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第6話 「それぞれの思い」
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 うっとうしい。わずらわしい。
 薄く霞がかった白い世界で、ティナは泣き崩れているレティシアを冷めた目で見下ろしていた。
「あてつけがましいよレティシア。泣かないで」
 『彼女』に向けて発した声は届いているのか届いていないのか分からないが、レティシアは涙に濡れた顔を上向ける。ティナと同じ顔。同じ髪の色。同じ目の色。同じ肌の色。しかし決定的に瞳が違った。ティナの目は怒りに似た精気に満ち、レティシアの目には自らも含めた全てに対する絶望が映っている。哀れみを感じさせる視線に、ティナは苛ついて声を荒げた。
「そんな目で見ないでっ、私はあんたより強いんだから! あんたに哀れまれなきゃならないこと何もないんだからっ!!」
 レティシアは涙をこぼしながら、なおもティナを見つめ続ける。
「あんたなんて大っ嫌いよ……! 狼籐が送ってくるおじいちゃんのイメージにだっていつもあんたがいる。いつもあんたが私の邪魔をしてるっ!!」
 滑稽だ。強いとわめきながら精神的に圧されているのを感じる自分にティナはそう考えるほかなかった。息が上がるほど大声を出したティナに向かい、レティシアは小さく口を開く。何度も何度も同じ言葉を紡いでいるらしく、唇は同じ動きしかしていない。だが、その声がティナに届くことはなかった。不愉快そうにティナは眉根を寄せる。
 ティナは気付いていなかった。レティシアの声が届かないのは、ティナが『彼女』を拒絶しているから。それなのに姿を現しているのは、理性と結びつかない何かが『彼女』を求めているから。
 ティナは気付かない。レティシアの額にうすぼんやりと輝く赤い光に。
 ティナは気付かない。その光が自分にないことに。
 ティナは、まだ気付いていない。


 目を開けると、周囲はすで夕暮れに染まっていた。斜陽で朱色に塗り替えられた木々や草々。湖は陽光を反射して一層夕日をまばゆくさせる。寝すぎた、とティナが後悔するまで、さして時間はかからなかった。



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