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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 そこから少し離れた先では、徒手で戦う彼女たちとは真逆に剣でのやり取りを惜しみなく交わすエルマ・周泰、レイギアの戦いが激化していた。

 

 エルマが薙刀に変形させた武器――烏葉を振るうと、レイギアは片手でそれを受けると逆側から剣を振り下ろしていた周泰の方へと流す。薙刀と剣が正面から当たり、それぞれの持ち主たちはぎょっとした顔をした。そんな彼らの脇腹に向けて、レイギアは間髪いれずに剣を振りぬく。

 

 バルーンが現れると、それはもはや割れるのが時間の問題と断言出来るほどに赤く染まっていた。

 

 それを目視して、周泰はぎゅっと唇を引き締め再度レイギアに向き直る。だがもうひとりは不満そうな表情をすると、隣に立つ周泰に向き直った。笑えないのは、彼に向けて武器を向けていること。

 

「――何のつもりだ?」

 

 同軍である以上、エルマの攻撃は周泰には届かない。だが、だからといってこの行動を黙認出来るほど周泰も大人しい性格はしていなかった。これは「仲間に武器を向ける」という明確な不義の行為。戦とあれば一軍を預かる将の身としては寛容出来ないことであるし、何より「トランプ騎士団のクラブ」という隊長位にある彼が取るべきではない行動だと思うと余計に腹立たしい。

 

「あんた邪魔だよ周泰。さっきからあんたのせいで戦いづらいったらない。下がってろよ。このおっさんとはオレが戦う」

 

 怖じることなく、エルマは自身に降り注ぐ周泰の冷たい視線を烈火のような眼差しで睨み返した。味方に対する完全な喧嘩腰に、敵対中のレイギアはからかいの口笛を吹いて剣を肩に担ぐ。どうやらこの隙に攻撃を、とは思っていないようだ。若い面々の喧嘩を面白がる視線を向けていた。

 

 そして、画面の向こうにいるアズハは頭を抱え、クレイドはため息を吐き、ラムダは少し深い息を吐き、セルヴァは目が笑っていない笑みを浮かべ、ジョーカーはほっほと軽く笑う。

 

 この企画が始まってから何度目かの暴走に騎士団の同僚たちと先代たちはもはや情けなさすら覚えていた。エルマは自意識過剰ではなく真実才能がある人物だ。武器に選ばれ隊長に選ばれたのは歴代で2番目に若い15歳であり、それ以前に所属していたポーカー騎士団ではほとんど負け無しの戦績を誇っていた。現在も才能に胡坐をかくことはせず懸命に鍛錬に励んでいる。――先代たちからまだ1本も取れていないことが悔しい、というのもあるだろうが。

 

 だが、彼の最大の欠点はその才能ゆえの尊大な自尊心だ。自分は出来る。自分は強い。戦いに身を置く者には多少は必要な自信というものが彼は極端に強い。そして実際に戦えば大抵の相手はひとりで片付けられるのだからたちが悪い。

 

 それでも幼い頃から恐ろしさを刷り込まれている魔者相手にはもう少し慎重だ。飛び出すことも多々あるが、強い相手であれば共闘の手段を辞さない。

 

 が、今の相手は人。魔者という存在があるため国同士、人同士が戦うことのないトランプ騎士団の世界では人は競い合う相手ぐらいでしかないのだ。ゆえに、彼は宮内の企画に参加するとどうしても相手が人間だという油断が出てくる。

 

 今が正に最高潮だ。一昨年一瞬でやられたことを忘れたのか、それとも覚えているからこそなのか、明らかに格上のレイギア相手にひとりで戦うなどとのたまっている。仲間に武器を向けてまで、だ。

 

 戻ってきたら説教だな。アズハが頭痛を堪えるように眉根を押さえながらそう言うと、周囲からは「生ぬるい」の声が飛んだ。

 

 そんな恐ろしい未来が待っているとも知らずに周泰を睨み続けるエルマ。ややあって、その彼に向けて同じく剣先が向けられる。剣の主は、間違いなく真正面にいる周泰だ。もはや仲間割れ以外の言葉が思い浮かばないほどはっきりと敵対するふたりに、唯一戦闘がなく余裕のあるアルバたちが気付いてどうしたらよいのかと慌てた。それらの視線の中、周泰が口を開く。

 

「……お前がクレイド殿やイユたちに“坊や”と呼ばれている意味がよく分かった。お前の部下たちが哀れだな」

 

 侮辱というよりは、哀れみ。エルマに対する。エルマの配下であるクラブ隊の隊員に対する。はっきりとした、哀れみ。

 

 一瞬何を言われたか分からず目を見開いたエルマだったが、脳がその言葉の意味を処理しきると、怒りが湧いてきたのか眦を吊り上げた。

 

「何が――――っ!」

「お前はもっと自覚しろ。その双肩にかかる名前の意味を。背負っている部下の命を」

 

 叫んだわけではないのに強く放たれた言葉は空気を揺らす。眉根を寄せ迫力のある睨み顔で言葉を遮られたエルマは、短いながらも要点の正に中央を射抜く周泰の一言にぐっと息を飲んだ。

 

「世界は違えどお前も一軍を預かる将だろう? ならば感情で動くな。将の猪突猛進が招くのは本人の死だけじゃない。部下の死もだ。麾下に何人いるかは知らんが、それらのことにももっと思考を回せ。出来ないなら、いくら選ばれようとお前は将の器ではない」

 

 告げる言葉に一切の躊躇を込めずに言い放つと、周泰は剣を引きそれをレイギアに向ける。

 

「失礼をいたした、レイギア殿。再開しましょう」

 

 礼儀正しく一声かける周泰にレイギアは肩を竦めると歯を見せて笑った。さっぱりとした、というよりは、馬鹿にした、と言った方が正しそうな笑みだ。

 

「はっ、部下がいる方は身重で大変だねぇ。ああはじめようぜ。そっちの坊主(、、、、、、)も少しはマシな顔になったしな」

 

 茶化してレイギアが剣を構える。周泰はそれに気を配らなくてはと思いつつも思わず視線を横に流してしまった。目に映ったのは、両手にクローを構えてレイギアに視線を送るエルマだ。

 

「エル――――」

「オレたちが哀れだなんて納得してねぇからな!」

 

 呼びかけようとした瞬間に言葉が遮られる。

 

「けど、言われてることは理解はした。落ち着いて考えるのは後でにする」

 

 ぶすっとしてそう告げるエルマは、頑なに周泰に目を合わせようとしない。それでもそれが彼にとって最大限の譲歩なのだろう。周泰はレイギアに視線を戻す。

 

「そうか。なら後で俺に薙刀を向けたことも謝ってもらうぞ」

「…………」

「うやむやが一番よくない。将なら責任の取り方くらい覚えろ」

「うるっせぇよ」

 

 エルマの叫びを契機に、エルマと周泰はレイギアに向かって駆け出した。戦い方は同じだが、エルマが周囲に目を配るようになったために周泰も少し動きやすくなる。リーチを短くしたために懐に入らなくてはいけなくなったエルマを、周泰の剣がサポートした。

 

 レイギアが振り下ろした剣を同じく剣で受け止める周泰。片手で斬り下ろされたそれが本気ではないことが衝撃を受けた手に伝わってくる。そこで周泰が抱いたのは、侮られている怒りや悔しさではなく好機を得たことに対する喜びだ。

 

 レイギアは強い。元の世界では強者に位置する周泰ですらそれを認めざるを得ないほど、その次元は違っていた。だが、だからこそ彼の油断がありがたい。レイギアが周泰たちを侮るならば必ずそれが彼を倒す糸口となる。周泰はそう信じていた。

 

 だが悲しいかな。レベルの差というものは時に士気など空気同然に無視して残酷なほど現実的に突き刺さる。まして――。

 

「青臭ぇ」

 

 ――相手は、風吹く宮一大人げない大人、レイギア・ブルースペルだ。







                             



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