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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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「お。俺かー。よろしくな、ライナス・マクレーンだ」

 

 現れたのは薄ベージュの髪と目をした大柄な青年だった。自身とあまり変わらない長身と年齢だろうその人物・ライナスは、快活な笑みを浮かべてレギナルトに手を差し出してくる。

 

「あ、はい。よろしくっす。俺レギナルト・スタームっす」

 

 応じて手を差し出し、それを握り返した。力強いそれは固く、腰に差した剣を振りなれていることをレギナルトに伝えて来てくれる。赤を基調とした、黄色のラインが入った制服を纏う彼は騎士院生という騎士見習いなのだと和俊が教えてくれた。それと、年はレギナルトと1つ違いの18歳だ、とも。

 

「へー、見てても思ったけど、あんた本当に運いいな。和俊に龍真さんに雪宏にティナさんにメーベルに秋菊に馬超さんか。魔法使えんのメーベルだけだけど単純戦闘なら負けそうにない面子だな」

 

 レギナルトの後ろに集まる面々を改めて見回し、ライナスは笑って肩を竦めて見せる。その言葉に、龍真は冗談抜きに恐ろしいほどの強運を発揮している現状を乾いた笑いで見つめなおした。

 

 先ほどメーベルを仲間にしてからおよそ10分ほどで、レギナルトは秋菊と馬超という強豪を取得し、今さらにライナスを仲間にしている。

 

 秋菊は元の世界では名の売れた叛乱軍の元頭領であり、齢17の少女でありながらその武才は大の男にも引けを取らない。腰に巻いた菊の縫い取りがされた赤色布と腰の湾刀が彼女の証明とも言える。

 

 馬超は和俊たちの世界における遥か過去、龍真と同じ時間を同じ軍で生きる劉備軍の将だ。錦馬超と称されるほど派手な武装は今日は身につけていないが、得意の得物である長柄の槍はしっかりと背中に負っている。

 

 ライナスの言うとおり、直接戦闘ならば他に引けを取らない面子だろう。

 

「馬超さん、ストップ……あーと、停止の声お願いしますっす」

 

 レギナルトが現れたスロットマシーンのハンドルを引く。回転し始めるリールをじっと見ながら、「気持ち悪くなるな」と慣れない者らしい発言をし、馬超は停止の声をかけた。そしてレギナルトの手元に落ちてきたのは編み糸とトラの牙で出来た飾りだ。それを目線の高さまで持ち上げてから、レギナルトは特に感慨も覚えずにポシェットを持っている和俊に渡す。

 

 人で運を使う分アイテムで稼げないのだろうか。そんなことを考えているレギナルトとは反対に、アイテムを受け取り同じように目の高さまで持ち上げた和俊は、静かに唇を引き伸ばした。その様子を見た数名は「あ、また悪巧みしている」と心の中で確認する。

 

「そういえばここどの辺りっすかね」

 

 きょろきょろと辺りを見回してレギナルトは誰にともなく尋ねた。最初レギナルトがいたのは大きな池のそばだった。そこからふらふらと当てもなく歩いているうちに視界は完全に森に包まれてしまっている。本来、森を歩くことを職業としているレギナルトがするべきではない質問だろうが、この短時間で彼の人となりがあらかた分かったメンバーはそれに対しては何も言わなかった。猟師、とは言ったものの練度というものはどの職業にもあるものだ。彼は、正直まだまだ未熟である。

 

「あれ見れば?」

 

 ティナが指差したのはステージ中央に配置されている大樹だった。開始当初は遠かったそれは、もう少し歩けば根元が見えると思われるほど近くになっている。レギナルトはそれを見てぱっと表情を明るくした。

 

「確かに! それじゃあ一回あそこ行くっすか? それからまた仲間集めに――」

「いや、そろそろ少し攻撃に出ておこう。っていうか、多分戦闘することになるよ」

 

 レギナルトの言葉を和俊が遮る。このイベントとしては間違っていない台詞だが、それであっても物騒な予言にレギナルトはぎくりと固まった。この実戦度胸のなさはどうなのだろうとあきれた視線を向けてから、戦闘可能な面々はそれぞれの武器に手を当てたり構えたりし始める。一般人の和俊ですら気付くことを、彼らが気付かないはずがなかった。

 

「ちょっとここじゃ狭いわね。みんな走るわよ。あそこで木が途切れてる」

 

 龍真が声を張り上げると、弾かれるように全員が走り出す。遅れそうだったメーベルは雪宏が抱え上げた。そして彼らが残っていた木々を抜けた先では、他の2軍が、どういう経緯かは分からないが何故かいる“別軍”と、それぞれに火花を散らしている。

 

 背後からも追いかけてくる気配がいることに警戒しつつ、秋菊は苦い笑みを浮かべた。

 

「……何よ、この状況……!」

 

 自軍、ロナルド軍、樹里軍、そして本来いるべきではない“別軍”――異形の魔物や見慣れたごろつき、人のような姿をしているが決して人ではない何かの集合軍。

 

 奇妙な四竦みが、成立してしまっている。








                             



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