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忍題「自由」

※注意※
このフラッシュは基本的にクリックで先に進めていきます。















あなたの選択は……?



背景・素材を借りたサイト様
ぐったりにゃんこ様


○登場人物○


・【鳥】:主人公

・白い人

・主



○作品○


前回の忍題「花」以来のFlash作品です(TOPの紹介は抜きで)

今回のテーマが「自由」と言うことだったので【鳥】と呼ばれる
少女を主人公にしてみました。


よく言われますが、「自由」と「好き勝手」の違いってそこに
「責任」があるかどうかですよね。


いえまあ、何を思うかはご覧くださった皆さんにお任せなんですがね(´v`;)



2011/02/06


白い人目線で短編書いたので下に追加します。

2011/01/07



Side White


 夜の帳が下りる頃、この館の主の部屋の周辺は本当に人が住んでいるのかと疑いたくなるほどに静かになる。

 

 【白】はその中を悠々と、まるで猫のように足音を立てずに進んで目的地の扉を開いた。その音すらさせずに中へ入り込むと、横道にそれずに一直線に大きな寝台の横に立つ。

 寝台にはしわだらけの老人が深くまぶたを閉じて横たわっていた。

 まるで死んでいるみたいだ。そんなことを思いながら、【白】は少しだけ腰を曲げて

老人に顔を近づける。

「おじいちゃん、来たよ」

 そう声をかけると、老人は少しの間を空けて重々しくまぶたを開いた。中から覗く双眸が放つ眼光は老人のものとは思えないほど鋭い。御年(おんとし)90を超える身とはとても思えないそれは、確かに彼の財産と彼が着く座を狙う者たちに二の足を踏ませるに十分だろう。

 さらにこの老人、警戒心が非常に強い上に頑強な「手足」を持っており、これまでも何人かの同業者が彼を狙って返り討ちに遭っていた。

 そんな老人に多少の興味は湧いたがわざわざ足を運ぶ気にもなれず、【白】はこれまでこの老人に関わることはしてこなかった。

 しかし数日前、【白】はこの老人に人づてに呼び出された。

「……お前が例の殺し屋か。まだ若造ではないか」

老人は闇にあってなお目を引く異色の白を横たわりながら無遠慮に眺めてくる。【白】は反論を唱えることもなければ異議を目や表情に宿すこともせずに子供のように無邪気な笑みを老人に落とし続けた。

 ややあって、老人は深く息を吐くとまた目をつぶる。それがこのやり取りの終了を意味していることに気付くと、【白】はすぐに話を変えた。この老人から依頼されたのはとある(・・・)人物(・・)の殺害。普段なら言われた通りにするだけだが、今回ばかりはさすがの【白】も確認せざるを得なかった。

「ねえおじいちゃん、ターゲット間違えてるってことない? ぼけてないよね?」

 老人を知る者であればたとえ子供でもこのような不遜なことを言える者はいない。だが【白】は一切の恐れを浮かべずに堂々とそう尋ねる。老人は目を細めじろりと【白】を睨みつけた。

「余計な口を叩くな。お前は黙って殺せばいいのだ――――この私を」

 まるで「庭の草刈でもしろ」と告げるような口調で老人ははっきりと言葉を紡ぐ。そう、【白】が彼から受けた依頼は、他の誰でもない、彼自身の殺害だった。

「分からないなぁ。どうしてわざわざ今死ぬ必要があるの? おじいちゃんの年じゃどうせ生きてられるのなんてあと数年じゃない」

 理解不能だと満面に浮かべ、【白】は歯に衣着せぬ発言を続ける。その彼から老人はわずかに目を逸らす。

「……ただ死ぬだけでは駄目なのだ」

 わずかに開いた唇からこぼれるように流れた言葉に【白】は首をかしげた。しかし、何を言っているのかと思ったのはその一瞬だけ。次には【白】は彼が誰を思い浮かべてその言葉を告げたのかを察する。

 殺されたがっているわりに、彼は今回の依頼で「なるべく自然死に見えるように」と条件をつけている。つまりそれは、殺されたという事実の他に「誰も周りから疑われない」という状況を必要としているということだ。

 この孤独な男がそこまで気を遣う相手など、【白】が調べた限りではたったひとりしかいない。――――主のために歌い、主のためだけに生きる、寂しい目をした鳥の少女。

「それがどうして鳥さんのためなの?」

 ほぼ確信を持ってそう問いかけると、老人はやはり一度睨みつけてきたが、その口は【白】が知る以上に軽い。

「ただ死んだだけでは、あれは私の後を追いかねん」

「ああ、追いかけるねあのタイプは。間違いなく自殺するよ」

 あっさりと言ってのけるとまた睨まれてしまう。今回は先ほどよりも険が強まった。どうやら【白】が思っている以上にこの男はあの少女を大事にしているらしい。

「――――そうなって欲しくないのだ。だが今更言葉で何を言ってもあれは聞かんだろう。ああ見えて意地が強い。そのくせ、このような意地の悪い爺によく仕えよる。……あれはの、きらびやかなドレスをやっても高い宝石を与えても頭を下げるだけだった。だがたまに私が褒めるとまるで百金の宝を得たかのように笑うのだ。たかが一言でも」

 夜に溶けて消えそうなか細い声。それは微かに涙に濡れて、しかし夜目の聞く【白】の視界に映るその表情はどこか安らかで、【白】は奇異なものを見ている気分になる。

 これが、裏の世界にまで幅を利かせた男だというのか。ただの小さな老人ではないか。

 そんなことが頭をよぎるが、特別何か言うでもなく老人の言葉に耳を傾けていた。

「私が殺されるという、それほどの衝撃があれば、荒療治だが殻を破れるかもしれん」

「かも、って、そんな曖昧な予想で死ぬ気なの? 狂ってるねおじいちゃん」

 もっともそれぐらいでなければその背に負った巨大なものをこの年まで下ろさずにいられるわけもないであろうがと、【白】は口に出さずにそう思う。

「……そのためにお前を選んだのだ。お前は余計な殺しはしないと聞いた。職業柄憎まれるのは慣れているだろう? せいぜいあれに生きる気力を与えてくれ」

「僕に憎まれ役になれってことね。まあ別にいいけどさ。でもあの子……」

「これ以上話すことはない。さっさと薬をよこせ」

 言葉尻を乱暴にさらい、老人は枯れ木のような手を差し出した。【白】は少しの間唇を尖らせるが、すぐにそれを解き、袖を探って折りたたんだ紙を取り出す。それを開くと中から黒い丸薬が姿を現せた。【白】は紙の上を滑らせ老人の手にそれを落とす。

「一応要望通りの薬だけど、本当にそれでいいの? 心臓への負担凄いから苦しいよそれ。別の薬も持ってきてるし、そっちにしたら?」

「ふん、殺し屋が無駄な気を遣うな」

「気遣ってるわけじゃないよ。僕、毒殺って楽だから好きだけど苦しむ姿見るのが好きなわけじゃないんだよね」

 子供のように拗ねた顔を見せると、老人ははじめて顔のしわを深くした。

「変わった殺し屋だ。殺しを楽しまんのか」

「殺し屋さんはね、楽しまない方が有能なんだよ」

 人を殺すのを楽しむ輩は大抵快楽の中で隙を突かれて死んでいく。それをよく知っている【白】に、あえて楽しもうという気が起きようはずがなかった。

 老人は【白】の台詞に口元を歪めてから、小さな声で後事を頼み、手に乗った丸薬を口に含んだ。それが喉を通過していくと、それほど待たずに老人に異変が起こり出す。

「うぅ……がっ……げあっ……!!」

 おかしなうめき声を上げ始め、喉や胸を苦しげにかきむしり、老人は寝台の上でもがき始めた。

 辺りに漂い始める血の匂いに包まれながら、【白】はそれを静かに見つめ続けた。

 ややあってその動きがぴたりと止まりだした頃、聴覚が微かな音を聞きつける。扉を開く音だ。続いて小走りに近付いてくる軽めの足音。間違いなく鳥の少女だ。

「――――ねえおじいちゃん、多分あなたは彼女が僕を殺そうと思いながら生きてくれるのを望んでたんだろうね。でも、彼女はそういう子なのかな」

 最後に身体を大きく跳ねさせ完全に絶命した老人を見下ろし、【白】は静かに呟いた。それと同時に、扉がノックされ、すぐにかの少女が部屋に踏み入ってくる。

 

 

 

 

 後日のこと、【白】ははじめて自ら選択した【鳥】の様子を見に行った。自らが選んだ場所で生きる彼女は、主の予測と反し【白】のことなど忘れたように生きていた。

 だがこれが普通であり、【白】はむしろこの未来を予想していた。

 彼女にとっての老人はとても大きな存在であっただろうが、人が人を憎みながら生きるのにはかなりの力が要るもの。今まで流されてきた少女に、そんな気力も体力もあるはずがないのだ。

「……まあでも、依頼はこなしたからいいよね? おじいちゃん」

 すでに届かない声を世界に投げ捨て、【白】は【鳥】に背中を向ける。

 金輪際、彼女と道が交わることはないだろう、と。






                           




風吹く宮(http://kazezukumiya.kagechiyo.net/)