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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 始まった対戦を、司馬懿・狂濤・咲也はエイラが描いた背景の後ろから眺めている。前から見れば何の変哲もない景色だが、後ろから見るとマジックミラーのように前面が覗けるのだ。とばっちりがなければ安全でありかつ大局がよく見える位置だった。

 

「おお、結構善戦するねあいつら」

 

 咲也が賞賛するのはアデラとマリーニアの相手をしているブリキの人形たちだ。あれは司馬懿獲得の際にエイラが得たアイテム、ブリキの兵隊(×50)である。仙星が予測したとおり、使用すると使用者の軍の兵となり敵を攻撃するように出来ている。

 

「当たり前だ。それくらいは役に立ってもらわないと困る。……が、どうにも苦戦が強いられる面子が来たな」

 

 腕を組み、司馬懿はため息を吐いた。他の軍ももちろん苦戦の可能性はあるが、戦闘力の高いレイギア軍が相手とは少々難しい。幸い、レイギアの相手はユーリキアが、仙星の相手はイユが、アデラたちの相手はエイラと人形たちで何とか回せている。どこかひとつの決着がつけばまた戦況は変わるのだが。

 

「そうだねぇ。まあ、あとはユーリキア殿たちに期待を――!? 司馬懿殿、咲也坊、逃げな!」

 

 司馬懿に同意し慰めるような発言をしたかと思うと、狂濤は珍しい大声を出して司馬懿と咲也の背中を押す。反射のように駆けだす司馬懿と咲也は、しかし次の瞬間大きな衝撃に襲われ目の前が真っ白になった。そして、気が付けば狂濤も含めた3人で待機会場に戻って来てしまっていた。

 

「……え?」

「な、何だ? 今、何が……?」

 

 何が起こったのか分からずにきょろきょろと辺りを見回す咲也と司馬懿の横で、分かっているらしい狂濤は仕方なさそうに眉を八の字にして笑っている。

 

「お帰り片倉君〜」

「いえーい、負け仲間ー」

「お疲れ様です仲達殿」

「大丈夫だったベか? 狂濤さん」

 

 立ち上がれないでいる3人の元に卯月、聖、龍真、春蘭がやって来た。

 

「あ、ただいま。なあ榊野、卯月っちゃん、今何があったん? 俺ら誰にやられたわけ?」

 

 状況が飲み込めない咲也は聖に腕を引かれて立ち上がり、メインステージを移している画面に目を向ける。同じく目をそちらに向けた司馬懿は、立ち上がるのに手を借りた龍真の頭を小突いた。

 

「あた」

「何故あいつを仕留めておかなかった」

 

 自分が脱落した理由を理解した司馬懿は龍真をじろりと睨む。理不尽な責めを受けて龍真は肩を竦めた。

 

「口先だけじゃなかったんですよ。強いです、あの男」

 

 あのような喧嘩の売り方をしてきた時は侮られたことへの不満や憤りしか浮かばなかったが、こうして負けてしまえば認めざるを得ない。その実力。口先だけではない腕前。

 

 全員が視線を上げて見据えた先にいるのは、青灰の髪をなびかせる剣を引き抜いたひとりの青年。その頭上の数字は、誰しもが予想しないほどに膨れ上がっていた。







                             



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