているエイラを見つける。

「今度はあのふたり何で喧嘩してんの?」

 エイラの背後から問うと、ペンを止めたエイラは咲也の方を振り向いた。

「さぁ? あたしもさっき来たばっかりだからさー。でも内容は重要だけど心配するほどたいしたことじゃないっぽいよ。さっきからソースがバターがとか聞こえてくるから」

 要は食べ方の喧嘩らしい。アホらしいと笑いながら、咲也は2、3歩下がってカメラを構える。



「写真? あとで見せてね〜」
「おう。じゃなー」

 簡単なやり取りをして、咲也はそこから離れていく。その瞬間に殴り合いに発展したらしく物騒な音が聞こえてくるが、エイラの十八番が登場したらしい。振り向かない。俺は絶対振り向かないぞ!



〜中庭3〜
 エイラたちのいた場所から少しだけ離れると、ファンタジー組や歴史組の若い面々が半袖や腕まくりをした状態で地面に転がっていた。息を荒くして汗だぐになっている所を見るに、修練でもしていたのだろうか。

「おつかれーっす。何してんの?」

 一番近くに転がっていた季元に声をかける。季元は垂れてきていた汗を拳で拭いながら咲也を見上げてくる。

「あ、こんにちは。いえ、今あの方に稽古をつけてもらっていたのですが……」

 そう言って彼が指差した先にいるのは制服姿のエルマと修練着の周孝、そして飛び入りしたのか私服のライナスがいた。そしてそんな彼らを一手に相手しているのは同じく私服のヴィンセントだ。どうやら彼が「あの方」らしい。3人――――それ以上を相手にして息切れひとつ起こしていないとは、伝説のハンターはやはり恐ろしい。

 そんなことを考えながら、咲也はぱちりとシャッターを切る。



 ちょうどよくエルマが顔面を打たれ周孝が吹き飛ばされた瞬間が撮れてしまった。これ見せたらエルマたちに怒られるかな。そんなことを考えていると、吹き飛んだ周孝が少し遠くにあった太めの木に激突する。

 大丈夫かと心配していると、大きく揺れた木から何かが落ちてきた。

「きゃっ!?」

 悲鳴とともに落ちてきた何かは空中で見事に体を回転させ腰を打つことを免れる。四肢を地面について着地したその人物は、しかし寝ぼけているかのようにふらっとするとそのまま顔から地面に倒れてしまった。咲也は慌ててそちらに向かう。

「ちょ、大丈夫ですか龍真さん!?」

 落ちてきたのは龍真だった。木の上で寝ることが子供の頃からのくせだという彼女は落ちなれているのか普通に起き上がって木を背に座りなおす。恐らく先の回転は反射だったのだろう。眼差しが妙に寝ぼけていた。

「りゅーしんさん! 大丈夫ですか?」

 肩をゆするとはっとして龍真の目線が明瞭になる。

「あ、あはは。ごめん大丈夫」

 頬を掻きばつが悪そうな笑みを浮かべる彼女の頬は擦り切れており、頭には上にあったらしい木の葉が乗っている。咲也は無事な様子に安堵しながらカメラを構え、直後シャッターを切る。



 この写真が後ほど龍真が自世界の人間に怒られるネタとなることは、この時咲也も龍真も気づいていなかった。



〜12月3日〜
 あちこちを周り無事にフイルムを使い切った咲也は、その日のうちにカメラを現像に出した。が、この日カメラは何故かそのままの状態で帰ってくる。なんでもあと1枚が残っていたらしい。終わったと思った頃に周りが騒がしくて気がそれていたのが主な原因だろうか。

「まあ、最後は当然俺っしょ」

 人を撮ってばかりで自身を一度も映していなかったことを少しばかり気にしていたのでちょうどいい。そう思って誰かにカメラを頼もうとすると、ちょうど一緒にいた友人たちがこぞって群がってきた。

「あー、僕も入る」
「俺も俺も!」
「俺はいい」

 しかし一番近くにいたのにあえて逆方向へ行こうとする悠一。咲也たちは示し合わせることもせず同時に彼を掴んで引き止めた。

「「「まあそういわずに」」」
「ってめぇら放しやがれ!」

 暴れるのを必死に縫いとめ、その間に同じく近くにいた陽菜乃がカメラを持っていってくれた。咲也は悠一を背後から腕で押さえつけ、もう片方を自身のあごに寄せてカッコをつける。

「イチー、いいぞ今だー!」
「今だじゃねぇ! 咲也、放せ! 聖てめぇも頭撫でんなっ」
「はーい。じゃあいくよー。はいチーズ」



「って撮るんじゃねぇよ市村っ」
「悠、往生際悪いぞー」
「そうだよ悠一君」
「そんな嫌がるなよ〜」
「〜くそっ、てめぇら後で覚えとけよ」

 こうして最後の一枚が終わり、使い捨てカメラは無事に現像に向かったのであった。




Happy Birthday Sakuya!!












咲也の誕生日です。
去年忘れてしまったので今年は豪華に!
ごめんホントごめん! 私が悪かったからこれで許してくれ咲也Σ

それでは、咲也誕生日おめでとう!



  2011/12/11
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