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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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「ロナルド軍に味方する」

 

 そして放たれた言葉にまずレギナルト軍が驚いた。しかし、ジーンの言葉はまだ止まらない。

 

「エイラ軍に味方する。アニカ軍に味方する。レギナルト軍に味方する」

 

 口早に何度も裏切りを重ねるジーンの行動の真意を、誰もがはかりかねる。だがその中唯一それに気付いた和俊は信じられないものを見るような目をジーンに向けた。

 

「ロナルド軍に――」

「ジーンさん」

 

 さらに裏切ろうとしたジーンを和俊が呼び止める。言葉半ばに切られたジーンは笑いながら和俊に目を向けた。そうして真っ直ぐに目が合った時、嘘に敏感な和俊は理解する。彼が(、、)本気だということを(、、、、、、、、、)

 

「……僕はね、誰に“それ”を、どうやらせようか考えてた。でも、いくら遊びとはいえ、まさか自分からやろうとする人がいるなんて思わなかったよ」

 

 ジーンがこの“特別ルール”を知ったのは間違いなくつい先ほどだ。和俊からルールブックを借り受けたその時。あの時に浮かべた笑みは、こういう理由だったのだ。

 

 和俊は眉を寄せ苦い顔で笑う。

 

「あなたは、本当に狂ってる」

 

 きっぱりと言い切られると、ジーンはひどく楽しげに笑った。

 

「一度きりの人生だろ? 楽しむことに全力で何が悪いんだよ」

 

 まるでそれが理解出来ない奴こそ狂っていると言いたげな台詞を鮮やかな笑顔で吐き捨てると、ジーンは遮られた言葉を再度言い直す。

 

「ロナルド軍に味方する」

 

 5回目の裏切りが宣言された。その瞬間、けたたましいホイッスルの音が鳴り響く。そして、ジーンの頭の上に的を胸に抱いた人形が現れた。

 

『5回目の裏切りが確認されました。ただいまよりジーン・T・アップルヤードを“ターゲット”として登録します』

 

 流れ出た音声に何事かと皆がざわめく中、今度はクリフの映像が空中に現れる。

 

『おおおいっ、正気か! 正気かジーンこの野郎! ただいま特別ルールが適用されたからご説明するぜ。今回のゲーム、裏切りシステム搭載なわけだが、「あんまり裏切りすぎると痛い目遭うぜ☆」という教訓を含めて裏切り回数が5回にのぼった奴を“ターゲット”として扱うことになってる。このターゲットってのは、その1、仲間を作れない。その2、回復不可能。その3、どの軍にも降伏出来ない』

 

 要は孤軍になる、ということである。しかしそれだけならばただの仲間を作らない状況と変わりない。ジーンが自らターゲットになったのは、その最大の特徴ゆえだ。

 

『そしてその4。これは他の軍の利点だが、ターゲットを倒した軍は全員が回復し、アイテムを1つから3つほどゲット出来る。要するに、ターゲットはそれ以外の奴から見れば今回の企画における一番のおいしいアイテムってことだ。ただし相手ジーンとなるとそれも難しいか。さあ、ターゲットが勝つという異例の事態になるかそれともお約束どおり駆逐されるか! お前らの行動に期待してるぜー!』

 

 説明を終わらせると映像はふっと消える。そして訪れる沈黙の中、突然レイギアがふき出した。

 

「ははははっ、とんでもねぇな坊主。確かにいかれてやがるな」

 

 この場で最年長ながら、この宮でもっとも大人気ない男にすら「いかれている」と認定されてもジーンは余裕で笑うばかりだ。その彼に、レイギアは楽しげな笑みから一変、凶悪な笑みを浮かべる。

 

「面白ぇ。――下克上だ。俺は別軍で動くぜ」

 

 今企画初の下克上が宣言されると、針を進める時計の上に王冠のマークが現れ、瞬きほどの間にすっと消えた。そして軍表にはレイギア軍が追加される。一昨年のハロウィンを思い出し、20歳未満の子供たちはメインステージ・待機会場問わずに苦い顔をした。

 

「ちょっとレイギア……」

 

 マリーニアが何か文句を言いかけるが、レイギアの様子を見てそれを飲み込み、代わりに肩を竦める。

 

「ロナルド君ごめんなさいね、あの人放っておくと何をしでかすか分からないから、私あっちに行くわ」

 

 手を合わせて申し訳なさそうな顔をすると、マリーニアはそのままレイギア軍に所属してしまう。一瞬困った様子を見せたロナルドだが、エルマに後ろから服を引かれてその表情は驚きに変わった。

 

「放っておけよ。むしろ好都合だ。今年こそ負けねぇ」

 

 強い口調で断言したエルマが睨みつけるのはレイギアその人。確か世界は違う所だったと思ったが。ロナルドが事態を理解出来ずにいると、エイラが一昨年の企画でエルマがレイギアにやられたのだと教えてくれた。

 

「……レギナルト、ごめんなさいね?」

 

 やり取りを黙したまま眺めていた龍真が突然謝罪を口にする。疑問を表したのはレギナルト。しまった、という顔をしたのは和俊だった。それらの視線の中、龍真は好戦的な笑みを浮かべる。

 

「下克上よ。ここまで正面きって喧嘩売られて引き下がるなんて、武人の誇りに関わるわ」

 

 冷静なように見えるが、龍真は子供の頃から喧嘩っ早い性格をしている。そのおかげで劉備(りゅうび)――正確には関羽(かんう)――に拾われた経緯があり、公孫瓚(こうそんさん)の軍に拠った時も主を貶す兵たち相手に何度か悶着を起こしている。過去を思い出した待機会場の(ちょう)(うん)が苦笑した。

 

 さらに、龍真の生家である蘇家は誇りを何よりも重んじる一族であり、龍真はその直系として「命よりも誇りを重んじよ」と育てられてきている。ジーンの大胆不敵な宣戦布告は、その彼女を刺激するのに十分すぎた。

 

「ふむ、なら俺も龍真につこう。武人の誇り、という(くだり)は同感だ。すまないなレギナルト」

 

 顎に手を当てて少し考えた様子を見せてから、馬超が龍真軍に降る。新たな軍が次々に誕生する中、総計7軍19名で、企画は再度仕切り直されその場から全ての軍が消えた。

 

 後には、場違いなほど穏やかに吹き抜ける風だけが残る。

 







                             



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