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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 仕切り直しをするために一度大樹の元へと戻った樹里たちは、その途端にほぼ同時にやって来たらしいロナルド軍を視界に納める。樹里の頭が戦うとも逃げるとも判断をつけられずにいる間に、ガーリッドと周孝は武器を抜き放ち、あちらではエルマが明確に戦意を見せた。

 

 ついに戦いになってしまうのか。庇うように前に立ってくれたケイティの背中越しに、樹里は自身の身体を抱きしめる。怖い。怖い。怖い。遊びとはいえ戦いが目の前で起こる、という確実にやってくる未来にそんなことばかりが頭を駆け巡った。

 

 すると、何やら相手のリーダーであるロナルドが何かをポシェットから取り出し、間髪いれずに投げつける。樹里たちとの間で破裂したそれは濛々とした灰色の煙を辺り一面に撒き散らした。

 

 煙幕だろうか。退いてくれるのだろうか。安堵したのは一瞬だ。

 

 突然、目の前から金属同士がぶつかるけたたましい音が響く。この一瞬で近付いて来たのか、と驚けば、そこにいたのは誰とも知らないヒトだった。いや、ヒトではないなにかであった。人間のような姿をしているが、顔などが無理にヒトに合わせたような形になっている。

 

 その異様な存在にぞわりと全身を恐怖が通り過ぎた。

 

「これ――――魔者!? ティナさんたちの世界の敵だよ」

 

 周孝と自身の腕で鍔迫り合いをしている敵を見てケイティは驚いたような表情を浮かべる。

 

「魔者? 何だ、あいつらは通常の参加者以外も味方に出来る道具を持っているのか?」

 

 一度魔者を蹴り放し、周孝はたたらを踏んだ魔者を斬り伏せた。斬られたそれは幻のように姿を消すが、樹里はその光景に言葉を無くして小刻みに震え出す。その様子を隣に立つ呂秀は冷めた目で見下ろしていた。

 

「いや、あいつらも襲われてる。多分敵味方関係ないんだ。お前ら気をつけろ! そいつはリザードソルジャーっていう俺らの世界のパールランクの魔物だ。真正面から当たるな……っ!」

 

 叫んだ瞬間、ガーリッドを巨大化したツグミのような鳥の魔物が襲う。咄嗟に剣で受けてその攻撃をいなすと、後ろからケイティが「デリーバード」という名の魔物だと教えてくれた。

 

「おいおい、全部の世界からかよ」

「くそっ、あの人型は普通の人間を相手にするのと同じでいけるが、他の奴は戦いづらくてかなわん」

 

 次から次へと襲い掛かってくる敵を切り捨てていくガーリッドと周孝だが、事態についていけずにその動きには精細さが欠けている。

 

「あっ、もうひとつの軍も来たよ」

 

 周囲を警戒していたケイティが一方を指差し大声を出す。前線のふたりはちらりと、呂秀はゆっくりとそちらに視線を向けた。確かに、レギナルトたちの軍がやって来ている。どうやら少し前から襲われていたらしく戦闘の準備はすでに整っていた。

 

 予期せずに一堂に会してしまった状況にその場の誰もが戸惑い、混乱している。だがとにかく降りかかる火の粉は払わねば、と全軍の戦闘可能職は襲い来る敵を次々に跳ね除けていった。

 

「ちょっとこれいつまで出てくるの!? どんどん増えてるし、何か魔者が凄くうちの軍に寄って来てる気がするんだけど」

 

 精細さを欠くとはいえ、全軍が遠慮なく戦っているというのに敵は一向に減らない。どころか、下手をすると減るよりも多く増えている。その中、ケイティは魔物よりも魔者が自軍に群がってきていることに気がついた。幸い今はガーリッドたちが防いでくれているが、その勢いはまるで衰えない。しかし、樹里軍では誰もそれを思いながら応えられなかった。

 

「おいっ!」

 

 その時だ。突然大きな声が響く。声の主は、と探せば、軍と軍の間、ちょうど先ほどのアイテムが割れた辺りで戦っていたエルマが怒気に満ちた目を樹里軍に向けていた。

 

「そいつ! お前らの軍の大将騎! そいつ考えるのやめさせろ。そいつから出てる負の感情で魔者が強くなってる。あと寄って来んのもそいつのせいだ」

 

 大将騎、と言われ、一同の目はすっかり黙り込んでいる樹里に向けられる。そして、ひどく青ざめ、歯を小刻みに打ち鳴らし、まるで極寒にいるかのように身体を震わせる彼女を見て痛ましそうな顔をした。

 

「樹里、大丈夫だから。目をつぶってちょっと待ってろ。ちゃんと守ってやるから」

「安心して待ってろ樹里。すぐ終わる」

「大丈夫だよ樹里ちゃん。誰にも傷付けさせないから、耳塞いでて」

 

 ガーリッドが、周孝が、ケイティが、同じタイミングで樹里に気遣う言葉を向ける。しかし樹里の様子は変わらない。普通の世界の少女にはやはり刺激が強すぎたのだ。ガーリッドは始まる時に無理にでも止めておけばよかったと後悔した。

 

 しかしその後悔もまた魔者の力を強くする。襲い掛かってくる敵を無視し続けるわけにもいかず、ガーリッドと周孝はまた剣を振るいだした。

 

 そんな様子を見て、エルマはぎりっと歯を噛み締める。

 

「おいお前! 考えるのやめろ! やめられないならぶん殴ってでも止めるからな」

 

 大声で脅しかけてくるエルマの言葉に樹里の体が大きく震えた。その途端にフラッシュバックするのは煙草の煙と酒の匂い。カーテンを閉め切った薄暗い部屋。大きな音のテレビ。狭い部屋。そして――――鬼気迫る母と義父の顔と、身体の痛み。

 

「ひっ、や……ごっ、ごめんなさいごめんなさい。ちゃんとやります。ごめんなさい、殴らないでください。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!」

 

 それまでの比ではないほどに怯えて座り込むと、樹里は自身を庇うように腕を頭に持って行き、ひたすらに謝り始める。その様子を見て、詳しくは彼女のことを知らないケイティも彼女の”傷”に気がついた。

 

 そして同時に、思いやりのないエルマの発言に腹を立てる。

 

「エルマ君! 何てこと言うの!?」

 

 大声で抗議すると、エルマは反省するどころか応じて大声を出した。その間も敵を斬る手が止まらないのはさすがと言ったところだろうか。

 

「何でだよ! 本当のことしか言ってないし、この状況で魔者どもに余計餌やってどうするんだよ? お前が全部倒せんのかケイティ?」

 

「それは……! でも言い方っていうのがあるでしょ!?」

「まったくだこの――」

 

 痛い所を突かれて口ごもりかけたケイティだが、それでも負けじと対抗し続ける。すると、第3者の声がケイティに加担した。と、思うと、次の瞬間その人物が振るった鉄の棒がエルマの頭を打ち叩く。

 

「お気楽能天気坊や!! それがクラブの言う台詞か!? 恥を知れ!」

 

 エルマを攻撃したのは同じ世界の同僚であるティナであった。襲撃はバルーンによって阻まれるが、その色はほんの少しだけ赤味を帯びる。一撃でこれだけ減るのは、それだけ遠慮なくティナがエルマを殴りつけたせいだ。

 

「っぶねぇ! 何すんだよティナ!? 本当のことしか言ってねぇだろっての!」

「黙れ! 人の傷を抉るような真似をして正しいと言ってもらえると思ってるの? だからいつまでも子供なんだよエルマは」

「何だと!?」

 

 いきなり喧嘩を始めてしまったトランプ騎士団の隊長ふたりにケイティはすっかり置いていかれてしまって言葉を失う。その間にも敵は増え続け、あちこちで混乱が生じていた。

 

 騒然とする現場に、呆れたため息をひとつつくと、呂秀はしまっていた笛を取り出し、口元にそれを寄せる。

 







                             



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