<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> |
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ロナルドたちが戦いを始める少し前。共に進んでいたはずの仙星の結果を前を向きながら推測したアデラは、怯えるアルバたちを背に立ちはだかったリーゼロッテに剣を向けた。 「リーゼロッテさん、でしたか? 失礼ですが空手で剣の相手をなさるおつもりですか?」 侮蔑ではなく、純粋な疑問としてアデラはリーゼロッテに問いかける。間違いなく戦闘を意識しているのは油断なく構えた姿から判断することが出来る。だが、武器を持つ気配はみじんもない。弟・ロナルド同様の強化系の魔力が全身を巡っていることがその答えだとも、アデラは自身で結論も出していた。 それでも一応問いかけたのは言ってみれば騎士の習いのようなものだろう。その思惑の前で、リーゼロッテはアデラに何の気負いもない明るい笑みを返した。 「ご心配ありがとうございます。その赤い制服を着ているってことは、あなたも騎士院生かしら? さすがに礼儀正しくいらっしゃいますね」 嫌みではなく純粋な賛辞。ありがたく受け取り頭を下げながら、アデラは返答を待つ。その生真面目な態度に一度微笑んでから、リーゼロッテはアデラの予想通りの答えを返した。 「でも大丈夫ですよ。こちらもそう簡単に負けるつもりはありませんので」 一変して強気な笑みを浮かべたリーゼロッテは、言葉に呼応させるように身体強化を強める。本職ではないとはいえ剣の次に魔法をおくアデラにはその流れがよく見えていた。 「確かに。本格的に体を鍛えているわけではなさそうですけど、その身体強化は侮れませんね。では」 言下、アデラは剣を鞘にしまう。そして驚くリーゼロッテをよそに、アデラは同じく空手で構えた。 「私もどちらかというとこちらの方が得意なのでね。本気で行かせていただきましょう」 騎士院生が主なる武器として習うのは剣であるが、アデラはどちらかというと体術の方が優れている。それを正直に口にしたのだが、疑い深い人間であればここでそれを嘘と思うことだろう。だが、医者として自らの世界の兵士や騎士たちを多く看てきたリーゼロッテにはその言葉に疑いの余地はなかった。剣を構えていた時よりも隙はなく、余計な力が入っていない。 再度気を引き締めて相対する。そしてそれを待っていたかのようにアデラは駆け出し、真正面からリーゼロッテに組みかかった。拳を振り上げるのではなく伸ばした指先を突き出してくるような不思議な戦闘方法だ。警戒しながらリーゼロッテは肩の辺りを掴もうとしてきたアデラの手を手の甲で払う。だが。 「へっ!?」 その途端にアデラの腕がリーゼロッテの払った腕をかいくぐり服の首の辺りを掴み取った。そしてその瞬間、リーゼロッテはアデラのもう片方の手に腕を捕まれ、さらに足を払われる。体勢を崩したリーゼロッテであるが、ただでは倒れず、その最中足を跳ね上げアデラの頭を蹴りつけた。 互いにバルーンが発生し僅かに赤みが帯びる。リーゼロッテは地面に背中がついた瞬間にその衝撃で隙が生じるが、後頭部を蹴られたアデラもまた同様に衝撃ゆえに追撃が間に合わなかった。すぐに立ち上がり再び距離を開くと、リーゼロッテは乱れた襟元に手を当てる。 「驚いた。体がすんなり動いちゃったわ。魔力の浸透による瞬間的な反射の操作ですか?」 腕を掴まれた瞬間に感じた違和感を口に出すと、アデラは驚きよりも確信の表情を浮かべた。 「ああ、やはり気付いていましたか。うまく極まらないからおかしいとは思っていましたが……なるほど、医者殿でしたね。身体のつくりに関しては競うのもおこがましいようです」 リーゼロッテの言葉の通り、アデラの体術の要訣は瞬間的な魔力の浸透だ。組んだ瞬間に指先、もしくは手の平から微弱な雷系統の魔力を流し身体を誤動作させる。それは反応と呼ぶには短すぎる瞬間であり、反射と呼ぶのが相応しい。しかしアデラの体術はそれがなくては使えぬものではない。“反射”という短い時間の隙を生かすには純粋な体術も必要となる。そのことを過不足なく理解しているアデラは、大抵の相手には負けないだけの技術は持っているのだ。 相対する相手に魔力の浸透は通用しないと判断すると、アデラはあっさりとそれを使用しない道を決断する。不要な魔力の消費はのちほど足を引きかねない。 「あらら、余計本気にさせちゃったかしら」 身体強化があるとはいえ素人相手でも手を抜く様子を見せないアデラを見てリーゼロッテは苦笑した。だが、笑みの形はすぐに一変して好もしいものへと変わる。正道をいく姿は見ていて気持ちがよいものだ。 構え直し、リーゼロッテとアデラは真正面に相対する。 |
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