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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 龍真たち歴史組が本職のティナ・エルマと共に魔者たちに立ち向かう間、ガーリッド、ライナス、ロナルドは巨体の魔物たちを相手取る。

 

「やああああああっ!」

 

 地面を蹴り上げ高く跳び上がっていたロナルドは身をよじると、それを元に戻す勢いで拳を振り下ろした。頭頂部を激しく殴打されたリザードソルジャーの頭蓋は陥没し、白目を向くと倒れる半ばで消滅する。

 

「おっまえ凄いなー。素手でその威力かよ」

 

 協力して1匹を倒し終えたガーリッドとライナスはリズムの取り直しのために一旦引き、同じことを考えていたロナルドと結果的に背中合わせになった。感心するライナスに、ロナルドはにこりと笑って見せる。

 

「あ、僕身体強化使ってるから」

 

 その返答にライナスは納得した様子を見せ、一方似たような力が存在しているとはいえ魔法がファンタジーな世界の人間であるガーリッドは少し珍しいものを見るような目をロナルドに向けた。

 

「ふーん、お前も魔法とか使えるんだな」

 

 この宮に来てから魔法を普通に使用する者たちと交流を持つようになったため当初よりは慣れたが、未だに「珍しい」という感覚は納まらない。

 

「じゃあ、お前もああいうの使えんのか?」

 

 そう言ってガーリッドが示したのは彼の視点から見て左の方面、背中合わせのロナルドは右を向き、ライナスも興味を持って左に視線を向ける。もちろん、周囲の敵への警戒はどちらも怠っていない。

 

「「ファドルズアロー!!」」

 

 詠唱を済ませ呪文が口にされると、トウェイン兄妹の背後には魔法陣が現れ、そこから炎を灯した矢が放たれ次々に魔物や魔者を消滅させていく。あれだけ威力を出すにはまだふたりで力を合わせなくてはいけないらしいが、それでも魔法を使えぬ者たちには十二分に頼もしい威力であった。

 

 感心していたロナルドはふと我に返り、慌てて顔の前で手を振る。

 

「で、出来ない出来ない。僕の魔力は全部身体強化系に行っちゃってるから、ああいう感じの魔法は全部使えないの」

 

 生まれた時から魔力に恵まれているロナルドだが、彼の言葉通りその魔力は全て身体能力の強化に使われているのだ。それは彼が意識しているわけではなく、自然とそうなってしまうものである。ゆえに、彼は自らの意思で今トウェイン兄妹が使用したような攻撃魔法やロナルドの姉のリーゼロッテが使うような回復魔法などは使えない。

 

「そっか、出来る出来ないとか得手不得手はやっぱり魔法でもあるんだな」

 

 納得したように頷くと、ガーリッドは近付いてきていたタチトカゲを斬り捨てた。そしてその消滅を確認してから、再び敵の中に斬り込むべく走り出す。ライナスが後れを取るものかとすかさずそれに続き駆けて行ったので、ロナルドもそれに続こうと身を屈めて飛び上がる予備動作に入った。

 

 するとその彼を誰かが密やかな声で呼んだ。それは本当に囁き声であり、真隣にいても常人なら思わず聞き返してしまうほどに小さなものであった。しかし戦闘中ということもあり身体強化のレベルを少し上げていたロナルドの耳はしかとそれを捉える。

 

 聞き慣れない声に一体誰が、と見回そうと首をめぐらせたその瞬間、戦闘不可のメンバーが固まる所から少しだけ離れた場所にいる少年――和俊が手招きしてるのが視界に映った。ロナルドは跳ぶ方向を変え、彼の近くに着地する。

 

「何? えっと」

「和俊。カズでいいよ。ところでロナルド君」

「ロニーでいいよ。うん?」

 

 簡単に紹介を済ませて呼び出しの用事を問いかけると、和俊は真剣な表情でまた囁き声で喋りだす。

 

「この戦い終わったら、悪者役お願いしていい?」

 

 単刀直入なそれにロナルドは目をぱちくりさせる。しかし続けて和俊が少し厳しいほどに真面目に説明してきた内容を聞くと、その表情は同じく真剣なものに変わり、彼は最後黙したまま深く頷いた。

 

「ありがとう。きっと、君が一番適任なんだ。引き受けてくれてよかった――後ろ!」

 

 ほっとした様子で微笑んだ次の瞬間、和俊の表情は険しく厳しいものへと感情の方向性を180度変える。即座に反応したロナルドは、気配がなかったことに驚きつつも背後に迫っていたらしい敵を蹴りつけた。

 

 だがその反応は鈍い。代わりに、蹴りつけたロナルド、そして何の話をしているのか気になってそちらに視線を向けていたアルバは揃って「いっ!?」と戸惑った声を上げる。

 

「うわあああ、な、何これ何これ何これ!? ぞ、ゾンビ!?」

「えええええっ、そ、そんなのまでいるのぉぉ?」

 

 攻撃など蚊に刺されるよりもダメージがない。そう言い張るようにロナルドの蹴りを受けて平然とそこにいたのは一目見て生者とは異なる存在だ。背後には同じようなものが何人もいる。それは間違いなく「ゾンビ」と形容して構わない存在だろう。

 

 和俊が固まっているアルバを連れて引き下がり、ロナルドはどうしたものかと混乱した様子をみせていた。すると、その背後から先んじて誰かが行動に出る。

 

「ヒール!」

 

 言葉と共に先頭にいたゾンビに降り注いだのは温かく穏やかな光。それが回復系の術であると気付いたロナルドは声の主の真意がその瞬間だけ分からなかった。だが、瞬く間にその真実は明らかにされる。

 

 ロナルドの攻撃にびくともしなかったゾンビは無理やり動かしていた糸が切れたように動きを止め、光が沁みこむほどに塵と化し、やがてその姿は消滅した。

 

「うん。ゾンビはウチに任せて。ロナルド君は他のやつらお願い」

 

 ゾンビが倒せることを確認すると、回復の主ことケイティはぐっと拳を握り締めその手応えを噛み締める。促されたロナルドは返事をすると同時に跳び出し、再び敵陣へ討って出た。

 

「うおおお……っ! 皆さん凄いっす。こんな中でしっかり戦えるなんて。頑張ってください、俺応援してるっす!」

「いやお前も戦えよ。その銃は飾りかコラ」

 

 それらのやり取りを見て応援に力を入れるレギナルトの後頭部を雪宏が遠慮なしに殴りつける。あまりの遠慮のなさに、思わずハイネルが雪宏の第二撃を抑えるべくその腕を取った。殴られたレギナルトはすっかり怯えた子犬のようになってしまっている。

 

「だ、だって俺あんなのと戦ったことないっす。……うわー、アニカさーん、トルさーん、トミーさーん」

 

 あまりの心細さに尊敬する猟師(アニカ)といつも行動を共にしているトルステンとトミーの名前を呼び始めるレギナルト。苛立った雪宏が再度殴ろうと拳を振り上げるが、必死なハイネルに何とか止められ大事に至らずに済んだ。

 

 ちなみに、待機会場ではトルステンとトミーが「頼るなレギナルト!」「そうだ。アニカはともかく俺たちはそっち行っても役に立たねぇぞ!」と情けないことを叫んだためアニカに殴り倒されている。

 







                             



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