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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 戦闘が始まった場所から僅かに離れた所で、セルヴァは諸葛亮の姿を見つけた。悠々と切り株に座り、羽扇でぱたぱたと自身を煽っている。罠だろうか。藪に身を潜めて様子を窺い、セルヴァはその思う所を図った。

 

 諸葛亮には戦闘力がないが知力がある。一昨年のハロウィン杯ではセルヴァは諸葛亮と組んで子供組に味方した。そのことを考えると彼が何の策もなしにあんなに悠々しているとは考えにくい。

 

 しばらく様子を見るべきか。そう判断した時、セルヴァは背後から僅かな闘気を感じた。しかし振り返らない。あの場にいなかった者で、このように闘気を飛ばせるのはただひとり、大将騎のアニカだけだ。

 

 そして彼女の武器が中・遠距離の攻撃に優れることは共闘戦の様子を見て把握している。初めて見る武器だ。今考えなく振り返り放たれては対処の仕方が分からない。

 

 幸い、気配は少しずつ近付いていた。もう少し待てばセルヴァが一息に接近出来る距離になる。それまで少し待つことに決め、セルヴァは警戒しつつも諸葛亮のみに気が向いていると思わせるべく前だけを見た。

 

 あと10歩、9歩、8、7、6、5、4、……。

 

 対象がセルヴァの間合いに入る。

 

 セルヴァは地面を蹴ると身を低くした状態で背後から迫っていた人物に向かっていく。そして剣を突き出そうとした時、背後からこの場で聞くはずのない声を聞き思わず動きを止めてしまった。

 

「おじいちゃんっ!」

「ティナ……っ!?」

 

 別軍で、今はこことは少し離れた場所で待機中のはずの愛する孫娘の声を、助けを求めるようなその声を聞いてセルヴァは反射のように振り向く。そこにいたのはまさに孫娘。

 

 ――だと、思ったのは一瞬。そこにいたのは舌をぺろりと出した長身の少女だった。そしてセルヴァは瞬きほどの間も必要とせずに後悔し、理解する。同時に、一昨年もレイギアが同じ手でやられていたではないかと思うと情けなくもなってきた。

 

 演技の天才・市村 陽菜乃。その名を、セルヴァはあまりにも侮りすぎていたのだ。

 

 しかしセルヴァの驚きはそれに留まらない。隙が生まれたセルヴァの背中にアニカが突撃してくる気配がしたので振り返るが、そこにいたのもまた、アニカではなく陽菜乃だったのだ。

 

 普通の世界の少女だったはず。驚いていると、ティナの真似をした側の陽菜乃が近付いてきてセルヴァに何かをつける。すると、振り払う間もなくセルヴァは突如出現した籠に囚われてしまった。

 

 それと同時に、背後から迫ってきていた陽菜乃がぽんと軽い音を立てて煙となって消える。

 

「アクションコピーと捕縛錠。偶然手に入った道具でしたが、中々に使えましたね。お手柄ですよ陽菜乃殿」

「あたしの真似をするなんて言うから半信半疑だったけど、凄いわね陽菜乃ちゃん」

「はい、ありがとうございます。孔明さん、アニカさん」

 

 いつの間にか近くに来ていた諸葛亮が羽扇で口元を隠しながら微笑み褒め、アニカが感心を口にすると、陽菜乃は嬉しそうな顔で応じた。

 

 アクションコピーは使用宣言から終了宣言までの間の動きをコピーするものであり、捕縛錠は使用対象に錠を取り付けることで捕縛するアイテムだ。本当はそこかしこに仕掛けた罠を使うつもりでいたが、幸いにも使い勝手のよい物が手に入ったのでそちらを利用することにしたのだ。

 

 さらに、最も近くにいるのがダニエル軍であり、人数的にも戦力的にも余裕があるので間違いなく誰かは見に来るだろうという予想を立てここで待機した。それは見事的中し、今こうして強敵セルヴァを捕らえることに成功する。

 

「……はは、陽菜乃嬢の実力を甘く見すぎていたな」

 

 籠の中で力なく呟くとセルヴァは意外なことにその場にへたり込んでしまう。演技、というわけでもないその様子に諸葛亮は首を傾げた。

 

「セルヴァ殿? どうかされましたか?」

 

 罠にはまった所で逆に楽しむような人物だと思っていた諸葛亮が意外そうな様子を見せると、セルヴァは苦笑いを浮かべて組んだ両手に額を押し付ける。

 

「いや、何。何でもないさ。……ただ、愛する孫娘を間違えてしまったのかと思うと、な」

 

 本気で落ち込んでいる様子を見せるセルヴァを見て、アニカ、諸葛亮、陽菜乃はそれぞれ苦笑いを浮かべている顔を見合わせた。この先代スペード殿は自他には厳しい人物であったが孫娘にだけはとにかく優しい。それだけ愛を注ぐ理由もあるのだが、ここまで落ち込まれるとは思っていなかったので罪悪感が胸に刺さる。

 

「…………ふぅ、いや、女々しかったな。ティナには後で謝るとして、私は何をすればいい? 伏龍殿。囚われの身だ、従おう」

 

 無理やり自分を納得させると、セルヴァはまだ力の入らない笑みを諸葛亮に向けた。潔い彼に、諸葛亮はにこりと笑い返す。

 

「では――」

 

 提示された条件に、セルヴァは少し拍子抜けした表情を浮かべた。それでもすぐに頷き、セルヴァは檻から解放され、一同は戦闘が起こっているはずの場所へと戻る。

 







                             



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