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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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「あの、清風さん最初から降伏のつもりだったんですよね? 凌統君と悠一さんは最初から聞いていたんですか?」

 

 何も文句を言わない所を見るとそうなのだろうが、気になったので尋ねてみる。すると、悠一が頭を掻いて「阿呆らしい」と言いたげな表情をした。

 

「聞いてたも何も、第一声で『俺は明月に降伏するつもりでいる』宣言来たっつの」

 

 堂々としすぎて何も言う気にならなかった。そう締めた悠一の言葉を受け、リリトと明月は斜に構えているくせに変な所で素直な彼に微笑ましさを覚えて笑う。だが、気付いた悠一に睨まれたのですぐに収めた。

 

「よし、随分集まってきたしそろそろ討って出るか。そっちで最後まで待機会場にいたの誰だ? うちはパレラだけど、結構前だったからな」

 

 まるで「祭りに出かけよう」と誘うように気楽な言い方で明月は攻勢転換を宣言する。メインステージ内の状況を知りたいのだと察した凌統が元気に手を上げた。

 

「あ、はい俺です明月殿。俺こっち来たの明月殿たちに会う少し前です。俺が見た時はダニエルとアニカ殿の軍が森の中で戦う直前でした。レギ何とかって兄ちゃんの軍は止まりっぱなしで、他の軍はみんな岩山に集まってました」

 

 凌統は大雑把ながらも訊かれる前に把握していた戦況を説明する。まだ子供ながらしっかりと戦場を見ている凌統に感心してリリトが「おお」と声を漏らした。

 

「あら、確かもうお一方いらっしゃいましたけど、その方は?」

 

 自前のメモ帳を取り出して凌統が口にしたことを書き留めていたユーニスが思い出しように尋ねる。それに凌統は肩を竦めて応じた。

 

「さあ? 飛ばされたのは大池の方だったみたいだけど、何か妙な奴を仲間にした辺りから姿が見えなくなっちまったんだよな」

 

 カメラが捉えきれない、と聞き、一同は顔を見合わせる。それぞれ待機会場にいて後からこのメインステージに来た者たちだ。宮側が用意したカメラが各軍を逃さず捉えて会場に映し出していることは自らの目で見て知っていた。

 

 何かアイテムを使った、というのがもっとも有り得る理由である。だが、心当たりがあるのかユーニスはすぐに軍表を確認する。そして、そこに想像通りの名前を見つけて眉根を寄せた。

 

「何だよ、どうした?」

 

 ユーニスの、まるで「不覚」と言いたそうな表情が気になって悠一が問いかけると、ユーニスは苦い笑みを作る。

 

「皆様、お気を引き締めてくださいまし。あの方(・・・)は気が付けばそこにいるという方でしてよ。大池からであれば恐らくこの軍が一番近くにいるはず」

 

 脅しではなく心の底からの警告。ユーニスが誰を見てそう思ったのかを悟るべくリリトは同じく軍表を表示した。甘寧の軍は現在彼を抜いて5人だ。その中でリリトが知らない名前はひとりだけ。そしてこの人物は、確か彼女と同じ世界の人間だ。

 

「ネブリナさん……って、確かあの仮面をつけた方、ですよね?」

 

 同じく軍表を見たトーキがそちらに視線を落としながらリリトと同じ名前に目をつけた。口に出せば一同の頭に浮かぶ人物はひとりだけだ。ロナルドの赤蛙に印象を持っていかれてしまっていたが、ほとんど同じくらい目立っていた仮面をした白髪の人物。服の色が奇抜でおかしなセンスをしていたので余計に記憶に残っている。

 

「ネブリナは凄い能力持ってるカ? 強いネ?」

 

 長い袖をぷらぷらとさせながらパレラはユーニスを見上げた。それにユーニスは首を振って見せた。

 

「凄いというのは『はい』、強いというのは『いいえ』、ですわ。……私もよくは知りませんが、探知系や移動系の魔法が得意なのだと聞きます。そして、それに合わせた隠形も」

 

 兄から聞いたほどしか知らない情報を口にすると、言葉の意味が分かった者たちは揃って神妙な顔をする。その能力があればカメラに映らなくなったのは確実にネブリナの仕業だ。高性能なはずのカメラを完全に出し抜いている事実を前に、確かに気を引き締めなくてはならない。明月、清風、リリト、凌統は表情に少し緊張を混ぜた。

 

 一方で、隠形の意味がよく分からなかった悠一とトーキ、パレラはそれぞれに何のことだろうと顔を見合わせる。

 

「……あの、隠形って?」

 

 トーキがそっと手を上げた。

 

「ん? ようは姿を隠す術とか技のことだな。俺らの世界では間諜(かんちょう)とか兇手(きょうしゅ)とかが身につけてる」

 

 簡単に明月が説明すると、分からなかった3人は納得した様子を見せた。それを横で見ていた凌統は、身長のほとんど変わらない悠一の顔を覗き込む。

 

「トーキたちはともかく、何であんたまで分かんないの悠一? 前にミヤコとか咲也とか聖たちとこの手の話したぜ俺」

「あのオタクどもと一緒にすんな。一般人は隠形とか普通に知ってるとかねぇから」

 

 ミヤコは自ら公言するほどオタク。咲也は多趣味で漫画はそのうちのひとつ。聖はスポーツマンのくせに漫画好きだ。悠一も別に読まないわけではないが、漫画から知識を得るタイプではないので日常生活で耳にする機会のない単語を即座に反応出来る、というわけにはいかない。

 

「……そういや、咲也も聖も来てるんだっけな」

 

 ふと思い出して悠一は軍表を表示する。咲也は大将騎として呼ばれたのだが即降伏して今はエイラ軍に所属しており、聖は今正に警戒の対象となった甘寧軍に所属していた。聖くらいなら倒せるな、と、悠一は甘寧軍の面子を見ながら内心でひとりごちる。

 

 その時だ。何かが風を切る音がした。







                             



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