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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 ロナルドが飛ばされたのは草ひとつ生えていない岩場であった。どうやら周囲より高い位置にあるらしく、端まで行くと眼下に森や平原が広がっている。所々きらきらと太陽を反射しているのは川や池だろう。これを人の手で用意したというのだから驚きだ。

 

 ぴょんぴょんと切り立った岩肌をまるで平地を歩くように跳び移っていくと、ロナルドは切り立った崖にたどり着く。恐れる様子もなくゆうに20メートルはあるだろう下を覗き込めば、そこは丈の長い草に覆われた細い道であった。

 

 本当に色々な場所が詰め込まれているんだ。状況を忘れただただ感心していると、突然どこからか放送が流れ出す。

 

『早速レギナルトが仲間獲得したから追加説明いくぜー。全員チェキラ』

 

 クリフの説明が始まると、ロナルドの目の前に人形が2体とその人形たちにサイズを合わせたおもちゃのようなスロットマシーンがぽんと軽い音を立てて現れた。そしてどういう流れになるのかを理解すると、それは出てきた時同様軽い音を立てて消え去る。

 

「そうだった、仲間見つけないと。女の子殴るなんて無理だし、もうひとりいたお兄さんも魔法の気配感じなかったし。せめて人増やしてうやむやにしちゃおうっと」

 

 性根の優しいロナルドは理由なき暴力をひどく嫌う。まして、天然魔装とも呼ばれるほど強力な魔力を内包し、息を吸うように身体強化を使う彼である。たとえ年上の男性だろうと、戦いの心得のない者なら決して手など上げられない。

 

 そんな彼の唯一の逃れる手段はやはり仲間を増やすことであった。人を増やしていけば状況も変わるかもしれないし、怖い思いをさせないで済むやり方を思いつく頭の良いものも現れるかもしれない。

 

 期待を込めつつ、緑と茶色の世界では目立つ赤い蛙は周囲に目を凝らしながら大した予備動作もなく崖を飛び越える。そして、逆岸に降り立ったかと思うといきなり崖から飛び降りた。その様子を待機会場で見ていた彼の姉、リーゼロッテは絶句していたのだが、それを彼が知るよしは今のところない。

 

 飛び降りたロナルドは3メートルほどの所で岩肌を掴んで落下を止めた。そして、近くに生えているやせ細った木の枝に腕を伸ばす。指貫手袋をしたその手が掴んだのは、偶然のように引っかかっていた真っ白のカードだ。

 

「風に吹かれたのかな? ここ強いもんねー、っと」

 

 一度重心を下に移動させると、崖の壁面を蹴りつけてロナルドはまた崖の上に戻ってくる。

 

「どんな人が来るかなー。仲間になってください!」

 

 取得を宣言すると、5秒としないうちにひとりの青年が現れた。緑色を基調とした制服のような服を身に纏い、腰には金の輪に青い宝石がついた飾りを提げている。手にされているのは銀の棒のような武器で、片端は長方形の重石のような形をし、もう片方は右胸を飾る紋章と同じクラブの形をした刃をしていた。

 

 藍色の髪の下の瑠璃色の眼差しは快活で、青年と断言するよりは少年とその狭間にいるような印象を受ける。

 

「うっわ、あっぶね。オレ危うく今回不参加になるとこだったじゃん。見つけてくれてサンキューな。名前何だっけ?」

 

 ロナルドよりも10センチほど背の低いその人物は、しかし躊躇いなく話しかけてくる。もしかしたらずっと年上なのかもしれない。ロナルドは少し緊張して答えた。

 

「あ、僕ロナルド・アベーユです。よければロニーって呼んでください。お兄さんは?」

「あー、敬語いらね。オレそういう堅苦しいの嫌いなんだよな。多分年もそんな変わらないだろ? 俺18。お前は?」

 

 問いかけよりも敬語が気になったのか答えをそらされてしまう。が、少し気が緩んだ。年が近い、というのもあるが、こういうどこか破天荒な人物の方が気を遣わなくて済むので心が軽いのだ。

 

「分かった。僕は15歳だよ。お兄さんの方がやっぱりお兄さんだったね」

 

 にこりと爛漫にロナルドが笑うと、青年はようやく自身が名乗ってないことに気付き、「うわ音声向こうに入ってなくてよかった」と心底焦り、安堵した様子を見せた。

 

「こういう礼儀云々うるせーの多いんだうちのところ。まあ場所が場所だから仕方ないんだけどよぉ」

 

 がりがりと頭を掻いてから、青年は改めて居住まいを正し、肩に担ぐように持っていた武器の先端――クラブ型の刃を左手で斜め下に構え、右手を左胸の上に当てる。

 

「トランプ騎士団隊長クラブ、エルマ・ウロンドだ。よろしくなロニー」

 

 にっと歯を見せて明るく笑うと、エルマはまた先ほどと同じように肩で武器を担いだ。その切り替えの早さに画面の向こうでは同僚や先代たちが頭を抱える。

 

 しかし正面で向かい合うロナルドは呆れよりも尊敬に近い感心を抱いて目を輝かせた。

 

「エルマさんって騎士なんだ。しかもそんなに若いのに隊長? すっごいんだね!」

 

 目をきらきらさせて純粋な敬意を向けられて、根が単純なエルマは機嫌よさそうに笑う。隊長位とはいえ年若く、先代や他の隊長たちどころか部下にすら子ども扱いを受けることが多々ある彼としては、ロナルドのような存在は貴重であった。

 

 鼻を高くしたエルマは自信に満ちた笑みで胸を叩く。

 

「まぁな。才能と将来性はピカイチだって有名なんだぜオレ。今回は騎士の誇りとクラブの名にかけて全力でお前の軍で戦ってやるよ」

 

 先代のクレイドや同僚のイユなどが聞いていたら「調子に乗るな」と叩かれてもおかしくない自信ばかりの台詞に、しかし素直なロナルドはたいそう嬉しそうに笑って元気な返事をする。

 

 すると、ふたりの前に件のスロットが現れた。やり方は見たばかりなので分かっているため、ロナルドはハンドルを下ろして回転を始めさせる。強化された彼の眼には回転するリールに書かれている字が難なく読めていた。だが、どんなタイミングで止まるか分からないので今は何も狙えない。

 

 とにかく今は適当に何か貰っておこう。そう考え、ロナルドはあっさりと停止のボタンを押した。スピードが緩みやがてリールが止まると、スロットマシーンは姿を消し、同時に袋と当たった物が落ちてくる。

 

「? 何だろうねこれ? 物騒な名前だったけど」

「さあ? 見たことねー。ま、袋入れとけよ。どっかで使えんだろ」

 

 彼らが獲得したのは、先端が丸く尖った突起のついたまがまがしい色合いの丸い物体。とげとげしくないいがぐり、というのが、その正体を知らないロナルドとエルマの感想であった。

 

 使い道が分からないままロナルドはエルマの進め通りそれをポシェットの中にしまう。何となく嫌な感覚が指先に伝わってはいたが、溢れる魔力を身体強化にのみ、しかも天然で使っているだけのロナルドにはその感覚の正体は分からなかった。

 

 こうしてロナルドとエルマは続いて人を増やすため、そこから目的地もなく歩き出す。

 

 この時、その物体がある世界の者がひとりでもそのやり取りを見ていたら警戒をしていたことだっただろう。だが、今待機会場におり、かつメインステージの様子を気にかけている者たちの視線は、あらゆる方面から心配されている少女の動向に注がれていた。

 

 







                             



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