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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 それを楽しげに眺めながら、ジーンは何もせずに止まっていた。一体何をしているのか。和俊やアルバたちが不思議そうに眺めていると、別所で戦っていたジェイムズとメーベルが弾かれたようにそちらに目を向ける。続けてロナルド、エイラと、同様の様子を見せた。

 

 総じて魔力を持つ者だと和俊が理解した時、トウェイン兄妹が珍しい大声を出す。

 

「皆さん一箇所に集まって! ケイティさん、エイラさん、シールドを」

「急いでください! あの人を中心に膨大な魔力が渦巻いてます!!」

 

 叫ばれた言葉の意味を事実と共に正確に理解できる者は少ないが、それでもその恐慌気味な様子から嘘ではないと判断した一同は一斉に同じ場所に駆け出した。樹里たちをはじめとした戦闘不可能面子を連れて来るのもロナルドがしかと行い、全員が集まった所でジェイムズとメーベル、ケイティ、エイラは一斉にそれぞれの術でシールドを張る。

 

 そしてその瞬間、ブールが火球を吐き出した。豪速で突き進むそれは周囲の草木を焼き焦がす。だが、それはただの児戯に過ぎなかった。

 

「んだよ、この程度か……。つまんねぇな。炎ってのはこうするんだよ」

 

 真っ直ぐに向かってくる火球すら予想よりも遥かに劣っていたらしい。吐き捨てると、ジーンから波のような炎が噴き出てくる。それはブールの火球を飲み込むと炎の津波となって核なる敵へと向かった。にもかかわらず、逆方向にいるはずの参加者たちにはその熱が伝わってくる。

 

 幾重にも重なったシールドに守られているというのに、皆のバルーンは徐々に徐々にダメージを蓄積していた。特に最初から前線で戦っていた者たちのバルーンの色はすでに赤がはっきりと見えている。周囲では守りのない敵軍が次々に消滅していた。

 

「そうだ、氷冷石……樹里、ちょっとごめんな」

 

 ガーリッドが思い出したように樹里に近づき、彼女が下げたままのポシェットを探った。そして彼が取り出したのは、周孝を仲間にした時に得た氷冷石だ。この石は氷のアルプレイト。本来は機械を通してエネルギーを取り出すのだが、これだけの大きさなら割れば一瞬だけでもエネルギーが放出されるはずだ。

 

 何もしないよりもマシだ、と、ガーリッドはそれを握り締め投擲の動作に入る。

 

「姉さん、これ割ってくれ!!」

 

 叫ぶが早いかシールドに向かって投げつけたそれを、応えたマリーニアが弓を放って粉砕する。その途端、冷気が爆発的に溢れ、訪れる熱気が減少した。想像以上の効果が出たことにガーリッドはじめシールドに守られた者たちが安堵する中、ブールの絶叫にも似た声が聞こえてくる。

 

【ヴ、ヴゾダ、ヴゾダァァ! 武器モナイダダノ餌ノグゼニオデヨリモ強イナンデ……!】

 

 襲い来る熱を受け入れがたいのか、炎の魔者は否定するように何度も火を吐き出す。だが、それらは全て炎に飲み込まれてしまった。そしてついに、眼前に来た炎にその身を包まれてしまった。

 

 もしも現実のソレであったなら、ここで断末魔が響いていたことだろう。常時の魔者との戦いを思い出しながらティナとエルマはそんなことを考える。

 

 核の敵が消滅したことで、あれだけ湧いていた敵軍が一斉に消滅した。同時にジーンから溢れていた炎が治まると、一瞬前が嘘のような静けさが周囲を包み込む。

 

「……お、終わった……?」

「凄い……」

「……というか、ちょっと怖いわね」

 

 何とか余波を耐え切り、一同はほぅと息を吐いた。その一方で、すっかり焼け野原になってしまった周囲を見るとジーンの能力に恐ろしさを感じずにいられない面々が苦笑を浮かべる。

 

「あ、あの、でも結構あれで優しい人でして」

「無理に説明すっと余計嘘くせーぞ」

 

 必死にフォローしようとするアルバをレイギアが茶化すと、その彼をマリーニアが肘で突く。それにレイギアは気にした様子もなく口笛を吹いた。

 

「……ま、とにかく何とかなってよかったわ。さすがにここで決着つける気になんてならないでしょうから、一度離れましょうか?」

 

 龍真の一言に全員の空気が揺れる。そう、つい先ほどまでの状況はいわば偶然であり、仕方なくの結果なのだ。本来、ここにいる者たちはこの企画中は互いに敵同士。共闘すべき相手がいなくなった以上、別軍はただの敵でしかない。

 

 確かに仕切り直しが必要だろう、と移動の空気が流れる中、和俊がロナルドにちらりと視線を向ける。気付いたロナルドは小さく頷くとそっと歩き出した。

 

 その彼が足を向ける方向には、座り込んだままの樹里とそれに気を遣っているケイティ、ガーリッド、周孝、エイラ、アニカがいる。

 

「樹里ちゃん、大丈夫? 落ち着いた?」

「……す、み、ません……私……」

「大丈夫だ、気にしなくていいぞ。それより気分は悪くないか? どうしても駄目なら、たぶんそろそろ俺か俊応さんが独立出来るだろうから、そこに降ってこい」

「ああそうだな。大将騎じゃないなら少しは気が楽だろう」

「無理しちゃ駄目だよ樹里ちゃん」

「そうよ。……それにしてもリタイアがないっていうのも困った話ね」

 

 戦いが開けたためようやく周囲の空気を受け入れ始めた樹里だが、それでもなお立ち上がることが出来ずにいる。どうしたものか、と周りの5人が顔を見合わせたその時、ロナルドが近くに来て、ぺこりと彼らに頭を下げてから樹里の後ろに座り込んだ。

 

 一体どうしたのだろう、と動向を見守っていると、彼はぽんぽんと樹里の頭を撫でるように叩く。ああ、慰めに来たのか。樹里軍だけではなく他の軍、さらには待機会場で見守っていた者たちもそう思った。だが。

 

「ごめんね、樹里さん」

 

 謝罪。言下、指で何かを弾いたような高い音が響く。







                             



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