「私はこれで軍属だから、仕事というものに対する責任の在り方については十分分かっているつもりだ。一般以上に規則が厳しい場所だからな。――その視点で見させてもらっても、君の仕事に対する姿勢は素晴らしいと思う。実際、案内中に起こった諸事に君は冷静に対処し、案内という仕事を完遂している」
何か怒られるのかと内心でひやひやしていたアランはほっと詰めていた息を吐き出した。次いで、褒められたことを素直に喜ぶ笑みを浮かべて礼を述べる。その彼に一度頷いてから、セザリスは言葉を続けた。
「ただ、私は君の姉が完全に駄目だとも思えない。……そうあからさまに嫌そうな顔をするんじゃない。理由もちゃんと話す」
完全に駄目なわけではない、なんて言葉理解出来ない。そんな思いのままに咄嗟に拗ねた顔をしてしまったアランは、摘ままれ離された眉根を揉みながら小さく謝る。
「私が彼女を見たのは最初だけだから判断基準はそこだけだ。それを踏まえたうえで聞いてくれ。――まず、彼女は仲が良いだろうマリアンヌ君たちと共に行けないことへの不満を隠さなかった。初対面の私でも分かるほどに。それは、まあどう見てもダメな面だろう。私の部下なら叱責の一つ飛ばしているところだ」
ですよね、とひとつ頷くアランだが、褒める言葉が続くと分かっているのでその表情は複雑だ。
「ただ、一度訪れただけの面々とそれだけ仲良くなれるのは素晴らしい点だと思う。対応する相手によって違うのかもしれんが、来客と仲良くなれる、というのは君たちの仕事から考えて悪い点ではないだろう?」
「……そうですけど、セザリスさんが言ったとおりあいつが仲良くなるのは話が合うって分かった人だけですよ。それ以外には分かりやすい作り笑いばっかりだ」
そんなの全然素晴らしくない。アランが再び不服な様子を隠さなくなり、セザリスは考えるように視線を空中に彷徨わせる。
「そうか。それは問題だな。だが作り笑いが出来るのもひとつの才能だ。うまく磨けば差しさわり内対応が出来るようになる」
「自分の仕事に誇りを持っていないような奴が、上手く出来るようになるなんておれには思えません」
「仕事の誇りというのは最初からあるものじゃない。続けて、やりがいを感じた時に初めて抱くものだ」
「〜〜っ、同じタイミングで始めたおれはもう誇りを持ってます。持ってるつもりです!」
「それは間違いないだろう。だから君は不真面目に見える姉に腹が立っているんだ。それでも」
「セザリスさんっ!!」
怒鳴るような大音声で名前を呼ばれ、セザリスは静かに口を閉じ、叫ぶと同時に立ち上がったアランを見上げた。視線の先では、表情を歪め目に混乱を映すアランがセザリスを見下ろしている。
「さっきから何なんですか? おれの案内に何か不備でもありましたか? 何でそんなにハーティのこと庇うんですか? あなたも」
詰まるように言葉が途切れ、茶色の双眸が揺れた。セザリスに向いているはずの視線なのに、セザリスはそこに自分が写っていないように感じる。彼はセザリスの後ろに、別の何かを見ているようだった。
「あなたもっ、ハーティに味方するんですかっ!?」
何で、どうして。ぐるぐると頭を駆け巡る混乱と不愉快と悲しさがアランの足元を崩していく。まるで立っていた地面がなくなっていくような不安定さに苛まれていると、不意にセザリスがアランの腕を取った。はっとしたアランの目と、彼を正面から見続けていたセザリスの目がぶつかる。
「アラン君、すまない。そんなつもりじゃなかったんだが……とりあえず座ってくれ。説明させてほしい」
先ほどと同じセリフだが、口調は上司のようなそれから小さい子供を宥めるようなそれになっていた。袖口で目元を拭うと、アランは素直に腰を下ろす。視線は下に向いたままだ。セザリスはそれを咎めることはせず、そっと掴んでいた腕を離した。