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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 短く、抑揚なく告げられた言葉が耳に入ったと同時に周泰の視界は反転した。投げられたのだ、と理解した次の瞬間には抜き身の刃が喉に向けてつきたてられる。真っ赤になった周泰のバルーンは弾け、あるべき姿はそこから消え去った。

 

 刹那動揺するエルマであったが、剣が下りきっている今こそチャンスだとクローの鋭い先端をレイギアに向けて突き出す。だがそれは呆気なくかわされた。それどころか、あっさりと腕をとられ、片腕で進行方向に引きずられる。そして、抗う間もなくレイギアの肘がエルマの首の後ろに落とされた。同時に繰り出された膝と挟まれ、発生したエルマのバルーンもまた真っ赤になり、その姿は周泰を追いかけるように消える。

 

「くっくっ、確かまだ待機会場にはアズハとクレイドの旦那たちがいたな。ああ、セルヴァ爺さんもいたか。あの坊主どうなるかねぇ。そっちも見たかったぜ」

 

 ひとしきり笑ってから、レイギアは辺りを見回す。アデラとリーゼロッテは拮抗してやり合っているらしい。手は出さなくていいだろう。問題はロナルドの方だろう、とレイギアはさらに視線を巡らせる。もしも作戦通り(、、、、)に行っていればそろそろ終わるころなのだが。

 

 身体ごと向きを変えると、タイミングよくぴこんという可愛らしい音がした。そして、その瞬間複数の破裂音が響き渡る。

 

「……おー、成功しやがった」

 

 その稚拙な作戦が告げられた時にはまさかうまくは行くまいと思っていたが、結果として“彼女”の言った通りの結末になった。ロナルド軍が消え去ったのを見てレイギアが素直な感想を口にすると、眼前でぱさりという布を落とす音がし、薄ぼんやりとミヤコが現れる。

 

「でしょでしょ? 私も役に立ったでしょ?」

 

 強敵撃破にはしゃいだ様子を見せるミヤコの姿は少しずつ濃くなっていった。彼女がまとっているのは背にフード落とした真っ白なコートで、手にしているのは叩くと空気でぴこぴこと音が鳴るおもちゃのハンマーだ。

 

 コートはミヤコを仲間にした時に得た「カメレオンオーバー」というアイテムで、周囲に完全に溶け込む隠れ蓑になる代物だ。ハンマーはアデラを仲間にした時に手に入れた「ピコペコハンマー」というアイテムで、アイテム名を口にしながら相手にヒットさせると必殺の一撃となる代物だ。レイギアですらバルーンを割るのには苦労しそうだった少年が一撃で退場になったのはそのため。

 

「ねっ、役立ったよね? レイギアさん」

 

 目をキラキラとさせてミヤコがレイギアの服を引っ張る。レイギアはそれににっと笑って見せた。

 

「まあまあだな。だが相手が戦いに不慣れなあの蛙の坊主だったから上手くいったんだってこと忘れんなよ」

「わ、分かってるもん。あーもう、ぐしゃぐしゃになるからやめてよ乱暴オヤジー!」

 

 ガシガシと髪を乱暴にかき混ぜられて、ミヤコは不満を口にする。だが、表情は褒められたことへの嬉しさで満面を染めていた。

 

 その様子を微笑ましく見守っていたマリーニアの隣で軍表を確認していたアデラは眉を寄せる。

 

「……リーゼロッテさんがアニカさんの軍に入っていますね。それと、龍真殿軍が敗退しています」

 

 先ほどまで戦っていたはずのリーゼロッテが退場ではなく別軍に組み込まれている理由を考えながら、一方でアデラは消えている龍真軍に組み込まれていたはずの弟分を慮って表情を硬くした。その横で仙星も軍表を確認し、アデラの言葉通り龍真の軍が消えていることに驚きを表している。

 

「ちっ、あのガキのポイントが上がってやがるってことはこいつにやられたな。まあいい。丸々太った所をいただくとするか」

 

 悪党の方が似合いそうな笑みを浮かべる横顔を見て、完全に狼の思想だと思ったが、ミヤコは口にしなかった。殴られるのはごめんだ。

 

「次はどちらに向かいますか?」

 

 歩き出したレイギアを追いかけてアデラが問いかける。さらに後ろに続いたマリーニアたちも返答を待っていると、少し視線を巡らせてからレイギアは顎で目的の方向を示した。

 

「とりあえず一回高いところ上っておくか。あの岩山行くぞ」

 

 示されたのはロナルドが最初に飛ばされ、現在エイラ軍が待機する岩山だ。そこに獲物がいることを確信しているわけではないが、レイギアは確かにそれを選び取った。

 

 次にどうなるかも分からぬまま、レイギア軍は進軍を続ける。







                             



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