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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 例に漏れず今年も全員参加(仮)を命じられ、風吹く宮の住民たちはそれぞれの表情で会場となる宮の外へと集まり始める。今回皆が一様に首を傾げたのは、全員参加に「(仮)」がついたことだ。これまで確定であったことはあってもこのような曖昧なことは一度もなかった。

 

 しかし、今回の必須事項に含まれている「動きやすい格好」と「最善の状態」というふたつに、住民たちは不安や期待を胸に灯すことになる。

 

 いったい何を企んでいるのか、と様々な憶測が飛び交う中、開会式は始まった。

 

 

 

『皆様おはようございます。本日は天気に恵まれ、絶好のイベント日よりとなりました』

 

 運動会の時に使っていた朝礼台が持ち込まれたらしく、そこに登壇した謝がマイクを通して喋り出す。お調子者の面々がヤジや口笛を飛ばす中、謝は冷静に指を鳴らした。すると、その背後に巨大なスクリーンが現れる。

 

 そこに写っているのは立体的な構造図であり、気付いた者たちの視線はちらちらと丘陵に造られた“メインステージ”に向けられた。

 

 そこにあるのは巨大な「施設」であった。ただし建物と言うよりはアスレチックと言った方が正しく、アスレチックと言うよりは岩山や林、草原、池などを含んだ自然を切り取って張り付けたような場所、と言った方が正しい。

 

 前回の運動会もグラウンドが大きく驚いた住民たちであったが、今回はその比にもならない大きさに言葉を失う者すら出ている。

 

『お気付きの方もいらっしゃいますが、今回の企画は、あちらに見えます特設ステージにて行わせていただきます。内部構造は画面に映している通りとなり、建物、というよりはそのまま自然を移してきたようなものになっています。参加者はあの中に、その他見学や脱落者の方々はこちらにて待機していただきます。なお、内部の様子はこちらの会場の至る所に設置しておりますスクリーンよりご覧いただけます』

 

 こちら、と表されたのは今まさに住民たちが集まっているこの場のことであるだろう。あちらこちらに席が設けられ、アシスタンツをはじめとしたスタッフが行き交っている。

 

 すでにメインステージの内部を映しているらしいスクリーンに目をやりつつ、企画に好意的な面々はいっそうこれから行われる企画に興味を抱き、反対の感情を持つ面々は嫌な予感を覚えた。

 

『それでは、今回の企画内容を発表させていただきます』

 

 

『風吹く宮 バトルロイヤル』

 

 

「……バトル、ロイヤル……?」

 

 誰かがつぶやく。言葉の意味が分かった者は楽しそうであったり心底嫌そうであったりの様子を見せ、意味が分からなかった者たちはその様子を見てまたそれぞれの反応を返した。

 

『外語でありますので簡単にご説明させていただきます。こちら言葉の意味としましては複数人における戦闘・死闘のことをさします。なお、当然でありますが殺し合いにはなりませんのでご安心ください』

 

 意味が分かり、首を傾げていた歴史組の面々は一瞬ぎょっとする。だが、続いて殺し合いを否定されほっとした様子を見せた。

 

『今回はおととしのハロウィン杯のように制限はかけませんが、その代わり、こちらの腕輪を皆様に配布させていただきます』

 

 謝が掲げたのは言葉通りにひとつの腕輪だ。過度な装飾はなく、装飾品、と名乗るのもおこがましいただの輪だ。細工師のマルクスが「そんなの腕輪なんて言うじゃねぇ」と文句を口にしている。

 

『こちらの説明は、技術担当のラリー・ミルトンよりご説明させていただきます』

 

 言下謝は腕を伸ばし、スタッフたちが控えている運営テントに一同の視線を導いた。その先で、まず目に入ったのは金の髪と厳しい眼差しの碧眼が特徴的なミルトン家の三男、チャーリー・ミルトンであった。そして、彼に首根っこを捕まえられている分厚い眼鏡の男。天然パーマなのか髪はくるくるとうねり、真っ白い肌にさらに白衣を着ている。







                             



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