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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 大津波のような水流に飲まれた直後、和俊は反射のように閉じていた双眸を開いた。目の前に広がるのはゲーム開始以前に短い時間のみ見ていた待機会場の光景で、目が合った何人かは意外そうな表情をしている。

 

「よ、カズ。おかえり」

「フェランドさんじゃ諸刃の剣すぎるだろ〜」

「つーかお前が自分を守らないの珍しいな」

 

 最初に声をかけてきたのはすぐ近くにいた咲也、聖、悠一の3人だった。どうやら少し前に帰ってきた悠一を迎えに来てそのままだったらしい。視線を巡らせるとすでに歩き出していた陽菜乃と卯月が振り向き軽く手を振っているのが目に入る。

 

 笑顔を返してから視線をスクリーンに持って行った和俊は、そのまま大きく伸びをした。

 

「そーだね。でもあそこでそのままやられるくらいなら自分の手で掻き乱したかったし、あんな乱戦じゃ僕がいても意味ないし。あとは力押しなら、力押しが出来る人を優先しただけだよ」

 

 最後まで残りたい、という意地がなかったわけではないが、最後の最後に勝てればそれで十分だ。和俊を抜けばその確率が上がるというのならば、それを阻害する理由が彼にはなかった。

 

「めうー、和俊は色々考えてるネ」

「ありがと……って、あれ? パレラ君も退場しちゃったの?」

 

 背後から声をかけられ和俊は驚いた顔で振り向く。一番近くにいたのはパレラで、少し離れた所に太史慈とアデラがいた。どうやら最後の攻撃で帰ってきたのは和俊、アデラ、太史慈、パレラの4人だったらしい。

 

「トーキが飲まれそうだったから助けたんだけど、トーキ下ろしてほっとしたところで水に飲まれちゃったヨ」

 

 残念そうに頬を膨らませるパレラに「ごめんね」と微苦笑を返してから、和俊はメインステージに残っている者を確認するべく改めて視線を上げる。すると同時に、フェランドのバルーンがイユによって破られた。そして和俊たちの近くにフェランドとネブリナが現れる。

 

「うむうむ、よい結果が得られたな。これで私の理論の正しさが証明されたようだ。ん、おお機略の君よ。よくぞこの私を呼んでくれた。おかげで楽しめたぞ」

 

 負けたことよりも理論の実践が出来たことへの満足が大きいらしく、フェランドはひどく楽しげに和俊の手を取って有無を言わさず握手を交わしてきた。握手されながら和俊は笑みを浮かべる。利用されたと不満をあげる人物ならまた違うが、こう破天荒で自由すぎる相手だと使う側も気負いしなくてありがたいようだ。

 

『さーて、フェランド登場による台風のような振り落としが終了し、現在メインステージにいるは、レギナルト軍ティナちゃん、ライナス、ヴィンセントさん。エイラ軍イユ、ユーリキアさん、アニカ軍リーゼちゃん、クレイドさん、アズハ、ガルシア。明月軍トーキ、清風、凌統の計16人。ここからどんな戦闘が繰り広げられるか! 泣いても笑ってもこれが最後の一戦なるだろうぜ。最終戦スタートだ!』

 

 クリフが宣言すると、メインステージに聞こえていないにも関わらずそれがスタートと錯覚するほどタイミングよく戦闘が始まった。

 

 ここからは見守るしかない。小さく息を吐くと、和俊は戻ってきた面々と共にそれぞれの席まで移動する。







                             



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