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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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『最後に、この会場での戦闘は一切禁止します。違反をした方は罰を与えることになってしまいますのでご注意ください。それでは以上で概要の説明は終わりとさせていただきます。ご質問のある方はいらっしゃいますか?』

 

 問いかけると数人の手が上がる。その中、今年も何かやらかしそうな男の名を、謝は呼びかけ、アシスタンツにマイクを向けさせる。マイクを受け取り立ち上がったのはセルヴァであった。見た目こそ20代だがその実80代後半であり、本編ではすでに故人であるにもかかわらず元気な彼の性格をよく知るクレイドとラムダは頭を抱える。彼の敵にはなりたくないと、この場にいる誰よりも彼らは思っていた。

 

『今年も同じ確認だが、この遊びは、今のルールを遵守していればいいんだね?』

 

 聞く者によっては恐怖の問いかけに、謝は真正面から応じる。

 

『あまりに非道であり目を潰れない行いであればスタッフより厳重注意させていただきますが、大体はこのルールを遵守していただければ結構です。今回はバルーンのおかげで命の危機はございませんので』

 

 返答に、セルヴァはにこりと笑って納得を示すと改めて椅子に座り直した。その後も数人の質問を受け答えして、誰の手も上がらなくなってから謝は進行を続ける。

 

『もしも参加中に不明な点がございましたらお気軽にスタッフにお問い合わせください。メインステージおよびこちらの会場全てに人員は配備されております。それではこれより最初の大将騎3人を発表いたします。勝手ではございますが、うち2名はこちらで決めさせていただきました』

 

 謝の背後のスクリーンをはじめとした全ての画面が一度消え、軍表のスクリーンのみが表示される。

 

『今回は新規住民の方々の交流も含めておりますので、まずひとりめの大将騎は、「創霊の紡ぎ歌」よりロナルド様』

 

 軍表のひと枠目に「ロナルド・アベーユ」という名前が記載される。それに、視線を彷徨わせる者が多発した。新規に人が来た、というのを知っていても、敷地の広い風吹く宮ではこのような機会がなければ自分で会いに行かない限りずっと会わない相手もいる。今視線をめぐらせている者たちは、皆ロナルドを知らない者たちだろう。

 

 そんな彼らの視線が止まったのは、若干硬直している青年だった。背は高く服の上からもその引き締まった体つきが分かる。しかしもっとも人目を引くのは間違いなく彼がまとっている服だろう。赤い布で出来た蛙のフードがついた上着、という見た目は人目を引くなという方が難しい。

 

「えっ、えっ? ぼ、僕? ね、姉ちゃんどうしよう」

「おどおどしない。ただのレクリエーションでしょうが。……まあ、ちょっと驚いたけどね。裏切りとか下克上とか」

「難しいこと分かんないよ僕……」

 

 事態についていけないのか、隣に立っている赤紫の髪をした女性の服を掴んで弱音を吐くロナルドに、女性は喝を入れる。その様子を見てダニエルは眉を寄せた。

 

「何だあいつは? 図体だけはライナス・マクレーンにも劣らないのに中身はまるで子供だな」

 

 不愉快というよりも不可解を表す彼に、隣に控えていた従者たちは苦笑を浮かべる。すると、近くにいた周孝が声をかけてきた。

 

「確かあいつ、お前たちと同い年だぞ? お前たち15歳だろう?」

「同い年? あれでか?」

 

 女性に叱られ、自分より小柄な少女の後ろに隠れているロナルドを見てダニエルは信じられないものを見るような目をする。世界が違えばこういうこともあるのかと少しついていけなくなった。

 

『ふたりめの大将騎は「ヴァインシュトックの英雄」よりレギナルト様』

 

 大将騎の2つ目の枠に「レギナルト・スターム」の名が表示される。元気よく返事をして手を上げたのはロナルドよりも高い長身と、明るい笑顔が印象的な金髪で褐色の肌をしている青年だった。周りの男たちがやんやと持ち上げている。

 

『最後の大将騎はこれよりランダムに選ばせていただきます』

 

 指を鳴らした音が響くと、再度謝の背後のスクリーンに映像が映し出される。スロットのドラムのように回って目まぐるしく変わる画面には住民たちの名前が順に記載されているようだ。陽気な音楽と共に回転が続くと、徐々にその速度は緩まり、やがて止まった。

 

 そして映し出された名前に、会場はそれまで以上にざわめき、謝ですらわずかに眉を寄せる。

 

『……3人目の大将騎は、「ジュリエットとは呼ばないで」より、新原(にいはら) 樹里(じゅり)様となりました』

 

 3つ目の枠に「新原 樹里」との名前が表示された瞬間、瞬きほどの間も空けずに謝が予想していた反論が上がる。

 

「ちょっと謝さん何言ってんの!? 樹里にそんなこと出来るわけないじゃん」

「どー考えても俺ら向きじゃない企画なのにこの上樹里に大将騎!? 正気?」

「おいおい、勘弁してくれよ。うちの樹里にんな乱暴なこと出来るわけねぇだろ。ってか素直に分かりましたとは言えねぇぞ」

 

 あずき、輝介、晴之という順に樹里の前に出てきて彼女を背後に庇う。背後では辰彦が無言ながら殺さんばかりの殺気を放っていた。そして当の本人である樹里は青ざめてカタカタと震えている。

 

 無理もない。普通の世界の住民である上、樹里は暴力ごとが本当に駄目なのだ。連動型であるため大将騎枠に名前は表示されてしまったが、これはもう一度やり直した方がいいだろう。

 

 決断し謝が再選考を口にしようとしたその時、微かな微かな、本当に細い声がそれを止めた。

 

「……や、り、ます……大丈夫、です。特別扱い、いりません……」

 

 震えたままだが、それでもぐっと堪え、樹里は大将騎を引き受けることを宣言する。暴力を嫌う樹里であるが、それと同じくらい、“特別扱い”も嫌う。ここで気を遣わせてしまうのが彼女にとってはそれに当たるのだろう。

 

『――承りました。それでは、最初の大将騎はロナルド様、レギナルト様、樹里様といたしまして、お三方にはメインステージに移動していただきます』

 

 アシスタンツから腕輪を装着させられると、3人の姿は一瞬にしてその場から掻き消えた。心配が尽きないあずきたちであったが、唯一安心出来る点がある。それは、同じく現在大将騎であるロナルドとレギナルトが最後の一人が樹里に決まった時から死にそうなほど戸惑った顔をしていたこと。

 

 樹里が恐ろしい目に遭いませんように。親友たちの祈りが飛び交う中、改めて、開催の宣言がされる。

 

 

 

『それではこれより、2012年秋企画、風吹く宮バトルロイヤルを開催いたします』

 

 







                             



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