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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 戦闘開始後、明月を真っ先に狙ってきたのは周瑜だった。後世に軍師として名を残した彼であるが、実際は自ら剣を持ち弓を引き戦うことも可能な人物である。一方の明月は一軍を率いるとはいえ自ら剣を持つことは出来ず、仲間たちは揃って敵の相手に借り出されてしまっていた。

 

 もはや明月に守りの盾はない。周瑜はそう判断し遠慮なく剣を振るおうとする。だが、明月が何かを投げる動作を見せると周瑜の手は不意に止められた。剣を引こうとした手は予想外の抵抗にあって身体ごと止めてしまう。

 

「縄……!?」

 

 視線を向ければ、短い縄が剣の先から拳ふたつ分開けた辺りに巻きつき、縄の逆端は近くの木の枝に巻きついていた。両端は固く結ばれており、あれが重石の代わりとなっていることが窺える。

 

「俺は剣は苦手だが捕縛術ならそれなりにいける男なんだよ、周瑜殿。よっ」

 

 次の縄が放たれた。左手を狙ってきたそれを、周瑜は剣の鞘をつけている方とは逆側に下げていた弓を取りそれで受ける。そしてそれを惜しげもなく捨てると、空いた左手で懐から小刀を取り出し剣と木を結ぶ縄を切りつけた。その時周瑜が驚いたのは一太刀で切り離せなかったことだ。予想以上に固いそれに僅かに眉を寄せつつも、周瑜はすぐに切り返し今度こそ縄を切る。

 

 いざ反撃、と思い振り向けば、すでにそこに明月の姿はなかった。

 

「むっ、待て明月殿!」

「待てと言われて待つわけにはいかねぇなぁ」

 

 周瑜の隙をついて攻撃してくるかと思いきや明月は反転し一目散に逃げ出す。追いすがる周瑜だが、存外足の速い明月に中々追いつけない。誰か挟み撃ちの人員を、と思っても、聖と姜珂はすでに退場、他の者たちもそれぞれ敵軍と戦っている。手が空いている者はいなそうだ、と視線を軽く巡らせた周瑜は、しかし次の瞬間目にした光景につい足を止めてしまった。ほんの一瞬であり、今見回してもどこにもその姿は見えない。だが、確かに今何かが通り過ぎた――。

 

 動揺していると、一方から茶色の光が溢れ、同時に威圧感が襲ってくる。まさかとそちらを向けば、トーキの戒めは解かれ、彼の上にはその相棒が浮かんでいた。響く遠吠えに反射のように身を竦ませる周瑜は、しかしすぐに気を取り直して同じく足を止めている明月に迫る。いくら恐れていた力が復活しようと、大将騎を倒してしまえば終わりだ、と。

 

 だが、油断した背中に誰かが思い切り突撃してきた。

 

 誰だ、と誰何をする間もなく誰かはよろめいた周瑜に追撃して彼を転ばせる。それも攻撃と判断されてしまい赤く染まる周瑜のバルーン。すぐに身を回して次なる一撃を避け、周瑜はようやく襲撃者の正体を知る。

 

「阿統、お前か」

 

 幼い頃より見知る少年の活発な笑みを見上げて周瑜は呆れた顔をした。彼は以前から太史慈(たいしじ)を主とした呉の将兵に勝負を挑む悪癖がある。今回は、どうやら周瑜がそれらしい。もっとも今は明月を守るという大義名分があるために周瑜も彼の父親も怒ることは出来ないのだが。

 

 薙刀に応じるべく周瑜は立ち上がり構えようとする。だが、それよりも早く両腕を後ろにねじり取られあっという間に縛り上げられてしまった。誰何の必要もない。明月だ。地面に再び転がされ明月に上から乗られて周瑜は身動きが取れなくなってしまう。もがこうとしてももがけない押さえ方をされていることに気が付き、彼の言っていた「捕縛術が得意」を身に染みて理解した。

 

「いやはや、やっぱり腕の立つ奴相手をひとりでは無理だったな。助かったぞ凌統」

「どうも、明月殿。周都督、……俺が仕留めていーですか?」

 

 わくわくしているのが押さえきれないように、菓子や玩具をねだる子供のように目を輝かせて凌統は自身を指差す。その彼に、明月もまた年長者の余裕の笑みを返した。

 

「ああいいぞ、本当に死ぬわけじゃないからな」

 

 もしも本当の戦場ならまだ年端も行かない凌統にそんな真似はさせないが、どうせは余興と明月は軽く了承する。それを受け、凌統は嬉しそうな笑みを浮かべた。周瑜が憎いわけではない。むしろ、呉軍を率いる才ある将として尊敬している。

 

 だが、目の前にちらついている功績(エサ)に食いつかないほど凌統は大人ではない。

 

「よっしゃいただきー!」

「阿統! 将来呉軍の大事な将となるお前が功をねだるんじゃない。自身の手で得ることを第一と――――」

 

 位が上である自身を嬉々として手をかけることよりも明月にお断りを入れたことに説教をしながら、周瑜は打ち下ろされた薙刀を受けてそこから退場した。大した御仁だと地面に落ちた明月は笑う。

 

 会場に戻った周瑜が真っ先に駆け寄ってきた凌統の父・(りょう)(そう)からしばらくの間土下座をされ続けたことは彼らは知りえぬ事実であった。







                             



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