戻る   

第2話 「消えた存在」 1
/

『ねぇ、レティシア』

――――違う

『レティシアってば』

――――違うっ

『レティシアだよ』

――――もう――――っ!!


     *     *     *


「違うって言ってるでしょーーーーーーっっ!!」
 絶叫。瞬時に静まり返る一面。ぼんやりしていたティナは三方から頭を叩かれて前のめりになりながら正気を取り戻す。はっきりとした視界で最初に目に入ったのは真正面にいる初見の森林調査団の者達。次に左右に立ち並ぶ団員達。彼らはどちらもポカンとしている。それをしっかりと目に焼き付けてしまうほどじっと見てから、ぞっとするほど怒りに満ちた視線に気付いてそろりと振り返った。ぶつかったのは自分を見下ろしてくる三対の視線。彼らが背中に背負っているオーラに冷や汗が流れる。伝わってくるのは、「終わったら覚えて置け」という脅しの一念……。
「あ、はは、は……」
もう笑うしかない。



 同時刻、同室内にて。森林調査団の団員の中で1人の青年が他の仲間とは違う意味で言葉を失っていた。彼の視線に写っているのは青くなったり赤くなったりしている小さな大隊長スペード。
 紫の髪。紫水晶の双眸。
 記憶の中に残る幼馴染と重なる姿が、彼の思考を停止させた。


 

このページのトップへ戻る