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スペードの狂犬と爆弾娘
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 そして数ヵ月後。

「ルゥてめぇこら、また寝てる隙に人の髪いじりやがって!」

「べーーっだ! あんな所で寝てるジーンさんが悪いんですよぉ」

「ほおおお、その結果がこのわけ分からん髪形かおい」

「わけ分からんとは何ですか。覚えたての編み込みハーフアップです」

「知るか、んなこと。髪いじりてぇならフィーリアでもジゼルでもカーシェでもいんだろが」

「女の子の綺麗な髪ぐちゃぐちゃにしちゃう前にジーンさんのどうでもいい髪からやろうというルゥの優しさが分からないとは悲しい人ですぅ」

「よーしよし、お前の気持ちは分かった。遊んでやるからこっち来い」

「……ルゥ忙しいから遠慮するですぅ」

「逃がさねぇぞ?」

 言い合って追いかけっこを始めるジーンとルゥを見て、そばにいたミツヒたちはそれぞれの反応を見せる。

「ふふ、元気ですねぇジーンさんもルゥさんも」

「あーあ、またやってるよ。飽きねぇなぁあいつら」

「ジーンってば大人げなーい」

「と、止めた方がいいですかね?」

「大丈夫だと思うわ。いつものじゃれ合いだもの」

 カーシェの一言にそれもそうかとその他も含めた一同が納得しかけたその時、ジーンから逃れてきたルゥが輪の中に飛び込んできた。

「うわああああん、みんな助けてくださいですよぉ! ジーンさんが苛めるですぅ」

「いじめじゃねぇ。……が、全員相手ってのも別にいいぜ、面白ぇじゃねぇか」

 言下にジーンの周りに魔力が渦巻く。炎がちらつく中言葉通り面白がってしかいないジーンに一同が呆れつつ警戒し始めた時、それまで息を整えていたルゥがどこからかかぼちゃを取り出した。

「えっ、ちょ、ルゥ待っ……!」

「ジーンさんの馬鹿ああああ!!」

 そして、フィーリアの制止の甲斐なくそれはジーンに向かって投擲される。その瞬間、当然起こった大爆発に、周囲は濃い黒煙に包まれた。咳き込む者こそいるがどうやら火薬が少なかったらしく幸い誰も怪我はしなかったらしい。しかし、風が煙をなぎ払う頃、その場にいた全員が煤塗れになっていた。

 沈黙は一瞬。次の瞬間、全員の目がジーンとルゥに向く。そして、大きな吸気の後、それは発せられた。

 

「「「「「ふたりともいい加減にしろおおおおおお!!!!!」」」」」

 

 怒号が響くと、ジーンとルゥは示し合わせていたかのように同時に逃げ出す。その時大爆笑しながらというのが実にふたりらしいと誰もが思った。

 

 

 スペード騎士団は本日も、騒がしく平和であるようだ。

 

 



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