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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 これで残すはふたり。明月が視線を巡らせる。すると、その瞬間に清風と甘寧がすれ違った。互いにバルーンは深い赤く染まっており、刀を振り切った後の状態で止まっている。だが決着はすぐについた。

 

 甘寧の姿が、消える。

 

 清風の勝利に安堵する一方、清風がここまで苦戦した甘寧に明月は素直に感心した。

 

「私たちの勝ちですわね。ダメージも負いましたが、誰も減らずに倒せたのは上々ですわ。皆様本当にお疲れ様でした。頼れる軍に所属出来て嬉しいです」

 

 ユーニスが笑顔で歓喜と労わりを伝えると、戦闘終了を自覚し一同はそれぞれ気を抜く。その時、トーキの隣に突然パレラが現れた。瞬間移動ではなく高速移動だったらしく、急に止まった反動で周囲に風が巻き起こる。トーキの髪が煽られ、ユーニスのスカートが揺れた。

 

「めうー、逃したネー。ネブリナ追いつけなかったヨ。パレラちょっと悔しいネ」

 

 ショックを受けている様子でパレラはトーキにしがみつく。胸のすぐ下に押し付けられた彼の頭をトーキが慰めるように撫で、オルフィアは心配そうにパレラに鼻を擦り付けた。

 

「ってか、パレラ君今何してたの?」

 

 上を見回しながらリリトが尋ねると、パレラは少し頬を膨らませてリリトに目を向ける。

 

「ユーニスがアイテムの効果時間ゼロにしてくれたから、ネブリナ倒しに行ったネ。でもどれだけ速くしてもネブリナに追いつけなかったヨ。めうう、パレラ追いかけっこ負けたの初めてネェェ」

 

 パレラの言葉通り、終了符を使用され解放されたパレラは真っ先にネブリナに攻撃を仕掛けた。だが、攻撃をいくら仕掛けてもそれはネブリナには当たらず、どれだけ追いかけても彼の人物には追いつけなかった。そしてその追いかけっこが終了するよりも早く、甘寧が破れてしまったのだ。

 

「へぇ、お前が追いつけないなんてあいつよっぽど速いんだな」

 

 人は見かけによらないものだと悠一が珍しい感心を口にする。パレラは「そうネ」と頷きながらも、内心では少し引っかかりを感じていた。あれは、速いというよりも――。

 

「清風、お前はこれで回復しておけ」

 

 明月がユーニスから受け取った何かを清風に投げ渡す。咄嗟ながら過たず受け取った清風は、それを改めてよく見て、絶句した。

 

 渡されたのはデフォルメされた小さな蛙の人形がついたステッキだ。一体何なのだ、と思いながら端の方についているタグに書かれている説明を読み上げる。

 

「『人形が唱える呪文を復唱すると、一度だけ使用者のバルーンが全回復します』……?」

 

 ちらりと自分以外に視線を向けるが、一同は清風が一番ダメージを負っていることを分かっているので使えと目で訴えたりジェスチャーを使ったりとするばかりだ。仕方なくもう一度ステッキと向き合う清風。成人済みのクールそうな男性がステッキと真面目な顔で向き合っている姿にリリトは笑いを堪えて身体を震わせる。

 

「し、使用する」

 

 使用を宣言すると、蛙の人形が可愛く笑った。そして

 

「『ケロケロケロット』。はい」

 

 復唱を求められる。あまりにも間抜けな呪文に、清風はまた一同に視線を向けた。耐え切れないリリトは気付かないふりをして剣を見ているが、他の面々は善意の視線で「さあどうぞ」と言わんばかりの視線を注いでいる。唯一悠一だけは彼を哀れんでいた。自分だったら絶対に使わないだろうな、と。

 

 しばしの間沈黙する清風だが、ややあって眉を寄せ戸惑いを隠せない様子で復唱を始める。

 

「け、けろけろ、けろっと」

 

 たどたどしく抵抗感が溢れるものの、復唱完了と判断されたらしい。蛙が光ると清風のバルーンが現れ、赤かったはずの色がどんどんと薄くなり、最後には完全な透明へと戻った。そしてバルーンが消えると、ステッキはガラスが割れる音と共に砕け、風に吹かれてその残滓はどこかへと消える。

 

 恥ずかしさに耐えられないらしい清風が顔に手を当てて俯く中、下手につついては逆に可哀想だろうと明月は軽く彼の肩を叩くと軍表を表示させた。

 

「ん、ダニエル軍がアニカ軍にまるっと吸収されてるな。降伏したのか?」

 

 凌統が来る直前に戦闘が始まったと言っていたが、その後すぐに降伏したのだろうか。疑問に思っていると、彼と同窓のリリトが信じられない、という声を上げる。

 

「ええー……? ダニエルっていったら傲慢・俺様・自己中心ですよ? 素直に降伏なんて絶対ないですよ」

 

 騎士院の5年間で嫌というほどそれが身に染みているリリトが言い切ると、彼女たちの普段のやり取りを知らない面々は「そうなのか」と素直に信じたり笑ったり苦笑いを浮かべたりと様々な反応を見せた。

 

 その時、4回目のチャイムが鳴り響く。

 

 早いものだ、と一同は自然と視線を上に持っていった。その時、ふと思い出して悠一は近くにいた凌統に声をかける。

 

「お前よく甘寧近くにいたのに静かにしてたな」

 

 聞き知る歴史を思い出しながら悠一がそう口にしたのは素直な感想だった。だが、当の凌統は「何が?」と首を傾げるだけだ。そこで、悠一はようやく彼らの時代が違うことを理解する。

 

 ここには同じ世界からほぼ同一の時間から人が集まるが、完全に一致しないこともあるらしい。どうやら、凌統はまだ甘寧を憎む前の時代の彼のようだ。そう認識して「何でもない」と悠一は話を切り、一体何なのかと首を傾げる凌統に背中を向ける。

 

 少しだけ、ここに来るのが今からもう少し後の彼になった時の反応が心配になる悠一であった。







                             



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