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終話 「私は私」 4
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 がやがやと、5人で話しているとは思えない騒ぎを見つめ、クレイドとラムダは静かに笑っていた。

「一時はどうなるかと思ったが、もう大丈夫みたいだな」

「諸事が残っている」

「わーってるよ。退団してーなんて言ってねーだろが」

「そうしておくれ。まだまだ仕事はたくさんあるからね」

 にっこりと優しい笑みを浮かべるジョーカーにクレイドは微苦笑して分かってますよと返す。それから、話をしている後継者達に聞こえないようにジョーカーに呼びかけた。

「何とかなったようで本当によかったですね。――正直不安だったんじゃないすか?」

 小声の問いかけに、ジョーカーも心得ているようで小声で返す。

「それはね。あの子達はとても意地っ張りな子達だから。――でも」

 満身創痍と言っても間違いはないというのに元気に声を出して笑い合う若者達を見つめ、ジョーカーは双眸を細める。

「あの子達はあんな状況をも覆して見せた。まったく、若者の可能性というものは本当に無限なものだと再認識させられてしまったよ」

 嬉しそうな言葉は側の騎士2人の胸にジワリとしみこんだ。本当に、あんなに頼りなかったのに今では一目置ける騎士へと変貌している。やはり、未来がある者は強い。







 奥で古株たちが相好を崩したその時、少し黙って何かを考えていたティナが思い至ったように顔を上げ皆に呼びかける。視線が一斉に彼女に集まった。

「ティナ?」

「レティシア?」

 呼びかけにティナはそれぞれの顔を見つめた。その誰もが、ティナを、レティシアを、見つめ返す。その視線の先に確かに「自分」がいると感じ、ティナは深い呼吸を繰り返した。





 なりたい自分と本当の自分。差が激しすぎて苦しかった。今までの自分が嫌いすぎて、違う自分になりたいと思ってた。

 こうなりたい、って、そう思ってるのにどうしようもなくて、それがとっても辛かった。なんとかなったと思ったら、それもなんだかしっくりこなくて。

 だけど、嫌いな自分も上手く出来ない自分も、受け入れてみたらこんなに心が軽くなった。受け入れてみたら、ほんの少しだけ、なりたい自分に近付けた気がした。





 ティナから清々しい笑顔がこぼれる。長きトンネルを抜け切った少女の笑みは、晴れやかな天(そら)の如く澄み切っていた。

「私、凄く幸せ者だよね」

 胸を張って言えるのは、きっとここにこうして笑っていられるから。皆が受け入れてくれたからティナもレティシアもここにいられる。悩みすぎて周りに当り散らしていた彼女を、時にぶつかり時に叱り時に宥め時に見守ってくれる彼らの存在があったからこそだ。

 これが幸せと言わずになんと言うのだろうか。

 自分自身がはっきりした今、もうティナを遮るものはない。今その視界はとても明瞭だ。自分自身を偽らずにいられることがこれほど気分がいいなど知らなかった。

「――うん、私、すっごく幸せだ」

 にっと笑った彼女の笑顔はどこまでも晴れやかで、見ていた騎士たちも幼馴染もつられて笑みをこぼしていた。

 窓の外には、団舎の中で療養しているにはもったいないほどに澄んだ青空が広がっている。

 

 (完)



  

あとがき

 最初に書いたのは中学生の頃で、その後加筆・修正したのがこの作品となります。迷って悩んで、それでも成長する姿が少しでも伝われば幸いです。

掲載 2010年3月*日

 

 

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