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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 再び時を遡る。ジーン撃破後平野を歩き続けたエイラ軍は、森に入る入り口で明月軍と邂逅した。無論すぐにエイラ軍は戦闘の準備に入るが、それを明月の一言が止める。

 

「エイラ、俺たちと同盟組まないか?」

 

 こういう利点があるから、こういう点で有利だから。それらを告げるより早く、明月は軽くそう言ってのけた。それに最初に驚いたのは戦闘になると気合を入れた明月軍の一般騎たちであり、唯一予想していたのか清風はため息をついて見せる。そして肝心のエイラといえば――

 

「あ、うん。いいよー。レギナルトさんの軍もアニカさんの軍も強敵揃いだしね」

 

 あっさりと了承を口にした。大将騎同士のひどく簡易な同盟締結の握手を前に、双方の一般騎たちは揃って笑い出す。その中、普通に考えればありえない事態にアデラとユーニスがそれぞれ頭を抱えた。常識的な彼女たちにはお気楽とも言えるやり取りがすぐには理解出来なかったのだ。

 

「じゃあついでにアニカちゃんの軍とも同盟してみない? ねぇ? セルヴァさん、趙雲さん」

 

 言うが早いか、ユーリキアは視線を森の中へと向ける。唐突な呼びかけに、他の面々はそれぞれの主を守るため周囲を固めた。油断なくユーリキアが視線を向ける方向へと幾対もの視線が集まる中、トーキはちらちらと左右に視線を彷徨わせている。しかしそんなことは関係なしに、一同の視線の先から呼びかけ通りのふたりが武器を構えたまま姿を現せた。

 

「さすがに勘のいい女性だな、ユーリキア殿。だが――我らがその要求を飲むとでも?」

「飲まないならここでご退場いただくだけだわ」

 

 海千山千の騎士と、伝説の名を冠するハンターは互いに一歩も譲らず視線を逸らすこともしない。笑顔のまま火花が散る。そのまましばし牽制のし合いが続くが、不意にセルヴァがちらりと視線を上げ、再び顔を下ろすと目蓋を閉じふっと笑った。

 

「あなたがいる軍を趙雲と二人で相手にするのはきつそうだ。明月殿の人柄を考えると罠ということもなさそうだし、分かった。アニカ嬢の所へお連れしよう。いいか、趙雲?」

「ええ、我らが争って最後の一軍に漁夫の利を得られてもたまりませんからね」

 

 素直に頷くと、趙雲は槍の穂先を下ろした。セルヴァは連れてきたのが彼でよかったと笑う。これがエルマやダニエルのようなタイプだとどう騒がれるか知れたものではない。

 

「めう、決まりネ?」

「ええ、もういいわよパレラ」

「あ、いないと思ったら」

 

 セルヴァたちが了承の意を示したと見て、彼らの背後に頭上からパレラが飛び降りてきた。その登場にセルヴァは「やはり」と笑い、趙雲はぎょっとした様子を見せる。

 

 実は、パレラはユーリキアが彼らの存在を指摘するより早く彼らに気付いていた。そして指摘した時点ですでに飛び出していたのだ。もしここでセルヴァと趙雲が戦うことを選択していたら、前方のユーリキア、後方のパレラから一気に襲われていただろう。

 

 九死に一生だったな、などと軽く笑うセルヴァに、ハロウィン杯の時の失態を思い出し趙雲は片手で目元を覆う。

 

 そんな趙雲を程々に慰めてから、セルヴァは彼と共に騙すことなく素直にアニカの所まで明月軍とエイラ軍を連れてきた。最初こそ戸惑ったり「またか」という表情をした面々だが、事実4軍中3軍がここに集まってしまった以上彼らとここで争うのはあまりにも損過ぎる。結局、アニカもまた明月と同盟の握手を交わすことになったのだ。

 

「では、早速残りの一軍にもお越しいただきましょうか」

 

 羽扇をぱたぱたと動かして、諸葛亮はにっこりと微笑んだ。一体どうやって、と視線が集まる中、諸葛亮は陽菜乃に声をかける。アイテム用のポシェットを持っていた陽菜乃は何を、と言われる前に要求されているものを予想して取り出してみた。

 

「はい、これですか?」

 

 取り出したのはドーム型の押下式ライトのような物で、諸葛亮は勘のよい陽菜乃に向けて満足そうな笑みで頷いてみせる。

 

「諸葛殿、それは?」

 

 陽菜乃の手元を覗きこみながら明月が尋ねると、諸葛亮は羽扇の先を陽菜乃の手元に向けた。

 

「陽菜乃殿、お手数ですが裏に書いてある説明文を読んでいただけますか?」

 

 依頼された陽菜乃は笑顔で是を唱える。元の世界で演劇部に所属する陽菜乃にとって数行の説明の音読など何ら苦にはなりはしない。

 

「アイテム名『ゲット・ユー』。宣言した参加者を1人呼び出す効果。対象はメインステージにいるもののみで、一般騎の場合はその人物のみ、大将騎の場合は軍下の全員がアイテムを使用した場所に現れる。――です」

 

 聞きやすく良く通る声での説明が終わると、アニカ軍の者も含め、数人がにやりと口元を引き伸ばした。このアイテムをレギナルトに使用すれば、確実に最後の一軍をここに呼び込むことが出来る。

 

 そうと決まれば三軍の行動は早く、アイテムを使用するべく空けた場所を中心に諸葛亮の指示通りに布陣した。明月、エイラ、アニカは大将騎ということで後方に下げられ、さらに背後には万が一の奇襲に備えダニエル、アデラ、リリトの騎士院生3人が配置される。また、乱戦による戦闘時には無力と判断された諸葛亮、陽菜乃、ユーニス、悠一は盾の意味も兼ねて大将騎たちの前に、回復役のリーゼロッテもそこに含まれ、それ以外の者たちはさらに前でそれぞれの武器を構えた。

 

「ちょっとガルシア? あんたいつまで人の肩乗ってんの?」

 

 唯一それに参加しなかったのは猫の姿になってアニカの肩にまるで動物型のマフラーのように巻きついているガルシアだ。アニカの問いかけには「めんどい」の一言を返し、そのまま少し身じろぎしてまどろんだ様子を見せてくる。人の姿の時なら甘えるなと放り出せるアニカだが、この姿だと動物虐待のようであまり気分がよくない。そもそも彼は最初から乗り気ではなかったようだ。参加・不参加の時に寝ていたために巻き込まれたのだと言っていたのを思い出し、アニカは彼を動かすことを諦めて軽く息を吐き出す。

 

 そして、まるでそれを狙っていたかのようにアイテムが使用された。僅かな間を空けて紫色に光る魔法陣が現れれば、そこには驚きや覚悟の表情を浮かべたレギナルト軍が現れる。







                             



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