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第4話 「私はティナ」
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 参ったな。珍しく早起きなんてしたらこれかよ。早起きは三文の得なんて嘘だよな。
 壁の陰に隠れながら、エルマは口には出さずに文句を重ねる。他の誰でもなく早く起きてしまった自分に。いつもならぐっすり寝ている時分なのだが、今日は珍しく早くに目が覚めてしまった。仕方なくロードワークをしているところで、この場面に行き当たってしまったのだ。本当は顔を出して挨拶のひとつでもしようかとしたのだが、ティナがまたらしくない喋り方をしている。その上、年上の男を泣かしたと来た。さすがに客人相手にそれはと注意をしようかと思えば、今度はティナが泣き出してわけの分からないことを言い出している。
「……まぁたメンドーそうな事情ありそうだなー」
 ポツリと呟いてから、エルマは再びティナに視線を戻した。
 思えば不思議は娘(やつ)だ。自分がここに入ったのは2年前。当時14歳のはずの彼女は身体に一切の変化のない状態で、2年経った今、自分の前にいる。それが不思議のひとつ。女の子なのだから小柄なのはまったくおかしくない。だが成長期に分類される年の頃まったく成長しないのはおかしくないだろうか。それに、時々エルマはティナが本当に年下かと疑ってしまうことがある。それほど彼女の言動は大人びている。ませているとか、そんなレベルの話ではない。その言動にふさわしいだけの年月を過ごしてきたと思わせる何かがあるのだ、彼女には。
「ん?」
 少し視線をずらしたエルマはその先に見慣れた姿を見つけた。汚れた黄土色の毛皮と珍しい赤い目をした子狐だ。最近エルマたちクラブ隊の団舎に迷い込んできたそれは、まるで隠れるように身を伏せてある一点を見つめている。その視線を追って、エルマは首をかしげる。
「――ティナ? 何であいつティナのこと……構って欲しいのか?」
 それくらいしか思い浮かばない理由を2、3度考えてから、エルマは息を吐き出す。これ以上ここにいても仕方ないと判断したのだ。ティナにしろ狐にしろ、どんな理由があろうと関係ない。エルマはそう結論付けて踵を返す。向かうのは自分の団舎。ロードワークを続けるには、日が昇りすぎてしまった。




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