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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 森に待機していたアニカ軍は、諸葛亮が停止を決めた場所にたどり着くまでに4人を仲間にしていた。

 

 最初は肩につくぐらいの茶色の髪と同色の双眸を持つ長身の少女、市村(いちむら) 陽菜乃(ひなの)。ほわほわとした空気を纏っておりアニカは最初に顔を合わせた時不覚にも和んでしまった。

 

 次は漢装の短戟を担いだ男性、太史慈(たいしじ)。顔の彫りが深い大柄の男らしい人物だ。次は(ちょう)(うん)という名の槍を背負った同じく漢装の青年だ。爽やかな好青年風でありながら、歴戦の将だという事実に驚いた。

 

 最後はクレイド・レーア。緑を基調としたトランプ騎士団の制服に身を纏った飴色の髪と目をした中年の男性だ。元クラブであり、ここに来る前にぎりぎりだが後継者であるエルマは叱って来たと言っていた。足らないから戻ったらまた説教が待っていると重ねて聞いた時には思わずエルマに同情してしまった。

 

 そして、アニカの軍には最初に仲間にした諸葛亮の他にもうひとりがいる。赤紫の髪と目を持つ女性、リーゼロッテ・アベーユ。3回目のチャイムが鳴るよりも前に突然現れた彼女は、元々弟・ロナルドの軍に所属していたはずだ。だが、何故か気が付いたらこの軍に所属していた。

 

 ロナルドの軍が消滅したのと同時にやってきたらしく、突然の出来事に彼女も驚いていた。そして何故かと予想を立てて出た結論は、初期の頃樹里の軍に呂秀が突然現れたのと同じ現象だ。つまり、関わりある何かを持っている、ということ。

 

 試しにアニカが諸葛亮を仲間にした時に得た度なしの眼鏡を差し出すと、予想通り、それは彼女の持ち物であった。なんでも、それがないと回復魔法を使えないのだという。

 

 今のリーゼロッテは出てきた時とは違い物静かだ。戦力が増えたので、回復に専念するべく髪を結い眼鏡をしていわゆる「オンモード」に移行している。

 

「おい若造ども、そろそろ来るぞ」

 

 刃を潰した薙刀を抱えながら木に寄りかかり、何かに耳を傾けていたクレイドが目をぱちりと開けて注意を呼びかけた。応じて、趙雲、太史慈が武器を構える。その後ろにいるのはリーゼロッテのみであり、アニカ、陽菜乃、諸葛亮の姿はそこにはなかった。

 

 僅かな間を空けて現れたのは、赤毛と明るい茶色の双眸を持つ騎士院の制服に身を包む少年ことダニエル・ウィットフォード、山のような大柄に無表情な青灰色の髪と目、トランプ騎士団の制服に身を包んだ中年男性ことラムダ・ドレイル、同じくトランプ騎士団の制服に身を包む茶色の髪と目をした同じく大柄な男性、アズハ・ヒルク、同じくトランプ騎士団の制服に身を包んだ金髪と澄んだ緑の目をした若い男性、セルヴァ・レシィ。

 

 見事な騎士揃い、しかも同僚の多さにクレイドはいっそ感心した。そして、その時ようやく彼らの後ろにもうひとり、やる気のなさそうなガルシアが目に映る。

 

「この面子……アニカ殿の軍か。孔明殿がいらっしゃる軍だからどんな策を巡らしているか気にはなるが、ここまで近づけば策もないだろう」

 

 ダニエルが構えるとガルシア以外のダニエル軍も構えた。もちろん、皆周囲には気を配っている。策もないだろう、とは言っても相手は稀代の名軍師。気を抜けば一瞬にして掠め取られる可能性は十二分に理解していた。

 

 まして、この場にアニカたちはいないのだ。

 

「ダニエル、私は少し周りを見てこよう。ラムダ、アズハ、大将騎を頼むぞ」

 

 抜き放った剣を片手にセルヴァは走り出す。返事の代わりにラムダは大剣を、アズハも大剣に変化させた茜日を改めて握り直した。

 

「これは――歴戦の騎士がひとりいるだけでも迫力が違いますな」

「全くだ。その点、アズハ殿とダニエルを見ると少し気が抜けるな」

 

 三国の将ふたりは先頭に立つラムダの立ち上る威圧感に笑みを引きつらせる。それでありながらアズハとダニエルへの挑発も忘れない。一瞬反応しかけたダニエルだが、それが挑発だと頭では理解出来ているらしく呼吸を整えることで怒りを抑える。一方のアズハは、尊敬すべき先代・ラムダとの力量差など分かりきっているのでむしろ当然のようにそれを受け入れた。

 

「ラムダの相手は俺がする。趙雲、ダニエル坊主の相手しな。太史慈はアズハだ。抜かるなよ」

 

 簡潔に指示を出すと、クレイドは間髪いれずに駆け出し宣言通りラムダに向かっていく。柄の長さがある薙刀と大剣がぶつかり合うと、言葉もなくラムダとクレイドは激しい打ち合いをはじめた。互いに遠慮容赦なく仕掛けているというのに一度も互いを傷つけることはなくバルーンは一度も発生しない。

 

 高度な攻防に思わず感心して見惚れる若い面々だが、はっとしてそれぞれの相手にかかっていく。

 

 三方で剣撃の音が激化する中、リーゼロッテはちらりと視線を巡らせた。姿を求めるのはこの場にいない者たちを追いかけた老騎士だ。

 

 上手くいきますように。祈りながら、リーゼロッテはいつでも魔法を使えるように再び視線を前へと向ける。

 

 







                             



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