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第6話 「それぞれの思い」
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 同時刻、クレイドは予想外――否、予想通りの訪問を受けていた。客は現ハート。真摯な顔つきで尋ねてきた彼に、クレイドはわざと軽口で用向きを尋ねる。
「武器についてお訊きしたいのです。お答えください」
 強く芯の通った声に、クレイドは片頬を上げた。
「何が訊きたい? 内容によっちゃ答えねーぜ?」
「俺たちが武器を使いこなせない理由が誰にあるかを」
 ピクリと、クレイドの眉が動く。
「――誰にあると思ってる?」
 訊いてもアズハはすぐには答えなかった。考えてないのではなく、一応遠慮しているのだろう。彼が考える"原因"は、彼にとってはよき友人であるから。ややあって、アズハは意を決して口を開く。
「――ティナに。俺は先代スペードに隊長の武器が"目覚める"ためには《スペード》の力が必要だと聞いたことがあります。俺たちが全員武器を開放できない現状にあってティナが力を使えないことが事実である以上責任はやはりティナに――!!」
「アズハァッ!!」
 険のある声に言葉を遮られアズハは思わず怯んだ。唇を一文字に引き結び緊張の面持ちで立ち尽くすアズハに、クレイドは皮肉気に笑う。しかしその目は笑っていない。ただ怒ってもいないのだ。それは彼がよくエルマに向けるものと酷似している。年長者が、出来の悪い年少者を見る時のそれに。
「帰んな。もう日が暮れる」
 あごで示された窓の外はすでに群青を伴った朱色に侵されていた。食い下がろうとしたアズハも、目で圧迫されるといかにも仕方ないといった風に引き下がった。アズハが部屋から体半分出たところで、クレイドは彼を呼び止める。振り返ったアズハは、近く50に足を踏み入れようとしている老練な騎士の衰えることのない気概に圧倒されることになった。
「そんなこと言ってるうちはたとえティナが力を使えるようになっても茜日は応えちゃくんねぇぜ。精進しな」
 それは激励か脅しか。定かならぬ真意を探り、アズハは渇いた喉を鳴らす。



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