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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 ロナルド軍が飛ばされたのは最初にレギナルトが飛ばされた大池の近くであった。きらきらと光を反射する水辺の美景にアルバが感心していると、その背後ではエルマが拳を丸める。

 

「よし、すぐにレイギアのおっさん退治に行くぞ」

「えっ。ちょ、ちょっと待ってよエルマさん。少し作戦立てないと。敵増えちゃったし、何よりジーンさんが大人しくしてるとは思えないよ」

 

 ロナルドの意見にエルマは不満そうな顔をした。だが、同じく戦闘職である周泰にも無言のまま頷かれ、さらにジェイムズやハイネルにも困ったような視線を向けられては冷静にもなる。

 

「〜〜ちぇ。分かったよ。じゃあどうする? ジェイムズで先手必勝魔法で一網打尽とか?」

 

 策と言うにはあまりに投げやりな意見だが、的は射ている。現在魔法を使用出来る者が少ない今、彼の魔法は有効な手段だ。しかし話を向けられたジェイムズは申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。

 

「すみません、さっきの戦闘……最後のシールドでマテリアライズポイントが切れてしまって。しばらく魔法は使えないです」

 

 ジェイムズたちの世界では魔法・神術・精霊術の3つの奇跡、一部の技などを使う際にはマテリアライズポイント(MP)という精神力が必要になる。これがなくなると依存度の高い魔法使いたちは何も出来なくなってしまうのだ。

 

「メーベルも僕と同じで、今は魔法は使えません。エイラさんは消費効率がいい方ですから多分まだ余裕があると思います。ライナスさんはMPに依存しない戦闘タイプの方ですから戦闘に影響はないはずです」

 

 ジェイムズは自身の知るメンバーのみの現状を予測して説明していく。MP量が同等の妹の分だけは確実だと自覚しているので断言した。

 

「体力的な面で行くなら、恐らく最初から戦っている面子は随分削られているだろうな。あの遠距離の武器を使っていた新参のふたりは知らないが、劉軍のふたりと秋菊、ティナ殿は確実だろう。……お前もな、エルマ」

 

 周泰がさらに予測を足していく。その上で名指しで指摘されてエルマはキッと周泰を睨みつけた。確かに最初から戦闘に参加していたために体力は減っている。だが、戦えないほどだと思われているのはあまりに心外だ。体力はある方だと自負しているエルマの自尊心が刺激され彼の周囲の空気が剣呑なそれに変わり始めた。だが、荒くれ者の集団の出身であり今も武人として戦場に立つ周泰には慣れすぎたものであり気がついた様子がない。

 

 一触即発の空気が流れる中、誰より先に状況に気付いたハイネルが話を変える。

 

「あれ、あそこにあるのってカードじゃないですか?」

 

 実は少し前から気付いていたのだが、さも今気付いたようにハイネルは少し驚いたようにある方向を指差した。一同の視線がそちらに向くと、大池の中にカードが浮かんでいるのがそれぞれの視界に映る。

 

「んー? あっ、本当だ。気付かなかった」

 

 大池を見ていたはずのアルバは目の上に手を当てて遠望し、確かに大池の中心あたりにカードが漂っていることに気が付いた。

 

「えー、あれどうします?」

 

 水際まで来てくれれば取れるのだが、ああも中央に寄られては容易に取りに行けない。

 

「やめておこうぜ」

「諦めた方が賢明だな」

 

 ジェイムズの困ったような問いかけに、エルマと周泰は同時に答える。喋り始めが完全に一致したふたりは思わず互いの顔を見合わせた。

 

「……真似すんなよ」

「してない。だが意見は同じようだな」

 

 むすっとしたエルマの言いがかりをさらりとかわすと、周泰はそのまま言葉を続ける。その点に関しては否定する気がないのでエルマは「そーだな」と投げやりな回答をした。

 

「あれが誰のものか分かんねーけど、水の中に入っている間に敵でも来たら厄介だからな。マリーニアとレギナルトとアニカの武器は中・遠距離に優れてるし、もし近くにいたらまずい。つーことでパス」

 

 まるで自分だってちゃんと考えているのだと主張するように説明をすると、エルマはどんなもんだと言いたげに周泰に視線を向ける。それに対して周泰は頷くだけに済ませた。冷たいというよりもこれが彼の対応の基本なのだ。たとえば彼の主である孫権(そんけん)や同僚である呉将の面々であればすぐに理解出来る様子だが、関わりの少ないエルマにそれが理解出来るはずもなく、感心を期待していた彼は不機嫌そうに視線を逸らした。

 

「(……私たちより子供みたいだね、エルマさん)」

「(そうだねー)」

 

 隣り合って立っていたアルバとロナルドは、そんな様子を見て苦笑しながら思ったことを小声で話し合う。

 

「ええと、とりあえず、しばらくは回復のために戦闘は控えましょう? 今ジーンさんに当たったら多分間違いなく勝てませんし。その間に仲間を増やしたりも手だと思いますよ」

 

 ジェイムズがそうまとめると、ロナルドが「あ」と思わず声を取りこぼした。

 

「多分だけど、ジーンさんも結構魔力消費してると思うよ。確かに魔力量多い人だけど、あんなに威力のある奴何回も使えないから」

 

 同じ世界に生き彼をよく知るロナルドは自身の考えを素直に口にする。ジーンの魔力量はロナルドに及ばずとも常人では足元にも及ばない量だ。だが、それも有限。ジーンが最後まで戦うつもりならば、あれはあまりに効率が悪すぎる。

 

 また、先の魔法は一同に彼の脅威を伝えるに十分であっただろうが、恐らく彼はこの企画内で二度とあの威力の魔法は使わないだろうとロナルドは予測していた。

 

 もちろん、魔力が尽きるから、という理由もある。だがそれ以上に恐怖を与えすぎると敵がやってこなくなる可能性があるからだ。彼がわざわざターゲットになったのは誰の制約も受けずに戦えることにある。それを自ら潰す真似はしないだろう。

 

 ロナルドからもたらされた有益な情報を頭に入れると、ロナルド軍は改めてその場を離れた。とりあえず、今はジェイムズの案を採用することにしたのだ。

 

 大池の周辺からロナルド軍がいなくなると、大池に浮かんでいたカードが何か細長いものによって拾われ、大池の横にそびえる大岩の上へと運ばれる。そしてそれは、宙を舞うと人の手の中に納まった。







                             



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