第10話 「開戦! 騎士対魔者」 3
進軍した騎士団を迎えたのは氷雪の雨だった。
「散れっ!!」
ややタイミングをずらして3つの声が同じ命令を告げると、騎士団は盾を上向けたり武器を振り回しながらいくつかのまとまりになりながら多方向へ散っていく。軽症を負った者が数人いるようだが大怪我を負った者はいなさそうだ。安堵したアズハは隊列を整えるように命じようと息を吸い込む。だが、それが声となるより早く、彼目掛けて飛翔してきた何かに次の行動を封じられる。
とっさに茜日を傾け盾代わりにすると、金属がぶつかり合った時に似た高音が響いた。襲撃者は限りなく人に近かったが、やはり魔者。不敵な笑みを浮かべたそれは尋常でない長さの爪で茜日と競り合っている。
「貴様……っ!!」
対峙する魔者の姿を見てアズハは驚愕と怒りをない交ぜにした顔をした。その彼に、魔者は余裕の態度を取る。
【お久しぶりですねアズハ・ヒルク。あの子供が随分大きくなったものだ】
「何故貴様がいる……っ。貴様はあの時確かに――」
【斬られましたね、先代ハートに。ですが私は魔者。何度だって甦りますよ。そう――"あなたがいる限り"】
「――――っ!!」
言葉が終わるより早く茜日が魔者の爪を振り払い袈裟懸けに振り下ろされる。しかし魔者は難なくそれを避けて見せた。怒りに任せた攻撃に当たるほど鈍くはないし、当たってやるほど親切でもない。
【命令がありましてね。あなたはここで、このメーリッドが足止めいたします】
せいぜい遊んであげますよ。そう嘲笑ったメーリッドにアズハは手が白むほどに茜日を握り締めた。その背後から、魔者たちに追いやられてスペード隊とダイヤ隊が姿を消す。