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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 時は少し遡り戦闘が始まって間もなくのこと。悠一が聖を追いかけ始めたのと同時に、その小さな体はリリトに飛び掛ってきた。

 

「ラプルゥラップー!」

 

 かけ声と共に白い毛並みのぬいぐるみのような猫の魔物はジャンピングアッパーを繰り出す。猫らしい見事な跳躍を身体ごとかわしてリリトはそれに向かって剣を振り下ろした。だが、それはラプルゥの可愛い両手で白刃取りされてしまう。

 

「うっそ、一角猫は騎士試験の時に戦ったけど、ここまでじゃなかったよ。ラプルゥってば強いなぁ」

 

 騎士試験とは騎士院卒業後に進むことになる騎士団を決めるための試験だ。リリトたちの年代はアイテム集めで、騎士院生たちは東西南北あちらこちらに駆り出された。その時リリトは西に向かったため、そこを生息地とする一角猫とは度々戦ったのだ。

 

 リリトの感心にラプルゥは「でしょ!?」というように短く鳴き、その主であるユアは大仰に胸を張る。

 

「あったり前だよリリトさん。だってユアの友達だもん。降参するならしていいよ?」

 

 魔物使いとしての才能に恵まれたユアは、恭順した魔物と友好を示す魔物を従えることが出来る。ラプルゥは恭順した魔物であるが、彼にとっては大事な友達だ。

 

「しなーいよー……だっ!」

 

 リリトの手の中に小さな火が灯る。理論を理解しきっていないうちに詠唱破棄で使うと威力が落ちるのだが、リリトは魔力が強い南の民。小さく見えてもその威力は十分にあった。今、ラプルゥを引かせるには。

 

「ラプッ、ラプーッ」

 

 火に包まれたラプルゥは慌ててリリトの剣を離して頭をぱたぱたと叩きながら2本の足で駆け回る。こんな時でなければついつい頬を緩めてしまいそうなほど可愛い様子だ。何故なら、彼に火などついていないから。

 

「ラプルゥ、ラプルゥ落ち着いて! 火ついてないよ」

 

 ユアが少し焦って声をかけた。それを聞き、ラプルゥはユアの方を見ながらぴたりと止まり、前足でぽむぽむと頭を触る。そして、本当に痛みがないことにほっとして力を抜いた様子を見せた。

 

 その隙をリリトは見逃さない。さらに、もうひとつの事実もリリトは見逃してはいなかった。先ほどラプルゥに使った魔法は極小ながら本当に火を灯した魔法だ。当然、着火すれば火は広がる。だが、火は消滅した。正確には、ユアに移った、という方が正しいだろう。それはバルーンに遮られすぐに消えてしまったが、決して見間違いなどではない。

 

 どうやらラプルゥたちが受けたダメージはすべて主であるユアに還元されるらしい。それを裏付けるように、誰の相手もしていないはずのユアのバルーンがまたも突然展開して赤みを帯びた。

 

 もう一匹のユアのお友達、オリビアを相手にしているのは確かトーキだ。彼の方でもダメージを入れたのかもしれない。

 

 隙を逃さず突き出したリリトの剣がラプルゥに突き出されると、それは肉に刺さる直前に透明の何かに遮られる。そして、ユアのバルーンがまた赤みを帯びた。どうやらバルーンの耐久力はユアの防御力を基準にしているらしい。すでにそれは半分以上赤に染まっている。

 

 このまま少しずつでも攻め続ければ勝てる。リリトがそう確信した時、突如隣から大きな狼の遠吠えが聞こえた。咄嗟に動きを竦めてしまうリリトであったが、それはユア、そしてラプルゥも同様である。むしろ、驚きは彼らの方が大きいようだ。

 

 何故ならこの遠吠えは、オリビアではない狼から発せられたもの。空中を浮遊する、鮮やかな緑の双眸を持つ黒い狼から。

 

「なっ、何で!? あのスライム最低10分は効果あるんじゃなかったの?」

「ラプッ!?」

 

 驚き覚めやらぬ様子のユアとラプルゥを見て、リリトはこれぞ好機と突かれた直後に後方に飛びのいていたラプルゥに向かって一足飛びに駆け寄り、頭上から剣を振り下ろした。気がそれていたのか動揺する主に気が回っていたのか、ラプルゥは反応しきれずにそれを受けてしまう。

 

 それと同時にあちらでも攻撃が行われたらしく、同時にダメージが入ってユアが退場した。勝利を得て、リリトは両拳を握り締めると、振り向き、もうひとりの功労者に向かってガッツポーズをして見せる。リリトたちの年代の最年少であるラルム・ダニエル組よりも1歳年下の少年は、それに控えめなガッツポーズを返してくれた。

 







                             



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