第6話 「それぞれの思い」 3
森を出たティナはちょうどその時に、火の灯っていないランプを手にし森に向かっていたイユと顔を合わせた。イユはティナを見つけほっとした顔をする。
「あらよかったティナ。探してたのよ。森に入る手間が省けたわ」
胸に手を当てるイユにティナは首を傾げた。
「どうしたの? 何かあった?」
大隊長スペードの顔になるティナ。イユは笑って胸の前で手を振る。
「あ、違うわよぁ? ジョーカー総隊長がティナを連れてきなさいって仰おっしゃったから。さぁさ、お待たせしちゃ申し訳ないわ。行きましょ?」
言下ティナの手を取り歩き出す。近場にあるスペード隊の団舎から来たのでティナは歩きだったし、イユも一度寄ってからこちらに来たらしく歩きだった。なので2人は簡単に整えられた道を並んで歩くこととなる。つないだ手が相手のあたたかさを伝えてくれた。ティナの歩調に合わせて歩いてくれていたイユは、不意にぎゅっと握る手に力を込めてくる。その名を呼び言外にどうしたのか尋ねるティナに彼は目を向けない。その代わり、口元に苦笑に似た笑みを浮かべる。
「ねーぇティナ? あたし、頼りになんないかしら?」
「え?」
「じゃなかったら信頼できない? それとも嫌いかしら?」
「ちょっ、ちょっと待ってよイユッ!」
ティナは立ち止まると強くイユの腕を引き、その美麗な顔を、何かを憂いている双眸を、自分の方に向けさせた。
「何言ってるの? どうしてそんなこと言うの? 何かあったの? 私何かした?」
慌てて矢継ぎ早に尋ねてくるティナの目には困惑が色濃く浮かんでいる。それを間近で見つめ、イユはふっと微笑んだ。まるで泣き顔のようだと思ったのは一瞬。次には、ティナはイユに優しく抱き締められていた。
「――ごめんなさい、ちょっと疲れてたのかも。やぁねぇ、被害妄想なんて。……ホントにごめんなさいね」
さらりと音を立ててイユの紅梅色の長い髪がティナの頬へ落ちてくる。斜陽を受けて更に赤みを増したそれを視界に映しながら、ティナはイユを抱き締め返した。
「イユはとっても頼りになる。凄く信頼してる。それに大好きだよ。本当に。だからそーゆーこと言わないで。ね?」
気遣うティナの声は優しく、イユは泣きそうな顔でまた笑う。
「あたしも、ティナのこと大好きよ。本当に――本当に、優しい子――」
抱き締めてくるイユの腕の力が少し強くなった。だがティナは黙って受け入れる。同い年の男性。しかもこんな美形なのだ。こんな見た目だろうが曲がりなりにも23の乙女であるティナにだって全く照れがないわけではない。しかし彼から感じるぬくもりは男女のそれというよりむしろ母親との抱擁を思い出させる。記憶の隅の隅に埋もれ、もうはっきりとは思い出せない母との――。
かすかに痛んだ胸に渦巻く思いは、はたしてティナのものかそれともレティシアのものか。ティナには分からなかった。