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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 突如天空から飛来した雷霆(らいてい)に、空気が、大地が、震動する。ミヤコやエイラが叫ぶ声は鼓膜を破らんとするが如く激しい雷鳴に掻き消された。自然の驚異としか思えないそれは、しかし土埃が風に吹かれて消えると同時に現れた姿に誰の手(・・・)によるものかが明らかとなる。

 

「よぉ。お前らだけで盛り上がってねぇで俺と遊べよ」

 

 遊びに混ぜろとせがむ子供のような口調で、雷の主――ジーン・T・アップルヤードは笑った。ともすれば喩えでしかないそれは、彼にとって真実「遊びの誘い」であると理解している者は一体どれほどいるであろうか。

 

 少なくとも、この場で最初に応じた男はそれを了解していたのかもしれない。

 

「おいユーリ、本命登場だから一時休戦だ。手ェ出すな」

 

 凶悪な笑みを浮かべてレイギアはユーリキアに背中を向けた。ゲーム的にはチャンスであるが、ユーリキアは素直に剣を引く。ユーリキアはちゃんと彼があの青年と戦うために下克上をしたことを見ていた。

 

 各地の戦闘がジーンへの警戒のために止まり、その中唯一ジーンに歩み寄ってくるレイギアを見てジーンは楽しそうに笑うと応じて歩き出す。

 

「お、あんたが相手か。レイギアっつったか?」

「レイギア“さん”だ、ガキ」

「ああ、悪ぃな。でも俺、尊敬出来る相手にしか敬称つけたくねぇんだ」

 

 怒りではなく、純粋な戦闘意欲がレイギアに満ちていく。それを感じ取り、ジーンはどんどん笑みを深くした。龍真の時とはまた違う、それ以上に強烈な容赦ない“強者”の匂い。最高級のそれに、ジーンの心はただただ昂ぶる。

 

 ふたりの距離が残り10歩という所まで近付くと、戦闘は突如始まった。ジーンの剣が突き出され、それに添わせるようにレイギアの剣が突き出される。それは互いの顔の横を通り過ぎた。動きが止まったのはその一瞬。続けてジーンは剣先を跳ね上げ、レイギアは斬り下ろす。しかし、どちらの剣もお互いを避け合ったためにバルーンを発生させるにもいたらなかった。

 

 そこから続けざまに二振りの剣は幾度となく交差する。先にユーリキアと戦った時以上の、先に龍真たちと戦った時以上の、速さと躊躇のなさが剣に宿り、これだけの広さがある場でありながらなお狭さを感じさせた。

 

「何という迫力……。それに、あのレイギア殿と渡り合うだなんて」

「お互いにまだ本気ではないのでしょうが、息が詰まりそうですね」

「こういうのも何だけど、これがただの企画で本当によかったわ。そうじゃないと人死にが出そう」

「レベルが違う、ってこういうのを言うのかしら。たまに目で追えないわ。ユーリキアさんは見えてらっしゃるわよね?」

 

 イユが問いかけると、仙星とアデラ、マリーニアも糸で引かれたように視線を彼と同じ方向に向ける。彼らの視線の先にいたのは、いつの間にか近付いて来ていたユーリキアだ。彼女は戦いに目を向けながら是を返した。

 

「あの坊やも相当強いけど、随分戦ってきたみたいだし、実力もまだまだレイギアの敵じゃないわね。ほら、遊んでる」

 

 顎で示され4人は視線を一斉にそちらに戻す。しかしユーリキアが言っているような「遊び」の要素は見て取れなかった。今でも攻防の激しさは衰えず、時折ジーンのバルーンが展開して赤みを帯びることでレイギアの方が上手だと予想出来るくらいだ。

 

 その彼女たちの様子に戸惑いを見て取ると、ユーリキアは軽く口元を引き伸ばす。

 

「ほら、よく見て。彼に防がれてるのもあるけど、何度かは自分で途中で止めてるわ」

 

 言われた内容を反芻し、イユたちは目を凝らして攻防を眺めた。そして、確かに言葉通りレイギアの剣が途中途中止まっているのが目に映る。気付いた面々からは次々に声が取りこぼれ、それを眺めるユーリキアは年下の面々の可愛い反応にご満悦だ。

 

「これは、さすがにあの御仁もここまでですかね」

 

 レイギア優勢の状況をはっきりと理解すると、アデラは確信じみた言葉を呟く。それに一同は言葉ではなく表情や動作で同意した。

 

 その中、唯一違う反応をした者がいる。エイラだ。納得していない、というよりもそちらに興味が行っていないように、きょろきょろと辺りを見回している。

 

「エイラちゃん? どうしたの?」

 

 気付いたマリーニアが問いかけると、エイラは頭を掻きながら、それでもなお視線を周囲に彷徨わせて唸った。

 

「うーんとさ、ミヤコちゃんがさっきっからいないんだけど、どこ行っちゃったんだろ? 軍表にはまだ名前あるから生き残ってはいるはずなんだけど」

 

 雷の襲撃を受けた時には確かにいたはず。エイラの言葉に一同は一斉に周囲に視線を巡らせる。そして、確かに彼女の姿がないことに気が付いた。どこかに隠れているのでは、という予測もしたが、普通の世界の人間でありながらもミヤコは想像以上に肝が据わっている。この程度で逃げ出すことは考えづらかった。

 

「……っ、まさか!」

 

 何かに気が付いたのか、マリーニアが少し青ざめて戦いの方向へと目を向ける。彼女が何を危ぶんだのか、エイラとイユ、ユーリキアには分からなかった。だが、同じ軍の仙星とアデラは気付いて同じく視線を戦いの場へと向ける。

 

 彼女たちの記憶に新しい、ミヤコの姿が消える現象。ロナルドを撃破したふたつのアイテムは、未だにミヤコの手の中だ。







                             



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