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第2話 「消えた存在」 3
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 去っていくティナの足音を背中で聞いていたハイネルは、やがてそれが聞こえなくなると小さなため息をついて顔をクシャリと歪める。今にも泣き出しそうな顔をする彼に気付いたのか、イユがその前まで来て少し身を屈めた。
「ねーぇ、探してる方ってどーゆう方なの?」
「あ、えっと……僕の幼馴染で、レティシア・ウェルバーグっていう女の子なんです。あ、って言っても、僕と同い年なんでもう23才のはずです」
「23んん? 嘘っ、あんたそんな行ってんの? 20行ってっか行ってないかだと思ってた……」
 この童顔ではそう思っても仕方ないなと内心で考えながらも、イユはエルマの頭を引っぱたく。高いいい音がした。
「失礼でしょ。まぁでも、そーなるとあたしと同い年なのねぇ」
「イユと同い年ってのが一番信じられな」
「エルマ。いい加減にしないと刺されるぞ」
 ため息交じりの呆れた声で注意しつつアズハはエルマの頭を大きな手で掴んで乱暴に前のめりにさせる。その頭があった場所をイユの細い手が薙いだ。舌打ちが響く。
「――続けても……?」
 おどおどと尋ねるハイネルにイユはわざとらしく「おほほ」と笑って先を促す。
「えっと、それでレティシアは大隊長さんと同じ紫の髪と目をしてて、顔も――僕の記憶違いじゃなかったらそっくりなんです。だから思わず……」
 そう言ってハイネルは目を伏せた。少し震えている拳は握り締められている。
「レティシアさん行方不明なの? いつから?」
 尋ねられ、ハイネルはふっとまぶたを下ろした。
「14年前です。9歳の時――『魔者(まもの)』と遭遇してしまって。僕はその時気絶してしまい、次に目を覚ましたとき、一緒にいたレティシアの姿はどこにもありませんでした。……それから数日後、レティシアのお葬式も開かれました」
 それまで神妙な顔をして聞いていたエルマはそこで「えっ」と大きな声を出した。話がおかしい。ハイネルはそのレティシアという女性を探しているはずだ。なのに、何故"彼女はすでに死んでいる"のか。訝かしげな顔をして何と問うべきか迷っているエルマに、ハイネルは微苦笑する。
「僕もレティシアは死んでしまったんだと思っていました。――でも」



 それはレティシアの死から1年経つか経たないかの頃のこと。ある祭りの夜、子供達が寝静まった時分、寝付けずに大人たちの集まる大広場へと向かった。そこで大人達が交わしている言葉に多大な衝撃を受けたのを今でも明晰に覚えている。
 その内容は幼かったこともありはっきりは記憶に残っていない。
 だがこの言葉だけは、はっきりと記憶の中に姿を刻んでいる。

『レティシアが村を出てからもうすぐ1年。元気にしているかねぇ?』

 それは親しい幼馴染の死を受け入れきれず時折泣き伏していたハイネルにとってまさに青天の霹靂だった。
 レティシアが生きている。
 その事実はハイネルの人生の目標を定めさせた。どんなにかかっても彼女を見つけ出す。という目標を――――。


 

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