どうしようか、と。
(しまった。ついつい話しすぎたが、この場に彼と私しかいない上に彼に案内してもらわないと私はどこにどう向かえばいいのか分からん。感情のままに動きすぎたか)
やはり自分は浮かれているのだろうか。真顔の下でそんなことを考えていると、背後でアランが立ち上がる気配がした。そのまま振り返れずに待機していると、彼はセザリスの隣に立つ。視線を感じたので目だけをそちらに向ければ、アランに真顔で見上げられていた。まずいか、と思いつつも、ポーカーフェイスを心がけて「どうした?」と冷静に返す。
「……要約すると、昔セザリスさんも兄弟関係で失敗したから同じ轍を踏ませたくなかったってことですよね?」
「ああ」
「それはおれを心配してってことですよね?」
「そのつもりだ」
「じゃあセザリスさんはハーティじゃなくておれの味方ってことですよね?」
「ああ。……ん?」
間違ってないが正しいとも言いづらい確認に返事をしてから気付いたセザリスは、正面に戻していた顔を再びアランに向けた。そうすると、それまで大人びた仕事人の顔をしていた少年は、年相応の明るい笑顔を浮かべる。
「やった! 何か知らないですけど、おれの周りすぐ上の兄以外みーーーんなハーティの肩持つから複雑だったんです。でもセザリスさんはおれの味方なんですもんね」
ね? と期待を込めて輝く双眸を向けられながらの再確認に、セザリスは頷くしかなかった。いや、別にそもそも否定するつもりもなかったのだが――。
「……まあ、アラン君には世話に」
「アランでいいですよ!」
明るく訂正され、呼ばないわけにはいかなくなったセザリスは戸惑いながら軽く眉に指を当てる。
「…………アランには世話になったからな。どちらかといえば君の味方だな」
視線に込められた期待に負けて肯定すれば、アランはさらに嬉しそうに両拳を握り締めた。その顔に浮かぶ少年らしさに、戸惑っていたセザリスは気が抜けたようにふっと笑う。
(――ああ、もしかして、これが「弟に頼られる兄」の感覚なんだろうか)
ふと気付き、セザリスは内心で納得したように手の平に拳を打ちつけた。幼少期にあまりロドリグと仲が良くなかったセザリスは、今更ながらに「兄」というものに憧れを抱いている。――例えるなら、「頼られる兄」「甘やかせる兄」などだろうか。今は仲も改善しているが、さすがにもうロドリグも大人なので面と向かって甘やかせはしない。のだが、ささやかにその機会に恵まれないものかと願っていたりする。
そんなセザリスの兄願望と、素直に適度に慕ってくれるアランの天然末っ子気質はどうやら相性がいいらしい。自覚すると楽しくなったのか、セザリスは試しにと言わんばかりにアランの頭を撫でてみた。一瞬「おや?」という顔をしたアランだが、すぐにまた笑う。彼の心情は今「自分の味方が出来た」という喜びが大半を占めていた。
「ふむ。アラン、この後は仕事は置いておいて、君が好きな場所に連れて行ってくれるか? 住民目線でも歩いてみたい」
観光気分が戻ってきたセザリスが提案すると、アランは「喜んで!」と少年の顔のまま歩き出す。それでもちゃんとアシスタンツに後片付けを頼むのを忘れない辺りやはり仕事人としての気質は根っからのようだ。
その日の夜、歓迎のパーティが始まる頃にはすっかり仲良くなったふたりに、末弟取られた勢のミルトン兄弟、兄取られた勢のロドリグ、慕ってる部下ポジ取られた勢のレオン、兄上の意識が完全に逸らされた勢のリーナ、年下としか仲良く出来なかったのかと馬鹿にしたいが見た目的には自分もそう変わらない気がしててからかえない勢のエリザベスが、それぞれ複雑な顔をするのだが、それはまた別の話である。
「いやベルモンド兄妹と艦長はその流れ関係ないですよね!?」
あとがき
2017/01/24