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第7話 「嵐の前の不協和音」 1
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 光すら満足に差し込まぬ茂った森の奥深く、多くの影がひしめいている。何かを待ち焦がれるように、今か今かとその目は異様な輝きを発していた。その内の一匹が何を思ってか飛び上がる。人の形を成した異形のソレはコウモリのものによく似た羽をばたつかせて空へ舞い上がる。辛抱できなかったのだろう。奇声を上げるソレからは知性の欠片かけらすら窺うかがえなかった。ひしめく影――魔者たちの視線が一斉にソレに向けられる。そして彼らに見守られる中で、ソレは目も当てられぬほど無残に潰された。飛び散る黒い血や肉片を、下に居並ぶ魔者たちは大口を開け我先にと口に入れていく。

 そのおぞましい光景を眺め、彼らにかしずかれていた一際存在感を放つ影は唇の端を上げて笑った。それは彼らに対する嘲り。自分の命に従わぬものをこの場から動かずに滅せられることへの優越感。そして自らの力の強大さに感じる満足。奇怪な音を喉で立てると、ソレは視線をずらして自分の後ろに立つものを視界に入れてさらに邪悪な笑みを深める。

 最高に扱いづらいが、最高に使える存在。

 今度こそ勝機は我が手にある。そう確信し、ソレは森中に響き渡るのではないかというほどの大声で笑った。

 育ちきった火種は、今ここで火をつける。暗き森の、その奥で。


 

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