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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 4回目のチャイムが鳴り響く。岩山に到達したレイギア軍は、一途頂上を目指していた。その時だ、不意に戦闘を歩くレイギアが立ち止まる。どうしたのか、とはミヤコすらも尋ねなかった。彼女の耳にも、レイギアが足を止めた理由が聞こえてきている。

 

「あーもう暇暇暇ー−っ」

「エイラ、暴れまわるなってば。MP無駄遣いするとまた司馬懿さんに怒られちゃうぞ」

「だってもうずーーっとここにいるんだよ!? 敵も来ないし他の軍ガンガン戦闘してるし! あーっ、あたしも戦いたーーーいっ」

「おわぁっ! 分かったから筋肉ダンディ暴れさせんなってば」

 

 騒がしい声はエイラと咲也の声、そして岩を砕く轟音であった。会話の内容から測るに、司馬懿が待機の策を出し、突進型のエイラが痺れを切らした、というところだろうか。レイギア、マリーニア、アデラ、仙星がそれぞれ武器を構える。飛び出さないのは気配が近付いて来るからだ、とマリーニアが小さな声で教えてくれたので、ミヤコは自身の口を手で塞いで声を潜めた。

 

 そして、その時はやって来る。

 

「なぁエイラってば。あんまり離れすぎるとやばいって」

「大丈夫だよ、咲也君心配性だなぁ。大抵の相手なんてちょちょいっと――――」

 

 十数メートル離れた場所からひょっこりとエイラが姿を現した。かと思うと、間も空けずにレイギア軍を見つけてびしりと動きを止める。何事かと咲也も同じく顔を出し、硬直した。そんな彼らが動き出したのは正に一瞬の出来事である。

 

「「ぎぃやぁぁぁあああああっ! 大人げない大人が攻めて来たああああ!!」」

 

 打ち合わせでもしていたのかと思わず問いかけたくなるほどぴったりなタイミングで同じ台詞を叫びながら、エイラと咲也は一目散に踵を返して逃げ出した。

 

「おらぁ、待ちやがれガキどもが! 誰が大人げない大人だ!」

「あなた以外いないわレイギア」

「あなた以外の誰がいると?」

「レイギアさんの他に該当する人はいないよ」

「まあまあ皆さん」

 

 剣を片手にまるで悪人のような形相で駆け出すレイギアに冷静な合いの手を入れて、マリーニア、アデラ、ミヤコ、仙星がそれに続く。

 

 レイギア軍全員がエイラたちの消えた角を曲がり終えると、そこは道の延長であるが開けた場所で、登って来た道幅の3倍はある平地となっていた。しかし目に映る範囲にエイラたちの姿はない。

 

 姿を求めながら少しずつ前へと進んでいくと、突然視界がまばらに(かげ)る。最初に反応したのは仙星、続いてマリーニアが反応し、遅れてミヤコが反応する。レイギアとアデラは上の注意を仙星とマリーニアに任せ周囲に注意を向けた。

 

「人形?」

 

 視界に映ったそれにミヤコは思わず声を取りこぼす。振ってきたのは兵隊の格好をした小さなブリキの人形。当たったら少し痛いだろう、というぐらいだろう。だが、そう思った直後、片手で持てるほど小さかったはずの人形がぐんぐんと大きくなった。そして、レイギアたちを取り囲むように着地した時には人と同じサイズまでになっている。

 

「兵を増やす道具、と言ったところでしょうか。ですがこの程度――」

 

 三叉の槍を振るおうと仙星が前に出るが、何もない所から突然伸びてきた軟鞭に絡まれてしまい動きを止められた。

 

「あら、乱暴な引き止め方でごめんなさいね仙星さん。でも、お相手はそっちじゃなくてこっちをしていただけるかしら?」

 

 軟鞭の先、霧が晴れるように現れたのはイユである。エイラが描いた背景の陰に隠れていたらしい。にっと笑みを閃かせる彼の男にしておくにはもったいない鮮やかな容貌を真正面から見返すと、仙星も応じて笑った。

 

「ええ、私でよければ喜んで」

 

 槍を振るい軟鞭を解くと、仙星はイユと対峙するべく前に進み出る。心得ているのか、ブリキの人形たちはそれを邪魔せず、彼女が過ぎてからまた輪を作り直した。それを見送ってから、レイギアは剣を肩で背負う。

 

「はっ、雑魚がいくら増えたところで何の役に立つんだか。俺らと一対一が出来るほどの面子は揃ってねぇだろうが」

「ふぅん。言ったわね?」

 

 余裕を見せるレイギアの、耳元で囁かれた聞き慣れた声。その存在を忘れていたことを呪い、レイギアはすぐに剣を戻す。その途端に響き渡る金属同士の連続した激突音に、速すぎる攻防に、マリーニア、アデラ、ミヤコは総じて開いた口がふさがらない。彼女たちが気が付いた時、その姿は人形たちの囲いを抜けて一番広いところにあった。

 

 ナイフを器用に操りレイギア相手に攻勢に出ているのは、昔馴染みのユーリキアである。元は夫であるヴィンセントよりも強く、レイギアよりも強かった女性だ。全盛期からの衰えこそあるが、それでも若い面々に負けない技術と速さに受けながらレイギアは苦い笑みを浮かべる。

 

「てっめぇユーリ。不意打ちとはいい度胸じゃねぇか」

「負けた時の言い訳作ってあげたんじゃない。優しいでしょ?」

「ふざけろじゃじゃ馬」

 

 軽く言い放ち、レイギアは剣を力任せに振り切りユーリキアを遠ざけた。それにしか意味を持たない行動は、しかし望みどおり彼女を遠ざける。もっとも、成功したのは彼女が応じたため、とも言えるだろう。

 

 ちらりと視線を巡らせると、エイラとエイラが召喚した者たち、そして人形たちがアデラとマリーニアの相手をしていた。1対1すら1対多に変えられるエイラの能力はこういう時に恐ろしい。どこかに隠れているらしい頭脳派たちの行方も気にしつつ、レイギアは再びユーリキアに集中する。彼女の相手は気がそぞろな状態で出来るものではないのだ。







                             



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