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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 赤に近いオレンジのふわふわとした髪をふたつに結い、黄色のラインが入ったオレンジ色のローブをまとった少女は、どこかおどおどとした様子で赤い水晶を掲げる杖を抱きしめていた。大きな丸眼鏡の奥にある茶色い双眸は自信なさそうに辺りをきょろきょろと見ている。

 

「いらっしゃいメーベルさん。頑張ろうね」

 

 和俊がにこりと少女――メーベルに笑いかけた。メーベルは杖を抱き締め直すと反射のように返事をし、ぺこりと頭を下げる。

 

「今回ジェイムズ敵だけど大丈夫か?」

 

 雪宏が問いかけるとメーベルは一度消えてしまいそうなほど不安な表情をするが、ぶんぶんと頭を振ってからきっと表情を改めた。彼女のフルネームはメーベル・トウェイン。エルマの軍に入っているジェイムズ・トウェインの双子の妹である。非常に仲の良い兄妹であり、お互いに「ふたりでひとり」のような感覚で生きている。

 

 裏切りよりも彼女の精神状況を慮っての質問だったが、予想外に強い眼差しが返され雪宏は少し目を見開いた。

 

「大丈夫です! ダニエル様にも『どこの軍になろうと手を抜くな』と言われました。ちゃ、ちゃんと戦えますので、皆さんどうぞよろしくお願いします」

 

 ダニエルというのは彼女たちの主だ、とティナがレギナルトにそっと教える。兄と敵対し、主ともいつ敵対するか分からない状況で、それでもやる気を出してくれたメーベルに感動し、レギナルトは爽やかな笑みを浮かべると彼女に手を差し出した。

 

「はい、こちらこそよろしくっすメーベルさん。俺、レギナルト・スタームっす」

 

 年上の男性に握手を求められメーベルは少し緊張した様子を見せるが、すぐに応じて微笑み返し、改めて自己紹介を済ませる。

 

 そしてそれを見計らったかのように現れたのはおなじみスロットマシーンだ。

 

「次ストップかけるの誰でしたっけ?」

「さっき俺」

「あ、じゃあ私だ。レギナルト、回して」

 

 折角のゲーム性なのだから、と、レギナルト軍では2回目以降のストップは仲間に任せることにしていた。ティナが名乗りあげたのでレギナルトはハンドルを引く。ややあってストップがかかると、空中から犬のぬいぐるみが落ちてきた。

 

 変な物ばかり当たるな、と思っていると、不意に放送が流れ出す。

 

『やべ気ぃ抜いてたら10人超えてたわ。お前ら早すぎ! っつーことで追加説明行くぜー。今誰の軍に誰がいるか。知りたい情報だよな。そんな時はこちら』

 

 空中にクリフのホログラフィーが現れた。その彼が示しているのは、何あろう、防御のバルーンを出すための腕輪だ。一同の視線は一様に自信の腕に向いた。

 

『この腕輪にはマイクも内蔵されている。これに向かって「軍表を表示」って言うと、それぞれの軍の現在の軍表を見ることが出来る。腕輪の上に画像出てきたろ?』

 

 試せと言わずに試すことを前提の問いかけをされ、代表して和俊が言葉を唱える。すると、確かに腕輪の上の辺りの空中に軍表が表示された。ゲームや漫画の世界のような技術を目の当たりに、雪宏は感心に口笛を吹く。

 

「うちが一番多くて新原さんの所が一番少ないみたいだね」

「でもあの蛙の子の軍もあんまり戦える子いなそうじゃない?」

「狙うならもう少し後かしらねー」

 

 状況を確認して作戦を練り始めると、あちらにもこちらの様子が見えているのか、視線を三方に彷徨わせると、クリフは誰も話を聞いていないことを理解してしまったのかくっと涙を拭う。

 

『と、とゆうことだ! 検討を祈るぜ諸君。特に樹里ちゃんとケイティちゃんと龍真さんと雪宏ちゃんとティナちゃんとメーベルちゃんと尚香ちゃんとアルバちゃん! ぶはっ』

 

 女子の名前だけを選抜して口にしたクリフに玉投げの玉が複数激突し、映像は途切れた。それを見上げていたレギナルトは、上を向きながら雪宏に声をかける。

 

「……雪宏さん?」

「あ?」

「女性なんすか?」

「まあそうなるな。けどいつものことだからな。気にしなくていいぞ」

 

 赤髪の青年こと少女・鬼笠 雪宏。男家族の中で雄々しく育った雪宏は縦にこそ伸びたが女性的な成長は全く一切合切しなかった。ゆえに、幼い頃から態度と見た目で男に間違われることが多く、彼女自身それを気にしていないため今回もさほど問題にとは思っていなかった。

 

 が、視線を向けた先にレギナルトはおらず、気が付けば足元で土下座をしている。そのあまりの反応の速さに雪宏のみならず和俊と龍真、ティナにメーベルまでが驚きを示した。

 

「すみませんすみませんすみません! 本当に申し訳ありませんっす! い、命だけは、命だけはお助けを!!」

「いや俺はどこの極悪人だよ。別に気にしてねっつの。何だその素晴らしい土下座は」

 

 レギナルトは一体元の世界でどんな相手が周りにいたのか。一般騎の面々はそんなことを疑問に思いながらレギナルトを無理やり立たせ、引きずるようにして進行を続けた。

 

 待機会場では理由に早速気付いて大爆笑していたトルステン・トミーのふたりがレギナルトの態度の原因となるアニカに殴られることになる。

 







                             



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