<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> |
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それはレギナルトたちがやって来る少し前のこと、進軍を続けていたロナルド軍は岩山を離れ、森の中に入った。その直前にはハイネル・ホーツという男性を仲間にしており、戦闘職ではないが森林調査団である彼のおかげでロナルド軍は迷いなく森を歩くことが出来た。 そして、森が一度途切れたその先で一同は敵方――樹里軍と遭遇したのだ。 「うわっ、敵!? しかもあの女の子の軍だし……いったん退こう」 まだ樹里と戦闘する覚悟のないロナルドが撤退を告げるが、それを武器を構えたエルマが拒否する。 「戦場では弱い奴から消えていくんだよ。お前にとってがどうか知らないけど、これは俺にとって常識。んでもって、今は弱くてもいつ強い連中が出てくるか分からないなら三竦みの状態はヤバイ。ここで潰すぞ」 前線戦闘職らしい発言を受けロナルドは決断に迷った。ジェイムズ、アルバ、ハイネルは彼の決断を待っているらしく口を挟まない。そうしている間に、敵方では赤銅色の髪の男性と黒髪の男性がそれぞれの剣を構え、修道服の少女が残りふたりを背に庇うように立ちはだかった。 あちらはもうその気のようだ。それでも「戦おう」と言えずにいると、尚香が強くロナルドの腕を引く。気付きそちらに視線を向けると、強い眼差しが注がれた。 「ロナルド・アベーユ。エルマ・ウロンドの言うとおりです。下手な睨み合いをするよりは今ここで一軍減らすべきです。ましてこの模擬戦はいつ他の軍が現れるとも知れません」 戦うべきだ、とエルマの発言を支援され、いっそうロナルドは目をぐるぐるさせる。言っていることは十分に理解出来た。だが、それでもロナルドには魔法も使えないような少女を攻撃することへの抵抗が拭えない。 しばらくの間口をパクパクとさせていると、ふいに何かを思い出して慌ててポシェットを探り出した。そして彼が取り出したのは、エルマを仲間にした時に手に入れたアイテムだ。 「これ! これ使ってみよう! よく分からないけど名前的に何か凄そうだし」 ただの逃げ口上だったが、ロナルドは軽く混乱していた。とにかくこの状況から少しでも逃げられる言い訳が欲しかったのだ。そのため、アイテムを放り投げた彼は聞いていなかった。ジェイムズがひどく慌てて、それを止めた声を。 ロナルドが自身たちと樹里たちの間の辺りに向けて投げつけた、先端が丸く尖った突起のついたまがまがしい色合いの丸い物体は、地面にぶつかると同時に破裂する。そして、辺り一帯には濛々とした灰色の煙が溢れた。 煙幕だろうか、などと気楽なことをロナルドが考えられたのはその一瞬だけだ。次には彼は身体強化を強めて仲間全員を抱え上げてその場から飛び離れる。するとそれを見計らったように、彼らが立っていた場所に太い鞭のような物が叩きつけられた。激しい音を立てて地面と激突するとそれは土や草を巻き上げる。飛び離れたロナルドは仲間たちを地面に降ろし、それを見て不可解な表情をした。 「な、にあれ――?」 先ほどロナルドたちを襲ったのは生き物の尻尾であった。それはロナルドたちに攻撃が外れたと理解したのかぎょろりと目を動かしロナルドたちの動きを視線で追ってくる。襲撃の主は鎧を身に付けた縦にも横にも人の2倍は大きなトカゲだった。手足の役がはっきりしていて、手には人間の子供の身長ほどある剣が握られており、足には分厚いブーツを履いている。 「お前ら気をつけろ! そいつはリザードソルジャーっていう俺らの世界のパールランクの魔物だ。真正面から当たるな……っ!」 樹里軍の赤道髪の青年がアドバイスを送ってくれるが、その言葉は途中で途切れた。見れば、彼らの軍も魔物と思わしき生き物や武装した人間に襲われている。 「な、何? さっきのアイテム何だったの?」 怯えているというよりも事態に着いていけずに混乱している様子のアルバの答えを期待していない問いかけに、ジェイムズが答えた。 「完全に同じものではないと思いますが、多分僕たちの世界にある“魔物の殻”というアイテムの類似品だと思います。原理は未だに解明されていませんが、割ると魔物が出てくるものなんです」 つまり今はそれを割ってしまったために、魔物やら武装した人間やら完全に敵意を持った者たちが現れてしまったようだ。とんでもないことをしでかしてしまった、とロナルドは一瞬にして青ざめる。すると、その頭をエルマが拳で叩いて来た。身体強化を使っていたため衝撃こそあったが痛みのないロナルドは驚いて彼に視線を向ける。 「殴った俺が痛いってどういうことだよ。くそ、次から武器で殴る」 右拳をひらひらとさせてそんな決意を呟くエルマに、やはり怒らせてしまったようだとロナルドはしゅんとした。その彼に、エルマはびしっと指を突きつける。 「俯くな! やっちまったもんは仕方ねぇ。だったらうだうだするよりこの状況を解決することだけ考えろ。つーか暗いこと考えんな。オレらん所の敵が強くなるから」 言下、エルマは襲ってきた人のようなモノを武器――烏葉で斬りつけた。アルバと尚香が悲鳴を上げるが、恐れていた血は飛ばず、倒れたソレは幻のように消えてしまう。 「こいつらは俺らの世界の敵の魔者な。……っても、ちょっと違うみたいだけどな。あいつらだって生き物だから斬れば血が出るし死体が残る。何もないってことは、多分そういう仕組みなんだろ。よく分かんねーけど。オレは前に出る。気ぃ抜くなよ」 言うなりエルマは烏葉を振るって駆け出した。その時には、彼の手にあった鉄の棒はその姿をクローに変えている。 また事態に追いつけず目をぱちくりさせていると、エルマと同じ世界の住人であるハイネルが魔者のことと彼らの武器について教えてくれた。曰く、魔者とは人の心から生じる存在であり、人の負の感情を糧に強くなる。曰く、トランプ騎士団の隊長たちの武器は“意思ある武器”であり、主が使いやすいようにその姿を変える。 「そうなんだ……」 「ロ、ロニー君! 避けて避けて!」 感心しているとアルバが慌てて声をかけてきた。はっとしたロナルドはまた残った味方を抱えあげて襲い来る魔物たちの攻勢から逃れる。先ほどのリザードソルジャーなる魔物もどうやら1体だけではないようだ。 「…………やっばいかも」 次から次へと溢れてくる敵軍を前に、ロナルドは静かにそう呟いた。 |
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