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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 そうして気がつけば、樹里は、ケイティは、ガーリッドは、周孝は、待機会場へと飛ばされていた。

 

「……え?」

 

 一体何が起きたのか。理解出来ずに戻ってきた樹里軍が全員固まっていると、騒がしいクリフの声が実況をはじめる。

 

『なんとぉ〜〜〜〜! あのいい子ちゃんなロナルドがまさかまさかの奇襲だあああ! でこぴん一発で樹里ちゃんのバルーンの耐久度は限界地突破により失格。それに合わせて、耐久度が半分以下になってたケイティちゃん、ガーリッド、周孝さんも失格だ。ガーリッドと周孝さんは撃破数が条件超えてただけに残念だったな〜』

 

 驚きと感心の籠もったそれを聞き、ようやく事態を理解したケイティ、ガーリッド、周孝は力が抜けたようにその場に座り込んだ。

 

「うわぁぁ、油断したぁぁ」

「ロナルドの奴、そういうタイプじゃないと思ったんだけどなぁ」

「はー、まあ仕方ない。樹里が戻ってこられただけでよしとするか」

 

 少し呆れた様子で笑った周孝の言葉に、ケイティとガーリッドはそれもそうかと同じような様子で笑う。すると、座り込んだままだった樹里の元に彼女の親友たちと晴之が駆けつけてきた。

 

「樹里!」

「樹里大丈夫?」

「よく頑張ったな樹里。あずきと輝介(きー)とお兄ちゃんだぞ。分かるか? ん?」

 

 心の底から心配する意識に囲まれた樹里は、詰めていた息を吐き出す。そして同時に、顔をくしゃりと歪めて泣き出した。声は出さない。出せない。そんな彼女をあずきと輝介は左右から抱きしめる。

 

「樹里凄く頑張ったね! 偉いよほんと」

「もう怖くないからさ、大丈夫だよ樹里」

 

 安心させようと何度も何度も樹里の名前を呼ぶあずきと輝介を、樹里もまた彼らの腕を抱えるように抱き締め返した。自分も慰めたい晴之がそわそわするその横を、ふらりと誰かが通り過ぎる。気配を感じなかったその人物に驚いていると、その人物は抱き合う樹里たちのそばまで来て鼻をひくつかせた。

 

「え? 誰?」

 

 いち早く気付いた輝介が見上げたのはひとりの青年だ。どこかやる気がなさそうな茶色の双眸は樹里を捉え、同色の首元まである髪をさらりと揺らして首を傾げる。見たことのないその人物が新しい住人だと輝介はすぐに気付いた。しかし、同様に彼を見上げたあずきと樹里が最初に思ったのはそれではない。彼の顔の脇にある、髪よりも濃い茶色の人とは違う耳を、そして長い尾を見て、彼女たちの大好きな猫を思い出したのだ。

 

 彼はガルシア・ランガ。アルバたちと同じ世界に住むひとつ尾の人獣族である。

 

「……ねえ」

 

 声をかけながら、ガルシアはその場にしゃがみこむ。声をかけられた樹里はびくりとしつつも返答した。すると、ガルシアは樹里が下げたままのポシェットを指差す。

 

「それちょうだい」

 

 それ、と言われて樹里はポシェットを持ち上げて「これ?」と動作で尋ねた。

 

「その入れ物はいらない。中の」

 

 ぺしぺしと尻尾が上下する。樹里は慌てて中に入っている最後のアイテムを、海苔を、取り出した。それを、ガルシアはまるで至高の宝でも見るような目をする。表情はあまり変わっていないというのに「嬉しそう」と見えるのが不思議な感覚だ。

 

「たべる」

 

 ぽん、と白い煙があがると、そこにはひょろっとした青年ではなく一匹の模様の入った茶猫がいた。猫はすたすたと歩み寄ると樹里の膝の上に乗り彼女が手にしている海苔をとても美味しいそうに、とても幸せそうに食べ始める。

 

「う、うあああ、可愛いいいい。な、何この人……え? 人? 猫? ああどっちでもいいや可愛いよぉ。ね、樹里!」

「……うん」

 

 はむはむと海苔を食べ続ける猫ガルシアに、あずきと樹里はすっかり骨抜きの様子だ。

 

「……よかった、かな?」

「そうだな。表情が柔らかくなった」

 

 邪魔はするまいと樹里から離れた輝介は座ったまま後ろの晴之に問いかける。同じくしゃがんだままだった晴之は安堵したような笑みでそれに答えた。どこの誰かは知らないが、悪意がないなら別に可愛がられてくれてもいい。

 

「それよりカメラが欲しい」

 

 可愛い妹分と可愛い恋人(未満)を眺めて晴之が本音を口にすると、輝介は呆れたように吐き捨てた。

 

「この変態」

 

 聞き捨てならない晴之と覆す気のない輝介が誰がだお前がだとやり合う中、また別の誰かが近付いてくる。今度はしっかりと気配を感じ取り視線をそちらに向ければ、謝がそこにやってきていた。

 

 胸に手を当て丁寧にお辞儀をする謝に、晴之は慌てて立ち上がり応じる。

 

「この度は配慮の少ないことをいたしまして誠に申し訳ございませんでした。のちほど改めて正式なお詫びに伺わせていただきます」

 

 頭を垂れて詫びの意味合いの謝意を表す謝に、晴之は軽く首を振った。

 

「いや、そりゃ途中こそあれだったけど、最初にやるって言い出したのはこっちだしな。俺たちも止めなかったわけだし、そこまで気を遣ってくれなくて大丈夫だぞ、謝さん」

「そういう訳には」

「いーじゃん謝さん、何だかんだで樹里も痛いとか怖いとか思う前に帰って来られたっぽいし」

 

 食い下がる謝に輝介がさらに言葉を足す。これで樹里が傷付いて帰って来ていたら全力で関わった全員に復讐でもしでかしかねないが、今ああして微笑んでいるなら輝介はエルマ以外の誰も責める気はない。エルマは駄目だ。後であずきと文句を言いに行く。

 

「……ええ、その件に関してだけはロナルド様と和俊様に感謝しております」

 

 言葉通り安心した様子を見せた謝に晴之と輝介は揃って不思議そうな顔をした。彼からしてみれば運営側として出来なかったことをやってくれたのだからロナルドに感謝する気持ちは分かる。だが、何故そこに和俊の名が加わるのか。

 

 怪訝に思っていると、その表情の意味を察したのか謝が言葉を付け足した。

 

「先ほどあちらで、和俊様がご自身がロナルド様に頼んだのだ、と仰っていました」

 

 示してくる手に促されるように晴之たちの視線はスクリーンに向けられる。樹里に気が向いていたので気付かなかったが、向こうでも樹里の件で何かあったらしい。

 

「それでは私は一度引かせていただきます。失礼いたします」

 

 また来ることを前提とした辞去を唱えると、謝は再びスタッフの席へと戻る。しかし、すぐにマイクを持って朝礼台に上った。

 

『メイン会場、および待機会場にいらっしゃいます皆様にご連絡いたします。ただいまの戦闘を拝見いたしまして、今回ばかりはあまり全員参加にこだわるべきではないと判断いたしました。つきましては、これより待機会場にいらっしゃる皆様に、参加・不参加を表明していただきます。これは申請いただければいつでも変えられますので、まずは現在の意向をお願いいたします。それでは「トランプ騎士団」の方々よりどうぞ』

 

 樹里の様子を見ての判断を受けての決断のようだ。会場中がざわめく中、まず最初に質問を向けられたトランプ騎士団の面々は少しの間話し合ってから代表してアズハが返答した。

 

「我々はジョーカー以外はこのまま参加しよう」

 

 続けて『クラウンワルツ』ではラルムが返答する。

 

「うちは、エーデルフェルト隊長とエドガーさん以外が参加します」

 

 さらに続けて『僕らの世界』では全員参加、『ヴァインシュトックの英雄』では強制的に参加を指示されたトルステンとトミー以外は不参加、『創霊の紡ぎ歌』ではヘレン、マーシャ、ボニトが不参加。『風月記』では春蘭と松柏が、『異聞三国演義』からは孫権、魯粛、張昭が不参加。通常世界組は悠一、陽菜乃、咲也、聖以外が全員不参加だ。

 

 大幅に参加人数が減ったことに周囲からは継続が危ぶまれるが、謝はそのまま受理するとラリーに連絡を取るように好に指示する。

 

『……それでは現在における参加者はこちらのモニターに表示いたします。参加人数が大幅に削減されましたので、ステージサイズを縮小。および、カードの発見確率を上げさせていただきます』

 

 言下、周囲が大きく歪んだ。再び視界がはっきりとした時、メインステージを俯瞰で映していたモニターに異変が起こっていた。同じ形で、サイズがふた周りほど小さくなっているのだ。

 

『それでは以上でステージ変更を終了いたします。引き続き企画をお楽しみください』

 

 一礼し、謝は再びスタッフのテントに戻る。その背後からは「そんな簡単に出来るのか」と驚きが広がっていた。







                             



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