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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 時は雪宏たちが脱落する少し前に戻る。突如降り注いできた豪炎に咄嗟にシールドを張ったケイティであったが、それらは僅かの間も持たずに壊されてしまった。心中の祈りだけで出せるものでは限りがある。瞬時にそう判断したケイティは胸の前で手を組み祈りの文言を唱え始めた。

 

「『女神アルファローネの加護をここに。命(おびや)かす悪しきを阻み此を守らん。聖なる(ところ)()べ開け』っ! ――サンクチュアリッ!!」

 

 間に合えと願い力を込めて声が吐き出されると、ケイティを中心にクリーム色の光がドーム状に広がり、それは集まっている者たちを包み込んだ。それでも間に合わずに雪宏、尚香、呂秀が脱落してしまったことにケイティは苦い顔をする。

 

 ケイティが使用しているのは神術と呼ばれる、ケイティたちの世界における三種の奇跡のひとつだ。神に祈りを捧げ、その代わりに神より力を与えてもらう。本来は文言など必要としないのだが、まだまだ修行中のケイティでは、使用難度の高い神術を使うには文言が必要となる。

 

 自身の修行不足を悔やみながら炎に耐えていると、炎の向こうでエルマが大声を出した。

 

「ブールッ!!」

 

 ブール、と固有の名詞が叫ばれたと気付いた者たちの視線が次々に彼が睨みつけている方向へと向けられる。そうして視界に映した存在に、一同は嫌そうな顔をしたり怪訝な表情を浮かべたりした。

 

 現れたのは人の数倍は大きな肉だるま――エルマが今口にしたとおり、ブールという名の魔者だ。トランプ騎士団の世界で起こったある大きな戦いの際にエルマと戦った相手であり、エルマはあの魔者と戦って烏葉に正式に認められたのだ。

 

 自身に視線が集まる中、ブールは太く丸い指を参加者たちに向けて順繰りに辿っていく。

 

【グラブ、ズベード。他のエザ。ゼンブオデノエモノダァ】

 

 知性をまるで感じさせない様子で喋るとブールはにやりとだらしなく笑った。その様子にメーベルとアルバはぞくりと背筋を冷やす。

 

「ふざけんな。一度オレに負けたお前なんて怖くねぇんだよ! オレがもう一回滅してやるよ!」

 

 言下駆け出そうとするエルマだが、その他の魔者や魔物たちにその足を阻まれてしまった。代わりに馬超が槍を近くで戦っていた龍真に預けて弓を引き絞るが、放ったそれは突然横から現れた別の魔物がその身で受けて阻まれてしまう。

 

 その様子を見て秋菊がはっとした。

 

「あの魔物、あいつを庇った?」

 

 言葉にされたそれは全員の違和感を確かにする。そして、先ほど和俊が読み上げたエネミーシェイクの概要を思い出したハイネルがその結論を口にした。

 

「もしかしてあの魔者が核の敵なんじゃ……!」

「可能性は高いかもね。だけど、このままじゃ倒しになんて行けないわ」

 

 納得しつつも悔しげにそう口にしたのは馬超に槍を返してまた敵と向き合っていた龍真だ。その彼女、否、前に出て戦っている者たちは全員が敵に囲まれている。とてもじゃないがアレを倒しに行く余裕などありはしない。

 

 突きつけられた現実にごくりとレギナルトが唾を飲み込む。その横で同じような表情をしていた和俊が声を張り上げる。

 

「ねえ、どこかの軍で召集系のアイテム獲得してない? これ見ると結構あるみたいなんだけど」

 

 ルールブックを示しながらの問いかけにケイティは困った顔をする。呂秀を獲得した際に確かに召集系のアイテムは手に入れたが、周孝を呼び出すためにすでに使ってしまっている。あの時は仕方ないと思うが、それでも現状を受けると早まったかとさえ思ってしまう。

 

 その中、ジェイムズが思い出したようにアルバに声をかけた。

 

「アルバさん、ポシェット探ってください。確か尚香さんを獲得した時のアイテムが召集系のアイテムだったはずです」

 

 ロナルドが戦いに出る時にポシェットを預かっていたアルバは、慌てて返事をするとすぐにポシェットの中身を探り出す。そして取り出されたのは手乗りサイズの箱であった。手招きするようなマークがついたそれは「カモン・ユー」という名の、紛れもない召集アイテムである。

 

「じゃ、じゃあ早速」

「待ってアルバさん。それレギナルトさんに使わせて」

 

 説明書を読みながら使用を試みようとするアルバを和俊が引き止める。その内容にアルバのみならずハイネル、そして当のレギナルトもとぼけた声を上げた。

 

「僕たちのメンバー見て。この短時間にこれだけの人数を、しかも戦える人を引き当てられるレギナルトさんの強運は使うべきだよ。そのアイテム確か半径3メートル以内にいる別軍にも効果あるよね? それなら全軍に補充はされるはずなんだ。お願い」

 

 真剣な申し出に、アルバは困ったようにハイネルに目を向ける。本来判断すべきはリーダーであるロナルドなのだが、残念ながら前線で戦闘中だ。少し目を見合わせて考えてから、ハイネルはこくりと頷く。それに頷き返し、アルバはレギナルトにそれを渡した。

 

「お願いします、レギナルトさん」

「う、うす!」

「っ、レギナルトさん早く! あいつまた火吐くつもりだ。ケイティさん次の障壁張って」

 

 焦った和俊の声を受けてレギナルトはブールに視線を向ける。そして視界に炎を口の周りにちらつかせて腹を膨らませているブールを見て和俊以上に焦った。

 

「うわわ、え、えーと? 『開くと使用軍含め半径3メートル以内にいる全軍にメンバーが補充されます。補充される人員は使用者のリアルラックによって決まります。また、言葉を声入力するとそれの意味がラックに加算されます。例。希望、夢、未来、友情などなど』。えっと、何入れたら……」

 

 少しでも当たる確率を増やしたいレギナルトは何を入力したものかと言葉を頭の中で捜し始める。その彼に、アルバが勢い込んで声をかけた。

 

「あのっ、私の名前使ってください。私の名前、そういう意味合いを込めてつけてもらったものなんです。アルバ・エスペランサ。意味は――」

 

 告げられたそれに、レギナルトは明るい笑みを浮かべて頷くとアルバのフルネームをアイテムに入力して蓋を開く。それと被って放たれた火炎とケイティが再度展開したシールドが衝突した。







                             



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