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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 なだらかな丘に飛ばされたレイギアは、心底嫌そうな顔をしていた。その隣のマリーニアはそれとは正反対に明るい笑顔をしている。その原因は彼らの前にいる3人の人物だ。

 

 ひとりめは左側の前髪をピンで留め、後ろは肩につくかつかないかの辺りで毛先が揺れる黒髪の少女だ。同じく黒の双眸は現状を楽しんでキラキラとしている。彼女はミヤコ・サイジョウ。元は樹里たちと同じ世界の人物であるが、レイギアたちの世界にトリップしてきた少女である。レイギアが拾ってきて今はマリーニアに預けており、このふたりにとっては関わり深い人物だ。なお、戦闘はからきしな完全な一般人なので戦力としての期待は出来ない。

 

 ふたりめは赤を基調とし黄色のラインが入った制服に身を包み、左肩で結ぶタイプのマントをたなびかせたブルーグレーのショートヘアと同色の双眸を持った女性。細い銀の鎖がついた片眼鏡の下の麗しい相貌には、しかし厳しさも称えられている。彼女はアデラ・ボネット。ケイティやエイラたちと同じ世界の人物であり、ライナスと同じ騎士院生だ。自他共に厳しく、レイギアとしてはもっとも苦手な生真面目な堅物タイプの女性である。腰に剣を差しているが、どちらかという素手の方が強いと噂では聞く。

 

 3人目は黒髪のショートカットをした薄い桃色の漢装の女性だ。柔らかな笑みを浮かべ穏やかな空気を醸しているが、その佇まいに隙はなく、手にされた三叉の槍は今は下げられているが一度放たれれば正確な攻撃が横向きの雨のように襲い来るだろう。

 

 戦力としてはプラスの状況だが、レイギアの口からはため息しか出てこない。

 

「あーーーーー、3枚一気に見つけてラッキーとか思ってたらこれかよ。いらねーよこんなに女ばっか」

 

 男女差別するようなタイプではないが、自身以外が女性となると話は違ってくるらしい。使えない、とは思わないは、「女はうるさいもの」と考えているレイギアには辛い状況だった。待機会場ではクリフが「そこ代われ」と騒いで周辺からお手玉を投げつけられているがそれはまた別のお話である。

 

「何ですかそれー。確かに私は戦えないけどアデラさんと仙星さんは強いんだからいいじゃないですか。そんな嫌そうな顔しないでよこのものぐさオヤジ」

「てめーが一番いらねーんだよ馬鹿娘が。戦えないくせに何で辞退してねーんだよこら」

「いふぁいー! らってはのしそうらったんらもん!」

「だって楽しそうだったんだもんじゃねぇ。言っておくが俺は助けねぇからな。危なくなっても放っておくからな。自分で何とかしろよ?」

「わはっへるほん!」

「おー分かってんだな? 本当だな? 覚悟しておけよ本当に放っておくからな」

 

 レイギアは多数の人物に恐れられている人物だが、ミヤコにとっては口が悪く手が早いおっさんでしかないため、堂々と文句も言う。その彼女への遠慮はもちろんレイギアにはない。――正確にはレイギアが遠慮がないためミヤコも遠慮がないのだが。

 

 頬をつねりそんな彼女と同じ目線で喧嘩する様子を見て、アデラは呆れた顔をし、仙星は一昨年のハロウィン杯を思い出しつつ苦笑を浮かべる。

 

「……ブルースペルさんは相変わらず子供と同じ目線で喧嘩するのがお得意なようで」

「ふふ、お見苦しくてごめんなさいねアデラさん。ミヤコちゃんが心配だからついつい憎まれ口になっちゃうんですよ」

「それにしてもレイギア殿、凄いですね。あの状態でミヤコ殿が何を仰ってるのか分かるのですから」

 

 頬をつねられているためミヤコの言葉の大半はよく分からないものになってしまっている。傍から聞いている女性三人組にはミヤコの言葉の内容が何となく程度しか分からないのだが、相対するレイギアは正確に聞き取って言い合いを続けていた。

 

「ああもういい! 勝手にしやがれ。おい、お前らついてくるなら勝手に来い。俺は山を降りて別軍潰して回る。見つけりゃあのガキも潰す」

 

 あのガキ、というのは彼が下克上を決めた決定打となったジーンのことだろう。判断すると、マリーニアたちはお互いの顔を見合わせて頷き合ってからその後に続く。

 

「あの男、確かに凄い力でしたが、あまりに暴力的過ぎます。一度しっかりお説教した方がよさそうですね」

「力があれば人は驕る。どの世界でも変わりませんね」

「うえー、あの人怖いんだよなぁ。出来れば会いたくないかも」

「大丈夫よミヤコちゃん。ちゃんと私が守ってあげるから」

 

 それぞれの思惑を喋りながら後をついてくる女性陣に、レイギアはぴくぴくと眉を引きつらせた。その間も会話が発展していき、山を降りきる頃には今回参加している人物たちがどういう面々かということに話が至る。その頃には低い沸点に容易に手が届いていたレイギアは心底苛立った様子で黙々と歩き続けた。今の彼が何よりも願うのはただひとつ。八つ当たり相手(敵軍)が早く見つかること。それだけだ。

 







                             



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