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<2012年秋企画 風吹く宮バトルロイヤル> 

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 イユがフェランドを倒すと、すぐに残った面々は再度戦闘を開始した。騒動前と唯一違うのは、同盟が破棄された、ということだ。

 

 各軍のメンバーが大幅に減った今、それぞれ減らし合うのが一番だと示し合わせずとも判断された結果であった。結果組み合わせとなったのはヴィンセントとユーリキア、ティナとアズハは先ほどのまま、クレイドの相手は別軍同士のライナスと凌統が行い、エイラとトーキが相対し、清風はイユと武器を交わらせる。

 

 アイテムやそれぞれの能力のおかげで無傷な者もいればもはやバルーンが真っ赤に染まっている者もおり、戦闘は激化する一方だ。

 

 その輪から外れているのはレギナルト、アニカ、明月の大将騎たちと、フェランド騒動の中で魔力をほとんど使い切ってしまったリーゼロッテ、そしてアニカの肩に乗ったままのガルシアの5人だ。しかし、彼らも彼らで緊張状態になっている。

 

 アニカはサブストライクを握り締めいつでも発砲出来る状態となり、明月も縄を構えいつでも捕縛出来る様子を見せていた。唯一レギナルトだけ逃げ腰だが、彼を狙えば別の者に狙われる可能性があるため兄かも明月も迂闊に動けずにいる。

 

 この状態は長引くかもしれない。と、待機会場でそんな予想が出て来た時、事態が突如動き始めた。身を寄せて何かを確認しあったかと思うと、眼鏡を外し髪をといてオフモードになったリーゼロッテが明月に駆け出す。

 

 すぐに気がついたトーキ、清風、凌統だったが、それぞれ強敵を相手にしているためすぐには反応が出来なかった。その間にもリーゼロッテは明月に近付く。

 

 そしてその姿が近付くと、明月は巧みな技術で縄を投げ付けリーゼロッテの腕を絡め取った。しかし、明月は違和感を覚えて眉を寄せる。自身の技術にはもちろん自信を持っている。だが、今のはあまりにもおかしい。手ごたえがなさ過ぎる。

 

 何故、と考えたその時、明月は捉えたリーゼロッテの陰から見えた光景にその理由を察した。しかし時すでに遅し。明月が気付いた次の瞬間連続した発砲音が響き渡り、続いてバルーンが割れる音が重なる。そして同時に、レギナルト軍の名前が軍表から消えた。

 

「あら、ヴィンスったら下克上も間に合わないなんて情けないわねー」

「……くそ、中途半端で終わってしまった……」

 

 つまらなそうに、悔しそうにそう口にしたのはナイフを回したユーリキアと茜日をグローブに変えたアズハだ。レギナルトがアニカの容赦ない射撃の的となってしまったため軍下のティナ、ライナス、ヴィンセントも合わせて退場してしまったのである。彼らが撃破数を稼ぎ終わっているのは自他共に知れることだったが、同時に、バルーンの耐久度が規定値以下になっていることも周知の事実であった。

 

 彼らが残念がったのはその一瞬。次にはユーリキアはクレイドに向かい、アズハは明月に向かった。

 

 明月危うしと見ていち早く反応したのはイユと相対していた清風だった。イユを一度遠ざけると、すぐに身を翻し明月の元へと向かう。

 

「まっ、あたしを無視するなんていい度胸ね清風さんったら」

 

 茶化した口調で清風を追いかけようとするイユだが、それは背後から彼を呼ぶ声に止められてしまった。

 

「イッ、イユさん、イユさんへるぷみー!」

 

 助けを求めてきたのは見捨てられようはずのない大将騎のエイラだ。どうやらクレイドの相手をユーリキアが行うようになったため手の空いた凌統がトーキと共にエイラの相手をするようになったらしい。

 

 効率的に魔法を使えるエイラは余裕がある時は強いのだが一回焦ると行動が雑になる。駆け出しとはいえ肉弾戦が可能なトーキとその相棒、そして幼いとはいえ武技の腕は確かな凌統に攻められてはたまったものではないらしい。

 

 放っておいたら確実にエイラが破れ、ダメージが半分以上溜まっている軍下のイユとユーリキアも同時に敗北となってしまう。そして何より騎士として助けを求める声を無視できようはずもなく、イユはすぐに清風を追うことを諦めエイラの救援に向かった。

 

 そうして自由になった清風はすぐに明月の元へと駆け寄り、大剣に変化させた茜日を明月に向かって振り下ろしていたアズハと相対する。体躯がまるで違う2人が剣で押し合えば、待機会場でそれを見ていた者たちは清風が押し切られる、と予想した。

 

 その予想が現実となったのは押し合いがはじまってから瞬きほどの間を空けたのちのこと。あまりに早すぎる陥落に予想以上の力量差があると考えたのは清風という男を知らぬ者たち。彼を知る明月は、リーゼロッテを抑えてアニカの襲撃に備えることにのみ心を向けたままでいる。

 

 そして清風の力量を理解した者が今1人増えた。相対するアズハだ。清風が受けの姿勢を崩した次の瞬間、アズハは袖を引かれ足を払われた。転ぶ、までは行かなかったが、見事に体勢を崩される。それと同時に振るわれた剣に容赦はなく、清風の剣はアズハの首元を過たず捉えた。

 

 発生したバルーンは真っ赤に染まり、あと一撃でも当たればアズハは退場する他ないことを示している。片手で剣を扱っているにも関わらず見た目以上の威力を当てられアズハは軽く目を見開いた。

 

 しかし驚いて行動を止めたのはその僅かな間のみ。アズハはすぐに体勢を立て直し追撃を仕掛けてきた清風の剣を大剣で受け止める。甲高い音がすると、清風は惜しむことなく彼から離れた。

 

 アズハと清風の間には互いの剣が届かぬほどの距離が開く。だがそれに互いに安心することはせずに牽制は続いた。清風もアズハも理解しているのだ。僅かにでも気を抜けばその瞬間に間合いを詰められ攻撃を仕掛けられる、と。

 

 アズハはあと一撃当たれば退場であり、対する清風は一撃で耐久度の半分を持って行かれそうなアズハの攻撃力の高さに警戒している。

 







                             



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