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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 時は少し遡り樹里およびケイティたちが脱落した直後。予想だにしない事態に全員が固まった。

 

「え……え? ロニー君?」

 

 最初に口を開いたのはアルバだ。ロナルドと同一世界の人間であり、かつ彼とは友人でもあるアルバには彼の行動が理解出来なかった。アルバの知るロナルドは決してこのような不意打ちをするような人物ではない。

 

 真意をはかりかねていると、後ろを向いたままだったロナルドが立ち上がり、振り向く。そして告げられた言葉に

 

「樹里さんの僕が敵は当たる前に」

 

 全員が、違った意味で沈黙する。

 

「……えーと、ロナルド? だったかしら? もう一回落ち着いて言ってくれる?」

 

 アニカが馬鹿にするというより子供に尋ねるようにゆっくりと尋ねるが、ロナルドは今度は何を言っていいのか分からずに混乱しだした。しかし、その様子が周囲に先の行動が彼の意思ではないことを何となくではあるが悟らせる。

 

 ざわめく周囲の空気にため息をついたのは和俊だ。

 

「ああ、もういいよロニー君。根が素直な君に悪役は無理だね」

 

 諦めたようにそう口にした和俊に、ロナルドは申し訳なさそうな、しかしどこか安心したような表情を浮かべる。一方で、以前から彼を知る面々は総じて納得したような様子を見せた。アニカたち新参の面々はどういう人物なのかと内心で疑問を抱く。

 

「何で樹里の軍脱落させたんだ? まあ、ふたり残ってっけど」

 

 ライナスがちらりと視線を向けたのは、大将騎がいなくなっても撃破数が“一定数”を超えていたため新たな大将騎として場に残ったエイラとアニカだ。この時、参加者たちは明確にはされていない規定の撃破数がそれほど高くないことを察した。魔物退治に余念のなかったエイラはともかく、後方からサポートと残飯処理(、、、、)をしていただけのアニカが大将騎として残ったことが、その何よりの情報であった。

 

「理由なんて見てきた通りだよ。あれ以上新原さんを残しておくのは可哀想でしょ? 出来ればすぐに払ってあげたかったけど、周孝さんとガーリッドさんとケイティさんの3人の戦力がなくなるのはあの時痛かったからね。終わったら戻してあげてって僕が頼んだの」

 

 もっともらしく説明され、それもそうかと頷く者や感心した表情を浮かべる者がちらほらと現れる。だが、その内心で和俊は笑っていた。

 

 和俊は基本的に「可哀想」で動く人間ではない。確かにトラウマを刺激された時の樹里の様子は哀れではあったが、それだけでどうのこうのとするには理由が弱い。今回は、一番はやはり敵対勢力の駆逐が理由だ。樹里軍は正直戦力としての脅威となる者はいなかったが、減らせるならば減らしておきたかった。ましてケイティは回復・補助に優れる。使う側であれば決して手放せない駒だが、敵として現れるならば真っ先に消すべき相手だ。

 

 残念ながらエイラとアニカが残ってしまったが、その辺りはまたのちほど考えることにしよう、と和俊はそちらに関する思考を一度閉じる。

 

「でも何でわざわざロニーに? 樹里ぐらいならお前らの軍誰でも倒せただろ」

 

 エルマが重ねて問いかけてくる。その理由を答えたのは和俊ではなく秋菊だった。

 

「ロナルド殿が一番適任だったのではない? たとえば私が頼まれたとしたら確かに脱落には出来ただろうけど、周孝殿たちがそれを素直に許すとは思えないし、何より樹里殿にこれ以上の恐怖を与えるのが忍びなかった。それなら、予備動作のない攻撃すら威力のあるロナルド殿の方が余計な恐怖を与える前に戻せる。……そう?」

 

 自身の考えを述べてから、秋菊は確認するように和俊に目を向けてくる。これはもうけたと、和俊は笑って頷いた。ロナルドに任せたのは余計な戦闘なしに樹里軍を排除し、かつこちらの軍に被害が出ないようにという考えだったのだが、聞こえがよい理由をわざわざつけてくれたのならば利用しよう。

 

 若い面々は和俊の行動に感心した様子を見せるが、年長の面々は何か含んだような笑みを浮かべた。

 

『メイン会場、および待機会場にいらっしゃいます皆様にご連絡いたします』

 

 マイクが入る時のノイズが響くと、続けて放送が始まった。メイン会場にいる面々の頭の上には針の止まった大きなアナログ時計が浮かび、空中に謝を映したスクリーンが現れる。

 

 樹里の件を受けて状況が変わったらしい。謝の説明、そして参加の有無が発表されると、メイン会場の参加者たちの腕輪から軍表とは違う表が表示された。つい今しがた決定された参加者一覧だ。

 

 続けて周囲が大きく歪んだ。再び視界がはっきりした時、一同は周りを見回す。焦げた周囲が戻っている以外、すぐには違いに気付けなかった。だが、目のいいロナルドが最初に自身がいた岩山が近付いたことを指差しつつ告げると、ステージサイズの縮小は一同の中で確かに認識された。

 

『それでは以上でステージ変更を終了いたします。引き続き企画をお楽しみください』

 

 謝が一礼すると、空中の映像が掻き消える。そして残った時計が動き出した。

 

『3分後、軍ごとにステージ内をランダムに移動いたします。ご注意ください。3分後、軍ごとにステージ内をランダムに移動いたします。ご注意ください。3分後、……』

 

 流れるアナウンスに面々はそれぞれの軍でまとまりだす。その中、ジーンだけがそれぞれの中央に歩みを進めた。一体何をするつもりか。先の彼の魔法が記憶に新しい一同は警戒を露にする。向けられる警戒の眼差しの中、ジーンは楽しそうに笑った。

 

「全軍が一同に介する機会、中々ねぇからなぁ」

 

 そう言うと、ジーンは軽く息を吸い込む。







                             



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