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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 増えていく仲間にレギナルトはほくほく笑顔を示し、和俊はまさかここまでとはと彼の強運を感心した。

 

 和俊を獲得した後、レギナルトたちは特に行き先を決めることなく歩き出した。広さのあるステージである。次なる仲間の獲得にはそれなりに時間がかかるだろうと、それはレギナルトと和俊共通の考えであった。

 

 だが蓋を開ければレギナルトは歩く先歩く先でカードを発見している。若輩とはいえ注意力が必要な猟師という職業柄観察眼がある、というのもあるのかもしれない。だが、それ以前に運がなければカードがある場所には来られないだろう。

 

 和俊は引きの強いレギナルトの軍に入れたことへの幸運に僅かに唇を引き伸ばした。

 

「か・ず・と・し。まーた悪い顔してるわよ」

 

 隣を歩いていた、和俊の次に仲間にした女性が少し身を屈めて和俊の耳元でからかうように囁いてくる。指摘された和俊は一度舌をぺろりと出すと女性にアクマの笑顔を返した。そんな彼の反応に、女性はくすっと笑って肩をすくめる。

 

 薄褐色の肌に高く結い上げた光を弾く黒の髪と意志の強そうな漆黒の双眸。さすがに彼女の象徴とも呼べる黒い鎧は着ていないが、腰には赤い下げ尾の黒柄と黒鞘をした長刀が下げられている。

 

 彼女は()(りゅう)(しん)という名の三国時代の武将だ。以前の企画で罠にはめてからすっかり本性は見破られてしまっているので、今更彼女に隠す気もない和俊であった。

 

 そんな彼らの前では、レギナルトが先ほど仲間にしたばかりの紫髪の少女と赤髪の青年と並んで言葉を交わしている。

 

「じゃあティナさんは騎士団の大隊長さんなんすか。そんなに若いのに凄いっすね」

「騙されんなよレギー、ティナはこう見えて20超えてんぞ」

「若々しさは《スペード》の特権だもーん」

 

 レギナルトを中央に、左手側には赤い染髪を後頭部でまとめ、左の前髪を緑色の2本のヘアピンで留めている背の高い青年。レギナルトより背は低く、黒の双眸は鋭い。しかし顔立ちは凛々しいので、レギナルトはアニカが好きそうなイケメンだなぁと心のうちで呟いていた。名を(おに)(がさ) 雪宏(ゆひろ)というらしい。

 

 通常世界の人物であり年齢もレギナルトよりも下だが、堂々とした態度に圧倒されすっかり精神的立場では上に立たれてしまっていた。もっとも、人の上に立つことや偉ぶることへの欲求がとても低いレギナルトにしてみれば大した話ではないのだが。

 

 右手側にいるのは10代後半くらいにしか見えない紫の長髪と双眸をした少女――に見せかけた20代の女性だ。緑色を基調とした制服のような服を身にまとい、胸には金色のスペードの紋章が刻まれている。さらに、その手にされている銀色をした鉄の棒のような武器の片端には同じくスペード型の刃がついていた。名をティナ・レシィといい、トランプ騎士団、という騎士団の大隊長(序列2位の高位)であるらしい。

 

 ティナの口ぶりだと何か事情がありそうな気もするが、レギナルトとしてはそれ以上に年に反した若い見た目と重い立場に再びアニカを思い出し親しみを覚えた。

 

「あ、カード見つけたっす」

 

 ふと視線を巡らせたレギナルトは少し先にある茂みに隠れていたカードを発見して意気揚々と小走りにそちらに駆ける。「また見つけたの!?」と軍下の者たちが驚きそちらに視線を向けた。レギナルトが辿り付くよりも早く目的に至ったはずの和俊たちの視線は、しかしその対象となるカードを見つけることは出来ない。唯一ティナがレギナルトが茂みに近付いた時に「あ」と短い声を上げた。

 

「あったっすよ。えーと、名前は……」

 

 最初は人など気にせず仲間にするつもりだったレギナルトだが、「余計なものはいらない」と和俊にばっさり切り捨てられてしまったため名前を確認するようにしている。幸いにして、2人目以降の仲間は程度の差こそあれ皆戦える者であったために捨てる選択は一度も出ていない。だが、風吹く宮には戦えぬ者も多くいる。下手な相手を拾っては足手まといにしかならない。そのような“駒”を、和俊は望まなかった。

 

五十畑(いそはた)あ」

「いらない」

 

 名前が読み出される途上で和俊が笑顔ながら断固とした口調で拒否を示す。レギナルトはその強い意思に驚き目をぱちくりさせた。その視界の中では、龍真、ティナ、雪宏が「あー」と仕方なさそうな顔をしている。

 

「レギー、このチームで五十畑を仲間にするなら俺は裏切るからな」

「ごめんレギナルト、私も」

「右に同じく。針の(むしろ)に座りながらずっとやってるとか無理」

 

 口々に拒否を言紡がれ、レギナルトはカードに目を落として困惑の表情を浮かべた。

 

「え、この人そんな嫌な人なんすか?」

 

 この場に集まった者たちは皆それぞれ特徴ありとはいえ朗らかな人物たちだ。その彼女たちがこうも否定する相手にレギナルトは不安を覚える。だが、それをティナがあっさりと否定した。

 

「あ、違う違う。五十畑 (あや)()でしょ? カード。綾穂はいい子よ。でも、和俊との関係がものっすごく悪いの。この子達の世界の話だから、私も細かくは知らないけどね」

「それがなくったって僕はいらないって言いましたよ。そんな大事な大事な『お姫さま』のために愚直に突き進むような人」

 

 にこにこと笑顔のままだが明らかに綾穂をよく思っていないことが分かり、レギナルトは子犬のように小さくなりながらそっとカードを戻した。笑顔が怖い。

 

「あ、じゃあこっちのカードはどうっすか?」

「いやいやいや! あんたどんだけ運いいの!?」

「何でそんな店員が次の商品勧めるみたいに見つけられんだお前!?」

 

 気を取り直して近くの木の虚に手を突っ込むと、レギナルトは次のカードを取り出す。その運のよさにティナと雪宏がさすがに驚きを隠せずに突っ込みを飛ばした。びくりとするレギナルトだが、「運だけはいいっす!」と爽やかな笑顔を浮かべて答えとし(てごり押し)た。

 

「それは誰?」

 

 龍真が問いかけると、レギナルトは改めてカードに書かれている名前を読み上げる。それに一同は今度は全員が賛成を示した。それに応えレギナルトが取得を宣言すると、光が溢れた後にひとりの少女が現れる。







                             



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