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「……やはり私ではロドリグのようにはいかんな」
 ふー、と長い溜息をついてから、セザリスは木で出来た長椅子の背もたれに背中を預ける。彼の身分や立場から考えると相当乱暴な様子だが、それを咎める者は今はいない。
「本当にすまない。君とお姉さんが仲が悪い様子なのが気になって、少し口を挟みすぎた。彼女を褒めていたのは、『よく見てみればいいところもきっとあるぞ』と伝えたかったからなんだ。決して君とお姉さんを比較して君を非難したかったわけじゃない」
 セザリスは一度言葉を切った。嫌がるようならやめなければ、と。しかしアランは呟く。何故そんなことを、と。非難がましい口調ではなかったので、セザリスは話を続けた。
「余計なお世話だとは分かってるんだ。ただ、まだ若い君が私たちと――私と同じ道に行きそうなのは止めてやりたいと思った」
「……同じ?」
 少しだけアランの視線が上がる。まだ下から見上げるような形だが、それでも視線は合った。こくりと頷くセザリスの顔には、苦い笑顔が浮かんでいる。
「ああ。私とロドリグは、今でこそ和解できたが、かつては決して仲が良い兄弟ではなかった。背景に家の事情があったのもあるが、お互いにお互いが苦手で、理解出来なくて、避け合っていた」
 あのロドリグと、とでも言いたいのか、アランの表情が驚いたそれに変わった。まったくあの弟は、こんな不思議な土地でも「人当たりの良い人物」なのだな。弟の評価を感じ取り、セザリスは思わずと言った様子で軽く頬を緩める。
「――だがな、私たちは理解し合えなかったんじゃない。理解しようとしてこなかったんだ。お互いを見ようとしなかった」
 いつからだろうか。ロドリグを「相容れない弟」からただの「弟」として見られるようになったのは。一緒にテーブルを囲んで茶を飲んで、時々茶化して茶化されて、何てことない会話に興じられるようになったのは。
「アラン」
 自然と敬称が取れた名前で呼びかければ、反射のようにアランの顔が上がった。視線が合えばまだ戸惑った顔と目が合う。
「私は1から100まで喧嘩もせずに仲良くした方がいいとは言わない。そもそも出来るものではないしな。それに、もしかしたら双子だからこそ、普通の兄弟よりも合わない部分があるのかもしれない。ただこれだけは言える。兄弟と喧嘩したままだと、大なり小なり後悔することになるぞ。……喧嘩をしていた、というわけではないがな、少なくとも、俺は大人になってからあいつと普通の兄弟でいられなかったことを後悔した」
 眉を寄せ唇に歪んだ笑みを刻めば、「兄」として何もしてやれなかった過去が次々に溢れ出てきた。言葉通りの後悔は、遠慮なく胸の奥で暴れ出す。それをぐっと押さえつけ、セザリスはアランの肩を叩いた。
「相手の良い所をひとつでも探してみるといい。それがあるだけで受け取り方は変わってくる。君が余裕を見せられれば、君の姉も少しは落ち着くんじゃないか? ……君が、将来後悔しないでいられることを祈っている」
 そう言うと、セザリスは立ち上がり、東屋の屋根の際の真下まで歩を進める。こんな時でもやまない風は、ふわりとセザリスの髪を揺らした。過ぎ去っていく姿なき風を見送りながら、セザリスは静かに思考を巡らせる。