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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 同時刻、ロナルド軍と樹里軍が邂逅したことにより戦闘開始と判断され、待機会場では映像に音声が追加された。エルマの決断、尚香の勧め、ロナルドの抵抗。そして始まる地獄絵図を、一同は固唾を飲んで見守っていた。

 

 ロナルドが使ったあのアイテムはエネミーシェイクというもので、メインステージでジェイムズが説明したとおり「クラウンワルツ」の世界に存在するアイテムを基にして造られたものだ。現れる敵は全てフェイク――血も肉もないただのプログラムだ。ただし攻撃はしてくるし攻撃も受けるというまたもや無駄に高い技術を駆使した、だ。

 

『魔力に反応して出てくる量が変わるんだよ。今回はちょっと、使った人が悪かったね』

 

 そう説明したのは自室に戻ったはずのラリーであった。外に出ない代わり、連絡用の回線をつないでおきいつでも解説をするという約束をしたらしい。

 

 魔力に反応して、なので、たとえばロナルド軍であればロナルドとジェイムズ以外が使用していればその出現量はわずかであったのだろう。ジェイムズが使っていてもそれより量は多くともこれほどの惨事にはならなかったはずだ。

 

 だが使用したのは魔力無尽蔵のロナルド。結果、一度では出来れないほどの敵が出現することになってしまったのだ。

 

『核になる敵が1体いるから、それを倒せば強制的に止まるんだけどね。見分けつくかなぁ』

 

 困ったねぇと人事のようにそう言ってラリーは説明を終わらせる。のちほど殴りに行こう、と打ち合わせをした者が数人いたのだがそれは別のお話である。

 

 そしてそうこうしている間にも場は混乱するばかり。レギナルト軍が追加されたが慣れない敵との戦いや樹里による魔者強化、それを元にしたエルマとティナの対立などなど、問題は山積しつつある。

 

「ちょっとぉ! トランプ騎士団どんな教育してるわけ!? 樹里に何てことしてんのあいつ!」

「あんなん隊長でいいのかよあんたら!」

 

 大事な親友の一大事に会場に入れないことへの不満と不安が溜まりに溜まったあずきと輝介は揃ってトランプ騎士団の残っている面々に文句を言い立てる。物申された側も、こればかりは反論出来ずに眉を寄せていた。

 

「ごめんなさいね、あずきちゃん、輝介君。あの馬鹿には戻ってきたらもしくは会場行ったらきっっっつくお仕置きするから」

 

 イユが心底申し訳なさそうな顔をして謝ると、まだ不満そうなあずきと輝介を志帆に引き取らせ、晴之がその対応する。

 

「そこまでは、って言いたいところなんだけど頼むわ。ちょっとあれはうちの樹里にはきつすぎる。でもこっちこそ悪かったな。うちのガキどもが食ってかかっちまって」

「いや、それこそ気にしないでくれ。あれの非はこちらにある。――しかし、まずい状況だな」

 

 晴之の謝罪に今度はアズハが対応した。それから、彼に向けていた視線を再度モニターに向ける。その間に事態が好転しているはずもなく、相も変わらず画面の中の戦いは無様とも取れる状態のままだ。

 

「なあ代行人殿、さすがにあれはまずくないかい? あの女の子……樹里君だったかな? は、もう限界だろう。引き上げて他の誰かと大将騎と変えた方がいい」

 

 スタッフの待機場で他のスタッフと話していた謝にアドルフが声をかける。その提案によく言ったとばかりに複数人が賛同を示して頷いて来た。

 

「もしくは誰か大人をあの場に追加するべきです。子供たちばかりですし、一番年かさの面々は魔物に慣れていない。戦闘慣れしているはずの面々も混乱しているでは危険すぎます」

 

 さらに申し出たのはヴィンセントだ。その言葉もまた納得出来るものであり、呼びかけられた謝は一度待機場に置かれたPCに目をやる。そして何かを他のスタッフと話し始めた。どうするかを決めているのだろう。

 

 よい決断が下るように。多くの者が祈る中、突如頭が割れそうな高音が、音を外して響き渡った。耳のよい者たちはもちろん、音感が素晴らしいことで有名な周瑜はぞわっと全身を粟立てる。

 

 一体何事だ。驚きを隠せない面々が一斉に視線をモニターに戻した。そして次の瞬間、予想外の救世主の登場にわっと歓声が上がる。







                             



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