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 僅か2、3分の間に賑やかな面々がいなくなると、残ったのは初訪問の3人とルイス、レオンの5人となる。
「――ベルモンド、お前も用があるなら行っていいぞ」
 気を遣ったのはセザリスだった。彼はこの場に来る直前、レオンが勝利宣言をしていたことを覚えている。その発言から、彼がこの地に用が あるのは明白だった。しかし当のレオンは「いえっ」と力強く否定する。
「俺の用事は後回しにします。今はセザリス少将のお供を――」
「失礼する」
 レオンが忠犬――もとい忠臣ぶりを披露するなか、不意に誰かが部屋に入って来た。覚えのある声なのか、レオンが弾かれたように顔を向 ける。その他の面々も、遅れて同じ方向に視線を投げた。
「レオン殿がいらしていると聞いたのだが――おお、久しいなレオン殿。息災にしていたか」
 溌剌はつらつとした声と共に室内に入ってきたのは、片手に模擬刀を持 った黒髪の偉丈夫だった。彼はレオンを見るや歯を見せて朗らかに笑う。レオンの方もこれまでの面々同様迎えてくれた相手に覚えがあるら しく、「おう」と軽く片手を上げて彼に近付く。
「久しぶりだな俊応しゅんおう。今回は剣を忘れるなんてことしてないぜ」
 自分が手にしていた剣を見せつけるように持ち上げ、レオンはにやりと笑った。
「それは楽しみだ。他の者たちも集まっているぞ」
 にやりと笑い返すと、俊応と呼ばれた男性は親指を立てて自身の背後を示す。望むところだ、となりかけ、レオンはギギギと硬い動きで振り 返った。視線の先にいるのはもちろんセザリスだ。
 少将のお供、いやしかしこの場に来られるのはそうそうない、共に過ごせる折角の機会、そう言うなら強い相手と手合せ出来る折角の機 会。
 ぐるぐると思考の渦に巻かれ完全にフリーズしているレオンに、その内心を分かっていない俊応は首を傾げ、分かっているセザリスは「別に構 わんぞ」と同じ言葉を繰り返す。その言葉がさらにセザリスについて行きたい気持ちを煽っているとも知らず。
 唸って頭を抱えるレオンに結論を出させたのは、よく分かっていないまま俊応が口にした一言だった。
「そういえば、今回は早速てい将軍がお相手してくださるそうだぞ。他の、 新たに宮に来た者たちも手合せしてみたいと言っていた」
 思い出したことを口にしたに過ぎないのだろうが、前回手も足も出ず負けてしまった相手と再び戦える。さらに、新しい者たちまで。武官と しての欲が、大きく首をもたげた。
「〜〜っ、セザリス少将!」
「なっ、何だ?」
 突然の大声で呼ばれ、セザリスはびくりとしつつ返事をする。その彼に涙目を向けると、レオンは脱兎の如く駆け出した。
「不忠者の俺をお許しくださいぃぃぃぃっっ!」
 涙交じりの絶叫と共にレオンが部屋から出ていくと、俊応は「やる気十分だな」と笑いながらその後を追いかける。
 室内がしんとすると、それまで黙って状況を見守っていたオレンジ髪の青年が改めて頭を下げた。
「お待たせしてしまいまして申し訳ございませんでした。わたくしは当宮の 管理代行人・ふぉん しぇい と申します。こちらは私の妹で、外交官を務めておりますはお、こちらは案内人のアラン・ミルトンです。先ほどロドリグ様をご案内させていただきましたハーティ・ミルトンも案内人なります」
 青年――謝が紹介すると、オレンジ髪の少女・好、茶髪の少年・アランが順に頭を下げる。再び頭を上げると、謝は指先を揃えた手を通 路の方へと向けた。
「まずは当宮のご説明をさせていただきますのでこちらへどうぞ。その後、アランより宮の案内をさせていただきます。その後はご自由にしてい ただいて結構です。どなたかお連れの方と合流したい場合はその通りにいたしますのでお申し付けください。――ところでルイス様」
 部屋を出るのかと思われた謝はルイスに呼びかける。まさか声をかけられるとは思っていなかったルイスは少々上擦った声で返事をした。そ のことに特に反応を示さず、謝は窺うような視線を彼に向ける。
「この後は初めて宮にいらっしゃる方に向けたご説明になりますし、ご案内するルートも以前と同じものになりますが、よろしいですか?」
 繰り返しになるけれど大丈夫か、ということらしい。ルイスは「大丈夫です」と頷き、視線を泳がせた。
「正直、以前こちらに来た時はほとんど頭に入らなかったので、改めて見聞き出来るならそっちの方がありがたいとういか」
 常識人であり異常に対する耐性が低いルイスは、初めてこの宮に来た時まさに茫然自失といった様子であったのだ。自身で口にした通り 、案内をされた、ということは覚えていても案内の詳細についてはほとんど覚えていない。
「承知いたしました。それでは、ルイス様も含めてご案内させていただきます。では、こちらへ」
 納得を示した謝が歩き出すと、好に促されたトマス、セザリスがまず歩き始め、その後をルイスとエリザベスが続く。最後尾にはアランがつい た。
「何だ、お前はまた正気を失ってたのか」
 からかうようにエリザベスが笑えば、ルイスは恥ずかしそうに「悪かったですね」と目をそらす。
「そういう艦長は随分平然としてるじゃないですか」
 トマスはどうやらリーナ辺りと同じ感覚らしく、そろそろ異世界体験が楽しくなってきているのか背中からもわくわくしているのが見て取れた。 セザリスは平然として見えるがちょいちょいふらついているのでまだ完全には納得しきれていないのかもしれない。それでも、初訪問時のルイス やエイミーに比べたら相当しっかりしている。さすが兄弟というべきか、ロドリグと同じタイプに見えた。それを口に出来るほど親しくはないので、彼には言えずルイスは心の内だけに印象を納める。
 一方で、ルイスが不思議なのはエリザベスだった。今口にした通り、エリザベスはあまり衝撃を受けているように見えない。確かに破天荒な人物だが 、ここまで非常識を受け入れるのが早かっただろうか。
 そんな疑問を込めた目で見降ろされ、エリザベスは軽く息を吐いて肩をすくめる。
「お前はもう忘れているのか。相当衝撃的だったと思うんだがな」
 忘れている、という単語に、ルイスは首を傾げた。何を忘れているというのか。疑問の色がさらに濃くなる元副官から目をそらし、エリザベス は鼻の頭をさすって懐かしそうな顔をする。
「私には、とことん変わった友人が2人いる」

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2017/01/08