<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> |
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3度目のチャイムが鳴ってから早くも20分ほどが経過した。泉から少し離れた場所に召喚された明月は、緩やかな斜面を登りながら周囲を見回す。抱きしめれば腕が余るほど細い木々は数え切れないが、少し間隔を空けているために視界は明るい。 そんな彼の後ろと左右には4人の少年少女がいる。 明月の右隣にいるのは銀色の髪とホットピンクの双眸、そして褐色の肌を持つ少女だ。身につけているのは緑のマントと赤を基調にした制服。腰には一振りの剣。ラルムたちと同級の騎士院生で、名をリリト・アールストレームという。 明月の左隣にいるのは群青の髪と目を持つ、赤いピアスを両耳に付けた少年だ。エイラ軍のユーリキア、レギナルト軍のヴィンセントの息子で、名をトーキ・アーザ。見た目こそ母にそっくりであるが、浮かべる表情は彼女とは真逆に大人しいものだ。武器は所持しておらず、手に厚みのあるグローブをつけているだけである。 明月のすぐ後ろにいるのは青灰色の髪を黄緑の大きなリボンでくくった少女。およそ戦いには似つかわしくない普段着だというドレスが彼女の動きに合わせてひらひら踊っている。彼女はユーニス・F・アップルヤード。現在“ターゲット”となってあちこちで暴れているジーン・T・アップルヤードの妹だ。 その彼女の後ろにいるのは白茶色の長い髪を三つ編みにして背中に流した金色の目をしたこの中で最も小柄な少年。大きなヘッドホンをつけ、丈は短いのに袖だけやけに長い上着を着ている。彼はトーキと同じくアーザ夫妻の子供で、パレラ・エーデルワイスという。姓が違うのは理由があるのだと聞いているが、詳しくは明月は知らなかった。 エイラのアイテム使用で呼び出されてからとりあえず適当に歩き出した明月は、持ち前の運のよさが助けたのか敵に遭遇することなく次々に仲間を獲得した。子供ばかりだが、元の世界で力よりも絆を重んじ同士を集めている明月には大した問題ではなかった。まして、子供とはいえ彼らは明月よりも強い。むしろありがたいことだとすら思っている。 そんな明月軍は目下――。 「へえ、ユーニスは兄ちゃん3人いるのか。3人ともジーンみたいなのか?」 「まあ明月様。あんなに自由自在に行動するのは3番目の兄……ジーンお兄様だけですわ。アップルヤード家を誤解しないでくださいまし」 「でもあの人強いよね。ラルムって座学苦手だけど剣は強いんだよー? あっさりやられちゃったけど」 「そうですよね。一昨年は制限付きで少しだけとはいえお父さんと戦ったんですもんね、ラルムさん。……レイギアさんやる気になってたけど大丈夫かな?」 「めうー、バルーンがなかったら危ないと思うネ。でも、多分大丈夫ヨ」 ――楽しくお喋りしながら進軍中だ。 それまで目的なく適当に歩き回っていた明月軍だったが、ユーニスを仲間にした時から明確に仲間探しが目的となった。最終目標は各軍撃破であるが、まずは兵士が必要だ。ユーニスがそう進言したためだ。 この並び順も左右と背後からの敵から明月を守るためにユーニスが提案したもの。前からの敵は左右のふたりが対処出来る。パレラが仲間になるまでは「盾」の名目で彼女が後ろであったが、今は守られる第2位置にいる。申し訳ない、と言っていたが、戦う術がないユーニスを盾にするような行動こそ申し訳ないと全員でその位置に納まることを納得させた。 メインステージのマップと呼び出される前までの各軍の動きはすでにユーニスの頭に入っているらしく、その進行は澱みないものであった。しかし同時に、散策でもしているかのように彼らの間に流れる空気は緩やかだ。本来ならば気を引き締めねばならない状況であるだろう。だが、周囲の平穏さ、そして景観の見事さを前に彼らの気はすっかり緩んでいる。大将騎である明月が率先して会話を展開していくから、というのももちろん理由には挙がるわけだが。 「めう? 誰か来るヨ」 パレラが右側に顔を向けながらはっきりと告げると、リリトは剣を抜き、トーキは拳を構えた。少しして木々の間から姿が見えてきたのは、明月と同じくアイテムによって大将騎になった男性、清風である。隠れる気がないのか、長い黒髪をなびかせ、左頬に大きな傷を持ちながらなお美麗なる顔を正面に向けて悠々と近づいてきた。 彼の後ろにはふたりの少年がいる。どちらも黒い髪の小柄な少年で、片方は現代風の服を纏い、もう片方は薙刀を手にした漢装を纏っている。東原 悠一、そして凌統というのが彼らのそれぞれの名前だ。 あまりにも堂々と近付いてくるため、攻撃していいかをリリトとトーキは迷う。すると、彼らを治め、明月は同じく気負いない足取りで清風に近付いた。正面で相対するふたりに明月軍は少し緊張した面持ちで動向を伺っている。その中ひとり、ユーニスだけは明月たちではなく清風軍の悠一と凌統を見ていた。そこから予想出来る事態を頭の中で描いてから、ユーニスの視線は彼らと同じく互いの大将騎へと向かう。 予想が現実になるのは、呼吸1回分ほどの時間で十分であった。
「清風、俺に降らないか?」 さらりと明月が口にした降伏の勧めにリリトとトーキは目をむき、パレラは「それはいいネ」と楽しげに笑う。そして肝心の清風は、小さく息を吐くと躊躇いなく是を口にした。 「そのつもりで来た。好きに使え。お前の剣だ」 遠回しながら降伏が宣言されると、軍表から清風の名前が消え、明月軍に清風軍が取り込まれる。 「ほい、俺らの方で出てきた道具」 凌統がユーニスにポシェットを渡した。清風軍の中で一番年下なので荷物もちにされていたらしい。ユーニスがそれを丁寧に受け取り中身を自身が預かっているポシェットに移し、最後にポシェット自体をしまいいれる。 「確かに受け取りましたわ。私ユーニス・F・アップルヤードと申します。以後お見知りおきを」 この場で唯一の新規参入者であるユーニスは清風、凌統、悠一に向かって頭を下げた。 「清風だ。こいつが率いる軍に所属している」 「俺は凌統。呉軍の凌操の息子」 「……東原 悠一だ」 抑揚なく、人懐っこく、ぶすっとして、それぞれに自己紹介を返してくる彼らにユーニスは頭を上げて笑いかける。その横で、トーキが軽く手を上げた。 |
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